83話 無職は舞い戻る
ーーー「なぁゼニス」
ーーー「……なに?」
ーーー「俺ちょっとイシュバルに行ってくるわ」
ーーー「何しに?」
ーーー「人を攫いに」
「っていう会話を確か俺たちはしたよな?」
「ええしたわね、それが?」
「……うん、だよね。そうだよね」
あの会話はつまり俺一人で行くよってことを言ったつもりなんだけど……、それこそ偽レイヤ・ツキシロを殺した時のように。
そしてそのニュアンスを多分ゼニスは理解してるはず。
なればこそ。
「なんで君がいるの?」
「なんでって何がなんで?」
ゼニスは真剣に理解していないご様子。
「俺的にね? 俺的に一人で行く予定をしてたんだ?」
「……それ今更言っても遅くない?」
「まぁそうなんだけど!!! あまりに当たり前にいたせいで話すの遅れたけど!!」
というかもうイシュバルに着いちゃったしな!!どうしよつもないけどな!!
「……逆に一緒に行かない訳がなくない? ただの暗殺とかなら別に私も行かないけど、捕縛対象は【魔法使い】かもしれないんでしょ? 用心に越したことは無いわよ、私より強いかもだし」
「可能性の話でいえばまぁそうだけど、……でもゼニスお前人間嫌いだろ?人間の国に行くってのはさ.......」
俺の言葉を聞いたゼニスはなぜか苦笑する。
「……いえ確かに私も醜悪な奴らは嫌いよ? でもね、別に人間すべてが嫌いってわけでもないの」
「……え?そうなん?」
驚いた。
というかまじでそれはすごいと思う。
全人類に裏切られたに近い経験をしているのに。
「……全員恨んでたら一生復讐なんて終わらないわよ、だから直接私を貶めた相手だけで考えてるの」
「それもそうなんだけどな」
「釈然としていない顔ね」
「……嫌いなものは嫌いだしな」
「でも玲夜は今、自分の自由とか仕事とか諸々を考えて、むやみやたらに殺してないでしょ? 自制できている証拠よ。 自制出来ていればどう思うと自由よ」
そんなまるで昔の俺だったら誰彼構わず襲って殺していたかのような言い方だな、おれでもそこまではないぞ?
「そう? 玲夜が私と最初に出会った時覚えてるでしょ?」
「……ああ、覚えてるぞ。 看病されたと思ったら穴に落とされたやつな」
「今となってはいい思い出だけど、あの時のあなたの眼、何をしてもおかしくなかったわよ」
「よい思い出ではないけど!!決してないけど!! だがまぁためになったのも事実だな、スパルタすぎるが」
「フフ、私も身を張った甲斐があったわね」
でもそうか、あの時はこの世のすべてを恨んでたからな。
それは今も基本的に変わらないが。
でも正直俺に関係ないやつに関しては殺そうとかは思っていない。
……まぁ思っていないだけで、死にかけていても助けようとも思わないが。
無関心っていうのか?
「……だからこの街中で騒ぎが起きていたとしても何も気にならない、というかそんな些細なことはどうでもいい」
「わそんなこと気にして、あなたを失ったらそれこそ嫌だもの」
「…………デレた?」
「いえ当然のことよ」
臆面なく言ってのけた。
「っ!?ああっもう!!ちゃんとみてろ!!」
「ふふっはいはい」
なんかムカつく!!
俺は意識を逸らすために目の前の事態に注視する。
場所はイシュバルのスラム街。
その至る所で悲鳴が巻き起こっている。
それも全て目の前の女と、その女と闘っている騎士10人のせい。
それを俺たちは家屋の屋上から見つめていた。
「ゼニス、手は出すなよ?」
「分かってるわよ」
「あれは俺の得物だ」
行くタイミングは決めている。
あの女が「魔法」の力を見せた後。
今、彼女は必死に魔術で耐えている。
だがここに至るまで度重なる連戦をして、なんとか凌いできたのだろう。
衣服は汚れ、艶のあった髪も今はくすんでしまっている。
疲労が蓄積し、顔色は相当悪い。
そんな彼女を騎士たちは一方的に攻撃し続けている。
「おいおい、いつまで逃げ続けるつもりだァ。ああぁんっ??」
「お前に逃げ場はどこにもないんだよ!!」
「おとなしく捕まれよ? もしかしたら生きてられるかもしれないぜ? げへへへっ」
そこに騎士としての誇りはなく、ただ一方的に弱者をいたぶることに愉悦を覚えているものたちがそこにいた。
数分後。
騎士の放った魔法が肩を射貫いた。
「……くぅっ?!」
サーラは苦悶の表情を浮かべ、だがすぐ気丈にも顔を振り上げる。
手で肩口を押えながらぐっと力を込めた。
するとその瞬間、瞬く間に傷口が塞がっていく。
「……はぁはぁ」
サーラの息が上がっている。
今のでかなり消耗してしたらしい。
「能力としてはいいが、まだ練度が足りないか」
「まぁそこは今後に期待ね」
俺らとしたらファナの親を治せればそれでいいんだけど。
そっからはまぁ知らん。
なんて話をしている間にもサーラの状況は悪化していく。
「そういえば.......」
というか周辺住民はなにしてるんだ?
こんだけ騒いでれば気づかないはずないのに。
辺りをさっと確認すれば何人もの人影。
状況を窺っているらしい。
早く終わってほしいというのが本音だろう。
我関せず。
あぁそれは間違いないな、その選択が正しいのだろう。
俺はいつもサーラの立場だった。
そうか、俺はこんな風に見られていたんだ。
「……玲夜?」
「なぁゼニス」
「なに?」
「醜いなぁ」
「……そうね、どうするの?」
どうするの?、か。
そんなの決まっている。
「どうもしねぇよ」
「……」
「そもそも期待してないしな、特に住民に何かできるとは。 俺だって何もしなかったかもしれんし」
「あなたなら何かしたわよきっと」
断言!?
「だとしたら、そのあとなぜか俺がサーラの代わりになっているんだろうな、いつもそうだった」
学校でも仕事でも。
「ま、とりあえずそろそろか」
サーラのマナはもう枯渇したのか、魔術が展開されていない。
騎士共はその様子を見て魔術を展開するのをやめ、サーラが逃げれないよう周囲を囲んでいく。
「へへへ、やっとかよ」
「あぁぁ、しぶとかったな」
「なんだかんだ2週間近くだからな」
「やっと俺らも寝床で寝れる」
「ばーか、その前に楽しんでたからだろ?」
あいも変わらず下種な視線をサーラへと向ける。
対してサーラは気丈に睨み返すだけ。
「……おぉ、怖い怖い。 その憎たらしい瞳を絶望に染め上げてやるよ、安心しろ生かしてやるからよ」
「まぁ精神的にどうなるかは知らねぇけどな、ぎゃはははっ」
不愉快な笑い声。
薄汚い手がサーラに触れるその瞬間。
ボト。
ナニカの落ちる音。
「……おぉん?」
騎士の男はコテンと首を傾げ、次いで自分の腕を見る。
先端がない自分の腕を。
「お、俺、オレのうでぇぇぇぇ。」
男の悲鳴で周りの騎士共はすぐに臨戦態勢に。
「見かけだけはご立派な騎士だなぁおい」
煽るような玲夜の言葉。
騎士たちの中心に俺はたっていた。
「久々だなぁ、蒼騎士ども」
仮面越しにもわかるほど玲夜の顔は愉悦で歪んでいた。
Twitterにやってます!!
https://twitter.com/KakeruMinato_




