第13話 今後の話し合い 3
「お、王都から出ていく……ですか?」
「うん。こんな状況じゃ、とてもじゃないけど普通の生活なんて送れそうにないからね。それだったら、王都にいるよりも他の町や国に行って、そこでのんびりと過ごしてる方が良いのかなーって思ってね」
困惑している様子のリサラに対して、俺は王都を出ようと思った理由を説明していく。
すると、左に座っているカティアが俺の服を引っ張りながら話し掛けてきた。
「センパイ、センパーイ。因みに目的地はもう決まってたりするんです?」
「それはまだ何も決めてないけど……。俺の目的地なんかを聞いてカティアはどうするつもりなのさ」
逆にこちらからカティアに問いかけると、カティアは両手をパンと叩いて、ニコニコとした表情を浮かべながら口を開いた。
「そんなのセンパイに付いていくからに決まってるじゃないですか~!」
「えっ、俺に付いてくるつもりなの?」
予想外の返答に、思わず素でカティアに聞き返してしまう。
そんな俺の問いに対して、カティアはさも当然のように答えた。
「当たり前じゃないですか〜。寧ろ、何でセンパイは意外そうにしてるんですか? センパイは私の面倒を見る責任があるんですから」
「いや、そんな責任あるのは初耳なんだけど……」
俺の言葉にショックを受けた様子もなく、カティアはそのまま流れるように自然な動きで俺の左腕をギュッと抱きしめた。
振りほどこうにも、どういう訳だか全く腕を動かせなかった。
えっ、待って。本当に1ミリも動かせないんだけど。いったいどういう抱き着き方をしてるんだこいつ……!
「別に私が付いていったっていいじゃないですか~。一人旅するよりも、可愛い後輩と一緒の旅の方が絶対楽しいですよ。それとも、センパイは私と一緒は嫌ですか……?」
「うっ……そ、そんな事はないけど。別にカティアが嫌って訳でもないし……」
潤んだ瞳のカティアに上目遣いに見つめられ、振りほどくのを諦めた俺は視線を逸らしながら答える。
それを聞いたカティアはぱあっと表情を明るくして、俺の腕から手を放し、今度は俺にガバっと抱き着いてきた。
「そういう事なら今後もよろしくお願いしますよセンパイ! もう嫌って言ったって遅いですからね~。私は絶対センパイに付いていっちゃいますから。えへへ~っ」
「……はいはい。今更嫌なんて言わないよ。これからもよろしくねカティア」
呪いのアイテムか何かかと突っ込みたくなるのを我慢する。
なんだかうまい具合にカティアに振り回されたような気分がするが、まぁいいだろう。
カティアが言ったように、一人旅をするよりかは一緒に旅をした方が退屈は絶対しないだろうし。俺もそんな気がした。
そうなると、隣にいる彼女にも声を掛けるべきだろう。二人で旅するよりも、三人で旅した方がもっと楽しいだろうから。
俺はふぅと息を軽く吐いてから、右にいるリサラに視線を向ける。
「カティアは俺と一緒に行くことになったけど、リサラはどうする?」
「わ、私ですか……?」
リサラはいつもの落ち着いた様子と違って、視線をあちこちに彷徨わせながら悩んでいるようにも見えた。
「もしまだ何も決まっていないならさ、リサラも俺達と一緒に行かない?」
「私達も一緒に行くってだけで、何処に行くとかはまだ何も決まってませんけどねー」
リサラに手を差し出していると、俺の背中にくっついているカティアが余計な一言を付け加えてくる。
「確かにその通りだけど。それはこれから考えるからまだ決まってなくてもいいんだよ! 今は一緒に行くって事が大事なんだから!」
後ろにくっついているカティアに軽く文句を言ってから、俺は再びリサラに向き直る。
折角いい感じの振舞いが出来てた気がしてたのに、カティアのせいでいつもの緩くてぐだぐだな感じになってしまった気がする。
どうやら俺には変にかっこつけるような真似は向いていないらしい。
「はぁ……。全く、室長もカティアもこんな状況だというのに相変わらずですね。もう少し危機感という物を持った方がいいと思いますよ?」
すると、俺とカティアのやり取りをみていたリサラは何処か呆れたような、嬉しそうな表情を浮かべながら、仕方ないといった様子で俺の手を取った。
「これでも危機感は持ってるつもりなんだけどなぁ。それより、これはリサラも一緒に来てくれるって意味で受け取ってもいいんだよね?」
俺はリサラの柔らかい手を握り返して、期待のこもった視線をリサラに向ける。
リサラは照れたように俺から視線逸らしながら口を開いた。
「……そう受け取ってもらって構いませんよ。室長とカティアの2人だけだと、一体何処で何をやらかすか分かりませんからね。私がちゃんと責任をもって見張る必要がありますもの」
そういう訳で、俺達は3人一緒で仲良く王都から出ていく事になったのだった。




