第15話 さらば王都
旅の目的地も無事に決まり、あとは王都を出るだけとなった。
「さて、話もまとまった事だしそろそろフェリトアに向かおっかー。2人とも、持っていきたい荷物は無いよね?」
俺はぐーっと大きく体を伸ばしながらベンチから立ち上がり、座っているカティアとリサラに声を掛ける。
念の為、忘れ物などがないかの最後の確認である。
「大丈夫でーす。私は身の回りの荷物とかは全部研究室に置いてましたからね」
「私もカティアと同じです。まぁ、その方が楽だったからですけど……」
どうやら2人とも忘れ物はないらしい。
「なら良かった。それじゃあ門の方に行こうか。あんまり遅い時間だと完全に門を閉められちゃうし」
「はーい! 行っちゃいましょ~!」
元気なカティアの声を合図に、俺達は噴水広場から移動する事にしたのだった。
♢
噴水広場を後にして、そのまま王都の大通りを歩いていき、俺達は王都の南門に辿り着いた。
夜という事もあって、王都から出て行こうとする人影は全く見当たらなかった。
「む……お前達、こんな時間に何の用だ」
門の方に近づいていくと、門番の兵士がこちらに声を飛ばす。
すっかり日も落ちて暗くなっている事もあり、長槍を手にした兵士の声からは警戒の色が強く感じられた。
「俺達はこれから港町フェリトアに向かいたいんです。門が完全に閉まるにはまだ大丈夫な時間ですよね?」
俺はその場で一度立ち止まってから、目の前にやってきた兵士に目的を伝える。
「こんな遅い時間からフェリトアに向かうのか? 見た感じお前たちは冒険者にはとても見えないが……。知っていると思うが、夜になると魔物が活発になる。それに、魔物だけじゃなく野盗の類に遭遇する可能性だって高くなる。痛い目に遭いたくないなら、フェリトアに向かうのは夜が明けてからの方がいいと思うぞ」
目の前の兵士は値踏みするような視線をこちらに向け、夜が明けてからフェリトアに向かう事を提案してきた。
初対面の人にもこうやって忠告してくれる辺り、この門番の兵士はかなり親切な人の様だ。
「ご忠告ありがとうございます。ですが安心を。俺達はこう見えても多少の魔法の心得などがあるんです。そこら辺の冒険者や、魔物や野盗にも後れは取らないつもりですよ」
「……そこまで自信満々に言うならこちらからはこれ以上何も言わない。精々大きな怪我をしない事だ。それじゃあ、今から門を開けてやるからさっさと通るといい。おーい! 命知らずな通行人がやってきたー。開門してやってくれー!」
俺の言葉を聞いて呆れたように溜息を吐いた兵士は、門の方に向かいながら大きな声で仲間に呼び掛けると、それに応えるようにゆっくりと門が開いていく。
……別に命知らずのつもりではないのだが。まぁ、いいや。
こんな視界も悪い時間帯に町の外に出ようとしているのだから、命知らずと思われてしまうのも仕方ないだろう。
「いよいよですね~、センパイ。これから色んな事があると思うと、私は今からとっても楽しみです」
すると、兵士と入れ替わるかのように俺の隣にやってきたカティアが期待を隠し切れない様子で話し掛けてきた。
「私はカティアと違って色々と不安ですけどね……」
そんな言葉を口にしながら、両手を腰にあてたリサラも俺の側にやってくる。
不安の言葉を口にしたリサラだったが、その様子からはむしろ……。
「その割にはリサラもなんだか楽しみにしてるように感じるけど? ここは素直に楽しみって言ったらどうよ」
「なっ!? べ、別に私は……その、少しくらいしか……」
俺の指摘にリサラは動揺した様子でごにょごにょと小さな声を漏らした。
その反応だけでもう楽しみにしているのがバレバレなのをリサラは分かっているのだろうか。
それを指摘するのは流石に可哀そうだからやめておくけれども。
「おーい、門が開いたからもう行っていいぞー! 気を付けろよー!」
ガコンッという大きな音が目の前の門から聞こえてきて、開門作業をしていた先程の兵士から行ってもいいという声が飛んでくる。
「はーい! それじゃあ、今度こそフェリトアに行きますか」
俺はその声に応えるように手をあげ、2人に視線を向けると、隣に立っていたカティアが前に駆け出してこちらに振り返り、
「センパーイ、フェリトアに着いたらまず何をやりたいですー?」
そんなカティアの問いかけに俺は迷う事なく、
「とりあえず、ふかふかのベッドで昼までぐっすり寝たいね」
そう答えながら、隣に立つリサラの手を引いて歩き始めた。




