第10話 これで無職
◇◇◇
ディラルト達が部屋から出て行った後、魔導研究所の所長であるラウス・ゲッシルーは肩を震わせながらドアを睨みつけていた。
「っ〜!! 最後の最後まで腹が立つ連中だ! 無能な平民の癖に偉そうに好き放題言いやがって! あの女2人も曲がりなりにも貴族の一員であるなのに、平民のディラルトと一緒になって俺のことを色々好き勝手に言いやがって……! くそっ! くそっ! くそっ!」
苛立ちを抑えきれない様子でラウスはダンと机を叩いて、ディラルト達が置いていった書類の山を草を毟り取るように周囲に投げ散らかしていった。
「はぁ、はぁ……! くく、くくく……だが、これであいつらはもう終わりだ」
やがて気が済んだのかラウスはふっと手に込めていていた力を抜いて、下を向いたままラウスは不気味な笑い声をこぼす。
ガバッと顔を上げたラウスの眼には、狂気に近いものが含まれていた。
「魔導研究所をクビにされただけで済むと思うなよ、ディラルト……。この王都で貴族に楯突いたらどうなるのか、その身をもって知るがいい。精々苦しんで王都の地べたに這いずり回るがいい! ははっ、ははーっはっはっは……っ!」
ラウスは再びデスクの上に残っていた書類を宙に放り投げ、部屋の中で1人、書類が舞う中で狂ったように笑い続けたのだった。
◇◇◇
「さーて、これで明日から無職ですね〜私達。んっ、んん〜っ!」
「もう仮眠室に泊まり続けたり、不眠不休で何日も働き続けなくても良いんだと思うと、だいぶ気が楽になるね」
魔導研究所の中から出てきて、夕日を浴びて何処か晴れやかな気分になりながら、俺とカティアはぐーっと体を伸ばす。
「それで、これからどうするつもりなんですか? 私達、明日から無職になる訳ですけど……」
「んー、どうしよっか。今後の事とか特に何も考えてないんだよねー。カティアは何か考えてる?」
後ろにいるリサラにそう答え、俺は横にいるカティアに話を振る。
「そんなの考えてる訳ないじゃないですか〜。お金に困ってる訳じゃないし、別に暫く無職でも良いんじゃないです? ……という訳で、私達と一緒にまったりしようよリサラ〜」
俺の質問に答え終えると同時に、カティアはリサラに向かって飛びつくように抱きついた。
「わ、わわっ!? ちょ、ちょっとカティア……!」
いきなりカティアに抱きつかれ、リサラは慌ててバランスを取るように後ろに数歩下がる。
「もう、いつも言ってますがいきなり抱きつかないでくださいよ……。転んで怪我でもしたらどうするんですか」
「えへへ、ごめんごめんって。リサラなら大丈夫だと思って〜」
「全く……今はこんなことをしている場合ではないんですからね? だいたいカティアはいつもいつも……」
「わわっ! リサラの説教は長いから今は要らないって~! 勘弁勘弁!」
なんとか転ばずに済んだリサラが抱き着いてきたカティアに注意をし、そのままいつものように説教を始めようとしたので、カティアが慌てた様子でリサラから離れた。
同い年なのもあるのか、相変わらず仲の良い2人である。
「はぁ……とりあえず今後の事は一旦置いておくとして、この後はどうします? もうここで解散しますか?」
カティアのハグから解放されたリサラは、一度息を吐いてからこちらに視線を向ける。
「いつもと違って時間があるんだし、今日くらい3人で適当なお店でのんびりご飯でも食べない? お酒でも飲みながら今後の事だったり、今までの事を思い出しながら話し合うとかさ」
「おぉ〜、いいですね! それじゃあセンパイの奢りで行きましょう行きましょう〜」
説教を始めそうだったリサラから逃げるように俺の背中にくっついていたカティアが賛成の声をあげ、パッと俺から離れてそのまま王都の大通りの方へと歩いていく。
「いや、奢るとか俺は一言も言ってないんだけど……。ねぇ、カティア? カティア?」
「室長にしては珍しくいい考えですね。そういう事でしたら今日はご馳走になります」
「えっ、ちょっとリサラ? もしもーし?」
しかし、俺の抗議の言葉は普通に聞き流され、カティアに倣うようにリサラも俺の横を通り過ぎていく。
あ、あれ? もう俺が奢る流れになってない、これ……?
「センパーイ、いつまでそこに突っ立ってるんですか〜。早くお店に行きますよー!」
すると、前を歩く2人がこちらを振り向き、カティアが大きな声で俺を呼ぶ。
これはもう俺が奢るのは覆らなそうだった。観念するしかないのだろう。
「……あぁ、もう! 俺が奢るでいいから置いてかないで!」
ガックリと一度肩を大きく落としてから俺は2人の後を慌てて追いかけたのだった。
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