84話 3人目の魔法使い
サーラ視点です。
ーーー「……なかま? 仲間だと!? 笑わせるなっ!! 間者のくせして!! 俺らの情報を一体どこに売っていた!! 」
ブランによって吐き捨てられた言葉。
その言葉が何度も頭の中で反復している。
「……っ、ちょっと追い詰められて感情的になってるわね」
自嘲してもしょうがないのは分かっている。
いずれこういう日が来るのは覚悟していたことだもの。
(……でも実際に経験すると辛いものね)
でも今は感傷に浸っているときじゃない。
この街から出れば、まだ希望はある。
私を追ってきているのは鎧からして蒼血騎士団。 こういう秘密裏に終わらせたい案件の仕事の時は大抵あいつらだからその人選も納得できる。
「……っ!?」
走っていたからか応急処置していた腕の傷が痛む。
このスラム街に入るまでにも数え切れないほどの襲撃に晒されてきた。
その度に人混みに入るとかして何とかまいてきたけど……。
それももう限界かもしれないわね。
「……追手も増えてる」
とうとう詰めに来た。
自分が袋小路に追いつめられて行くのがわかる。
……しかし何も出来ない。
とりあえず逃げるしかない、今はまだ。
「ハァハァっ」
「おいおいぃ、もうへばったのかよ、ああ??」
ニヤニヤと笑う騎士団のヤツら。
「……そりゃ何日も追われてれば多少は疲れるけど」
「おぉ、強気なこって、やっぱ最初はこうでなくちゃつまらねぇよなぁあぁ?」
相も変わらず下品なヤツら。
その数も徐々に増えて、今は10人弱。
「袋小路か」
「ふへへへっ?!?!?!?」
下卑た笑い声が私を囲むようにして立っている。
後ろは行き止まりで完全に追い込まれた。
嫌な予感が当たったわね。
「スラム街はよぉ、俺らの庭みたいなもんなんだよ、だからそこに逃げ込むたぁお前も運がねぇなよな、あぁん?」
「……あぁん?って、ぷッ」
笑う場面じゃないのは分かってるけどそのあまりにもなかませ犬ぶりに思わずこぼれてしまった。
「なに笑ってやガンダおらァァァっ?!もう頭にきた、死なない程度に火あぶりにしてやる!!!”我願い奉るは火の精霊なり。御身を宿せしこの矢で敵を打ちたまえ!!!ファイアーアロー!!!”」
怒りに任せて魔術を放ってくる。
「ふふ、馬鹿な男」
「我願い奉るは水の精霊!!ウォーターウォール!!!」
私と蒼血騎士団の間に水の壁が出来上がり、ファイアーアローを相殺する。
「……ちっ、詠唱短縮……回復術師とはいってもイシュバル指折りの魔術使い、この程度は耐え凌ぐか」
青騎士は勘違いしてくれたが今のは厳密には詠唱短縮じゃない。
普通に魔術に似せた魔法だ。
それを詠唱風にしただけ。
(あまり頭は良くないようね)
ファイアーアローとウォーターウォールのせいで水蒸気が上がり私の姿は捉えにくいはず。
その間に逃げ道を探していく。
前方は私の現状の攻撃力だと突破するのは厳しい。
後ろも無理。
となると……っ!
行くなら今、幸いにして煙幕のおかげで魔法の発動は分からない。
「身体きょぅ……っぅ?!?!?」
肩に奔る激烈な痛み。
「っ?!水陣障壁!!!」
坂巻く渦が私の周囲に展開。
その間に肩を癒す。
「おいおい、いつまで逃げ続けるつもりだァ。ああぁんっ??」
「お前に逃げ場はどこにもないんだよ!!」
「おとなしく捕まれよ? もしかしたら生きてられるかもしれないぜ? げへへへっ」
うるさいわね、これ完全に肩貫通しているわね、この傷……魔術じゃ無理か。
「……はぁ仕方ないわね」
貫かれた方の肩に手を当てると、即座に光が傷を癒していく。
「……マナの消費が激しい」
普段なら……いえ普段でもまぁ魔法は極力使わないように控えてるけど、でもやはりただでさえ憔悴してるからか思ったより厳しい。
そのせいで反応が鈍った。
また魔術が身体をかすった。
「……ぐっ?!」
このままこうしていてもしょうがない。
周囲を見ても日和見を決め込んでいるものだけ。
しょうがないわね、この状況じゃ当然の反応ね。
残りのマナを全て身体強化と、ある一つの魔法にかける。
ちょうどそのタイミングで白煙が晴れていく。
私の水陣障壁も数多の魔術と剣戟によって破られる。
「なげぇな、こんな長いの最近では無かったなぁ、と思ったっけどあったわあの男の時」
「あれはきつかった、楽しみもなかったし。 ゴブリンに犯させようとしたら逃げられたしな」
奴らの聞きたくもない会話だけ聞こえてくる。
今はじっと我慢するしかない。
「名前なんだったっけ、あの無職で元勇者の情けないやつ」
「あーなんだったっけか、あの後のしごきがきつすぎて……」
「隊長の機嫌すこぶる悪かったもんなぁあの後」
……今の話、私が思いつくのは最近で言うと思いつくのは一人の男しかない。
やっぱり私たちの予想はあたっていたのね、悲しいことに。
皮肉にも今の状況は当時の彼と似ているのかしら。
でも思い出したわ、あの彼も逃げ切ったのよね結局。
なら今の状況はあの魔術も何も使えない彼よりもよほど状況は簡単だろう。
「そろそろ決めようぜ、隊長の機嫌が悪くならないうちに」
「そうだな」
丁度白煙がきれた。
つまり私を守るものは現状何一つなくなった。
少なくとも奴らはそう思っているはず。
「へへへ、やっとかよ」
「あぁ、しぶとかったな」
「なんだかんだ2週間近く逃げ続けてた訳だからな」
「やっと俺らも寝床で寝れる」
あいも変わらず下卑た視線を私へと向けてくる。
「……おぉ、怖い怖い。 その憎たらしい瞳を絶望に染め上げてやるよ、安心しろ生かしてやるからよ」
「まぁ精神的にどうなるかは知らねぇけどな、ぎゃはははっ」
余裕をもってしゃべっていられるのは今のうちだけだけどね。
蒼騎士の、多分この中の小隊長である男、彼の薄汚い手が私に触れそうになる。
その時を狙って魔法を発動しようとした、その時。
ポトリ。
およそこの場に似つかわしくない音が近くで聞こえた。
「……え?」
見れば私に触れようとして腕の先がなくなっていた。
吹き出した血が私の顔を濡らす。
私の姿を見て、騎士の男はコテンと首を傾げ、次いで先端の無くなった自分の腕を見る。
「お、俺、オレのうでぇぇぇぇ。」
騎士の男は状況をようやく理解したらしく悲鳴を上げる。
騎士の悲鳴で周りの騎士共はすぐに臨戦態勢に。
「見かけだけはご立派な騎士だなぁおい」
どこかで聞いたことのある声。
横を見れば仮面をした人物が剣を手に立っていた。
(……私が気配に全く気付けなかったっ)
サーラは内心で戦慄する。
その間にも仮面の人物は蒼騎士へと話しかけていく。
「久々だなぁ、蒼騎士ども」
「……久々?」
明らかに顔をこわばらせた騎士たち。
対して仮面の人物はごく自然体。
それほど自身の腕に自信があるのだろう。
自分もいつでも逃げられるように魔法をキャンセルし、準備しておく。
「そうそう」
「?」
「お前らがさっき話してた、逃げ出した、情けない、元勇者の男の名前のことなんだけどさ」
それがどうしたというの。
今この状況ではそんなことはっ?!
唐突に、突拍子もない考えが私の中に浮かびあがった。
いえ、まさかそんな。
……もし仮にそうでも、それならなおの事彼が私を助ける理由がない。
だがそんな私の考えを否定するように。
仮面の人物は口にした。
一部の者しか知らぬ、葬り去られたその名を。
「月城 玲夜、それがお前らが痛めつけたやつの名だよ」
そう発した仮面の人物は、仮面越しにもはっきりわかるほど、愉悦で歪んでいた。
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