第16話 港町フェリトアへ 1
2章開始です
徹夜明けで王城に向かい、そこで研究室の解散を言い渡され、研究所に戻ってくればクビを言い渡され、その後も王都で散々な目に遭った日。
俺は一緒にクビになった部下であるカティアとリサラの2人と一緒に、王都の南方にある港町フェリトアを目指していたのだが──。
「へくしゅん──っ!」
王都を出て、フェリトア方面に続く街道を10分ほど歩いていると、何の前触れもなく突然くしゃみが出た。
すると、俺の隣を歩いていたカティアがすぐに声を掛けてきた。
「随分と可愛いくしゃみですね。風邪でも引きましたか、センパイ? 寒いなら可愛い後輩がくっついて暖めてあげましょうか?」
まるでおんぶをしろと言わんばかりに俺の背中に飛びつこうとしてきたカティアの額に手を伸ばして、くっついて来ないように必死にカティアの体を制する。
「カティアはただ単にもう歩きたくないだけでしょ。い、ら、な、い、よ!」
「そうですよ。歩くの疲れたんです〜! いいじゃないですかセンパイー!」
すると、俺の指摘にとうとう開き直ったようにカティアが白状しながら、尚も強引にこちらにくっつこうとしてくる。
「嫌だよ! そもそもまだ10分ちょっとしか歩いてないじゃん!」
「研究室に引きこもってた私達にしてみれば、10分でもかなり歩いてる方じゃないですか! かなりの重労働ですよ! だからおんぶしてくださいよー、センパイのケチー!」
必死にカティアの額を手で押さえてこちらに近づけさせないようにしていると、俺達の前を歩いていたリサラがこちらを振り返りながら呆れたように溜息を吐いた。
「いつまでじゃれあってるつもりですか、2人とも。この調子だと、いつまで経ってもフェリトアに到着しませんよ?」
そんなリサラに対して、俺にくっつこうとするのを止めたカティアがブーブーと抗議の声をあげた。
「そんなこと言ったってさー。徒歩でフェリトアに向かってるんだから気にするだけ無駄じゃない? どれだけ急いだところでフェリトアに到着するには1週間は軽くかかるんだしさ~」
「うっ……。それは、そうですけど……」
カティアの指摘に何も言い返すことが出来ず、リサラは言葉を詰まらせた。
そもそも王都から港町フェリトアまでは、馬車を利用して何も問題が起きなかった場合で約3日ほどかかる。
それが徒歩の場合となれば、どんなに頑張っても馬車の倍以上の時間がかかるのは考えるまでもないだろう。
「馬車が使えればよかったんだけどねー」
「すっかり暗くなってるってのもありましたけど、案の定借りようとしたら断られちゃいましたからね~。だからこうして徒歩でフェリトアに向かってるわけですし」
俺の言葉にカティアが補足をし、それを聞いていたリサラはガクリと肩を落とした。
そう。俺達は最初から徒歩でフェリトアに向かう予定ではなかった。
なにせ俺達は魔道具と魔法に詳しいだけの魔術師である。強化魔法と補助魔法を常時発動させて数日間不眠不休で働いていたくらいで、実際の体力は絶望的にないのだ。
だから王都で馬車でも借りれないかと思っていたのだが、レストラン等と同じように断られて馬車を借りる事が出来なかったのだ。
「しかし、リサラの言う通りでもあるし、カティアの言う通りでもあるんだよねー。んー……」
そう呟きながら、俺はきょろきょろと周囲を見回し、人目が無いかを確認していく。
人の気配は特になし。
照明魔法などの強い光を放つ魔法を使わなければ、これからしようとする事も王都の方からは絶対に分からないだろう。
「センパイ、急に周りを気にし始めてどうしたんです?」
「いや、歩くのに疲れたから秘密兵器を使おうかなって思ってね。だから、俺達以外の人がいないかを確認しておきたかったんだ」
周囲を見回す俺の側にやってきて、一緒に周囲を見回しているカティアにそう答える。
よし、馬車も来る気配はないし大丈夫だろう。
「人目を気にするような物って……いったい何を使うつもりなんですか?」
「ん? 魔動車だよ、魔動車」
訝しむような視線を俺に向けるリサラに対して、俺は得意げに答えた。




