探すモノ
小雪「駅に着いたけど」
カナ「え?早かったね」
カナ「もうちょっと待ってて」
カナ「事故っぽい…」
カナ「私の電車、止まってる涙」
小雪「あー」
小雪「飛び込みか…」
カナ「ぼいわ」
小雪「じゃあ、しばらく動かんな」
小雪「田舎の駅で一人さみしく友達を待つわ」
カナ「お話しようぜ!!」
小雪「電話で?」
カナ「ち・が・う」
カナ「LINEでだぜ!」
小雪「おけ」
小雪「じゃあ怪談だ」
カナ「やめろ、悪趣味!」
カナ「タイムリー過ぎるだろ笑」
小雪「だからこそだ」
小雪「大学二年生にもなって」
小雪「幽霊を怖がる年でもあるまい」
カナ「まあ、そーだけど?」
カナ「そっちも田舎の駅にひとりぼっちよね?」
小雪「…怪談やめよう」
カナ「いやだ笑」
小雪「くそう」
小雪「私のが不利かよ」
カナ「昔ね」
カナ「小雪が今いる駅の近くで…」
小雪「なに?」
カナ「殺人事件があったの」
小雪「ホラーじゃないのか」
カナ「話し聞け。怖がっているのが見え見えだぞ」
小雪「…そ、そんなことねえし!」
カナ「はいはい笑」
カナ「つづけるね」
カナ「小雪の目の前にさ、大きな田んぼみたいなのがあるね?」
小雪「あるな」
小雪「暗くてよく見えないけど」
小雪「なんか沼っぽいのがあるぞ」
カナ「うん。そこのずーっと奥に家があるでしょ?国道沿いの一軒家」
小雪「いや」
小雪「暗くてよく見えない」
カナ「あるんだよ」
カナ「そこでね。殺人事件が起きたの」
カナ「父親が奥さんと娘を包丁で殺したの」
カナ「それでね。殺したあとでバラバラにしたんだって」
小雪「バラバラ?」
カナ「そう。包丁でむちゃくちゃに切ったの」
小雪「ひでーな」
カナ「うん。酷い話」
カナ「バラバラになった二人の死体をね、そいつはくっつけた」
小雪「くっつける?」
カナ「縫い合わせたんだって」
小雪「どうしてそんなことを…」
カナ「わからない」
カナ「異常者の心理だもん。わからないほうがフツーでしょ?」
小雪「まあな…それで、終わりなのか?」
カナ「ううん。まだ続きがある」
カナ「二人が殺されてから何日か経った」
カナ「そしたら腐った臭いがして来た」
カナ「近所の人たちが気になって通報したの」
小雪「それで死体が見つかったのか…」
カナ「そう。見つかったの。バラバラにされて、組み合わさってもいる死体をね」
カナ「それに、犯人も見つけたの」
カナ「犯人はその死体の前で自殺していた」
カナ「包丁で首を切っていたみたい…」
小雪「無理心中ってやつ?」
小雪「なんであれ、そのオヤジ、許せんわ…」
小雪「でも。犯人が死んで死体も見つかったからお終いだね」
カナ「そうでもない」
小雪「…つづくんかい」
カナ「見つからなかったものがある」
小雪「何が?」
カナ「縫い合わせた死体はね、左右で大きさが違っていた」
カナ「半分が大人の女だし、半分は小学生の女の子だもんね」
小雪「グロいわ…」
カナ「死体はね、半分と半分で、一人分だけ」
小雪「ん?」
小雪「『他』は?」
カナ「見つからないまま」
小雪「どこにいったんだよ?」
カナ「さあね。警察が捜したけど、見つからなかったってハナシ」
小雪「…まさか。私の目の前にある沼に捨てたとか?」
小雪「かなり広そうだから、見つからないかも…」
カナ「そうかもね」
カナ「その事件があったのは、もう30年も前のことなの」
小雪「30年前?大昔じゃん」
カナ「被害者と縁があるというか何というか。ちょっと私にとっては印象深い事件でね、忘れられないんだ」
小雪「ふーん?」
小雪「でも。30年か。そのあいだ『他』は見つからないの?」
カナ「見つからない」
小雪「はー。怪談っていうか、猟奇殺人のハナシだったな」
カナ「怪談だよ?」
小雪「どこが?」
小雪「スプラッターじゃん」
カナ「その事件の後から、おかしなことが起きるようになったんだもん」
小雪「おかしなこと?」
カナ「そう」
カナ「この辺りの線路で電車に飛び込む人が増えたんだって」
カナ「駅のホームで待っている人が、いきなり飛び込むことが増えたの」
カナ「飛び込んだ人たちの中には、飛び込む寸前まで楽しそうに友だちと会話をしていた高校生とかもいたのよ」
カナ「おかしいよね?いきなり、何の前触れもなく、飛び込むなんて」
小雪「そうだな」
小雪「まさか。殺された二人の幽霊が引きずり込んでるっていうのか?」
カナ「そっちの説もある」
カナ「消えた『残り』が、生きているヤツを線路に引きずり込んでバラバラにしているって噂もあった」
小雪「怖」
カナ「恨んでるだろうしね」
小雪「そうかもだけど。オヤジじゃなく他のヤツを襲うのは、八つ当たりじゃないか…」
カナ「オヤジは死んでるしね」
小雪「でも…カナの言い分だと、『そっち』じゃない説もあるのか」
小雪「待ってろ」
小雪「当ててやるからな」
小雪「…ふむ。つまり、オヤジの霊か。犯人の」
カナ「そう。犯人が自分の『作品』を増やそうとしてる」
カナ「そっちの説もあるのよね」
小雪「作品っていうなよ」
カナ「その犯人って彫刻家だったらしいよ。売れなかったみたいだけど」
小雪「いちばん有名になったのが、ヨメと娘で作ったソレかよ」
カナ「当時は私の地元じゃ大騒ぎだったらしいわ。でも、ニュースには流れなかったみたい。きっと、子供が被害者だからね」
小雪「そんなニュースが流れたら、子供は怖くてやれないね」
小雪「私も、怖いし…」
小雪「足下とスマホばっかり見てる。沼、怖くて見れんし」
カナ「ごめんね」
カナ「でも、人身事故があった夜は、『何か』がいるのかもしれない」
カナ「線路の上を『何か』が這いずりながら、誰かを引き込もうとしているのかも」
カナ「だから。小雪。線路には近づかないでね」
カナ「引きずり込まれるかもだし」
小雪「バカなことい」
カナ「小雪?」
カナ「おーい」
カナ「小雪、どうした?」
小雪「いや。ずまん。目の前、貨物列車が猛スピードで通りやがった…」
小雪「ビビって誤送信しちまった」
カナ「あはは。小雪、ビビり過ぎだよ」
カナ「安心して。線路に近づかなければ問題ないし」
小雪「近づかんわい」
小雪「でも。列車、動いているんじゃないか?」
小雪「貨物列車、ガンガン飛ばしてたぞ」
カナ「うん。そろそろ動くかも」
カナ「この路線、冬に人身事故が多いから、備えてたのかもね」
小雪「鉄道会社が飛び込むヤツがいるだろうって準備をしてた?」
カナ「おかげでスムーズな作業よ。動き出した」
小雪「なんか怖い」
小雪「早く来い」
カナ「急ぐ!電車、ガンガン飛ばしてるから、すぐに着くと思う」
小雪「怖がらせた罰にビールおごれ」
カナ「まかせろ」
カナ「でも、くれぐれも線路には近づかないように」
小雪「もちろんだ」
ブブ、ブブブ!
小雪のスマホに着信がある。だが時々、着信音がかすれるように止まってしまう…。
小雪は怖くなるが、『母親』からの電話であることに気づく。
出ようとするが、電話は止まる。
代わりにメッセージが届く。
母「小雪、連絡ください」
小雪「どうかした?」
母「ああ。よかった」
母「無事だったのね?」
小雪「何の話?」
母「事故があったの」
小雪「事故?」
小雪「何のコト?」
母「あんたカナちゃん家に遊びに行くって言ってたでしょ?」
小雪「行く途中」
母「よかった。カナちゃんも無事ね?」
小雪「カナとはまだ合流してないけど?」
母「一緒じゃないの?」
小雪「事故って何?」
母「××町で電車が脱線事故したってニュースで言ってる」
小雪「え?」
母「何だか大きな事故みたいだから、心配になったの」
母「カナちゃん大丈夫?カナちゃんの電車じゃないのよね?」
小雪「大丈夫。カナとLINEしてたし、事故ったのは別のだよ」
母「安心した」
母「とにかく、気をつけてね?」
小雪「分かったよ。心配かけてごめん」
ブブブブ!
また着信だ。カナからだ…出ようとすると着信が途絶え、メッセージが届く。
カナ「/た11g/いた11」
小雪「どした?」
小雪「おーい」
小雪「文字化け酷いぞ?」
カナ「痛い」
カナ「痛い」
カナ「痛い」
カナ「痛い」
カナ「痛い」
カナ「痛い」
小雪「カナ!なに?どうしたの?事故った電車に乗ってるの!?」
カナ「痛い」
カナ「痛い」
カナ「痛い」
カナ「痛い」
ブブブ――――。
着信がいきなり切れる。出ようとして画面を何度も押すが、反応しない。メッセージはつづく…。
香奈「痛い」
香奈「痛い」
香奈「痛い」
香奈「痛い」
『香奈』……?違う。カナの名前は夏奈。小雪が冬っぽくて、夏奈が夏っぽいっていうキッカケで高校の時に話し始めて……っ。
小雪「誰?」
小雪「あなた、誰?」
香奈「助けて……足りない」
香奈「脚が、二つ足りないの」
香奈「腕が、二つ足りないの」
香奈「私の顔が半分ない。お母さんの顔も半分ない」
香奈「足りない…足りない…足りないから、欲しい!!!!!!!!!!!」
恐怖に駆られた小雪はスマホを落としてしまう。
スマホは着信があるのか足もとで震え続ける…。
小雪は半泣きのまま、耳を両手で塞ぐ。目を閉じようとしたが、線路に動く影を見つけてしまい、視線を『それ』に取られてしまう。
闇色の何かが冬の冴えた空気のなかを動いている。這うように動き、先ほど貨物列車が猛スピードで走って行った線路の上をズルズルと身を引きずるようにして動いていく。
スマホが通話ボタンを押してもいないのに話し始める…かすれてはいるが、少女の声のようにも聞こえる…。
「くれないのなら、いいよ…あるから…きょうはね…ほかにも、たくさんあるから…みつけるんだ。わたしとおかあさんにあうやつ…」
ズルズルとした闇色は線路を這っていき、小雪の視界からそれが消えたころに列車が到着する。
開いたドアから夏奈が飛び出してくる。
「おまたせ…どうしたの、小雪?」
小雪はカナに抱きつき、しばらく無言のまま震え続けていた…。