第17話 港町フェリトアへ 2
「魔動車って……あの魔動車ですか?」
「うん、あの魔動車。魔導研究所の倉庫の奥に置いてあるあれ。リサラが想像してる奴だよ」
魔動車というのは、文字通り魔力で動く乗り物の事である。
動力となるのは、空気中に含まれている魔力や自分の魔力なので、馬車と違って馬を休ませる必要もなく、魔力を魔動車の動力炉に流し込むだけでずっと走り続けることが出来る優れた乗り物なのだ。
ただ、御者の失業やら事故の可能性といった色々と面倒な問題もあったりして、結局魔動車が世の中に普及する事はなかった。
「いつの間に研究所の倉庫から持ち出してたんです、センパイ?」
「いや、研究所からは持ち出してないよ。流石に試作型とはいえ、この世に1台しかない貴重な大型魔道具を持ちだしてたら大問題だもの」
カティアにそう答えながら俺はストレージを地面に展開させ、その中から大きな金属の物体が俺達の前に姿を現した。
「……じゃあ、これは何なんです? この世に1台しかないって、今さっき言いましたよね?」
若干呆れたような表情を浮かべながら、リサラが現れた魔動車を指差す。
「これは俺が元上司に作らされた試作2号機とでも言えばいいのかな。研究所にあった奴の改良型みたいなもので完全に別物だからね」
ポンポンと呼び出した魔動車を軽く叩いて、ぐるりと前に回り込んで運転席の方へと移動しながら、言葉を失っているリサラに説明する。
すると、魔動車をじーっと眺めていたカティアが口を開いた。
「センパイ。これ作るのかなり苦労したんじゃないです? 軽く見た感じ倉庫にあった奴よりも複雑な術式がいっぱい組み込まれてますよね?」
「改良型としてかなり気合を入れて作らされたからね。まぁ、今になって思うと色々と詰め込みすぎた気もするけど……」
もっとスピードを出せるようにしろ、乗り心地を良くしろ、燃費をどうにかしろ、耐久性を高めろなどといった、ありとあらゆる注文という名の無茶振りを元上司から受けて、何ヶ月も改良をし続けた結果完成したのがこいつである。
生憎、誰かの前でお披露目するような機会はなかったから、倉庫からストレージの中に移してからもずっと眠っていた訳だけど。
「ま、とりあえず2人も早く魔動車に乗っちゃってよ。通りすがりの誰かにこの魔動車を見られて騒ぎにでもなって、門の方から兵士達にやって来られても困るからね」
一足先に魔動車の運転席に乗り込みながら、俺はカティアとリサラに声を掛ける。
「はーい、わっかりました~。えへへ。私、一度でいいから魔動車に乗ってみたかったんですよねー。どんな乗り心地か楽しみですよ~」
「わ、分かりました。失礼します……」
期待で胸を膨らませている様子であっさりと車内に乗り込んだカティアに対して、リサラは何処か不安そうな表情を浮かべながら、恐る恐るといった様子で魔動車に乗り込んだ。
「それじゃあ、フェリトアを目指して出発するよ!」
2人が車内に乗り込んで、ドアが閉まったのを確かめてから、俺は運転席の足元に付けておいたペダルを踏み込んで、魔動車をゆっくりと加速させていった。




