閑話⑭ 間者
前半は勇者視点。
後半はブラン視点です。
近いうちに私達は戦争へと出陣しなければならない。
イシュバルはランダを返せという大義名分を口実に。
獣人たちは先に裏工作を仕掛けてきたのは貴様たちだと。
だが実際こちら側が言っているランダさんの件は引き金でしかないのだろう、国を戦争へと推し進めた決定的な一手となっただけ……な気がする。
多分以前から計画としてはあったんじゃないかな。
そうじゃなければ、余りにも準備がよすぎるし…………。 それに度重なる領土侵犯の為と言っているけどどれも本当かどうか……。
元々疑いを持っていた私はほかの3人みたいには簡単に信用することが出来ない。
でも今そんなことを言ってもしょうがない。
ちらりと夏希は前にいる柊と秋人の後ろ姿を見る。
秋人からは怒りに満ち満ち、殺気が漲っている。
対して柊は冷静に、それこそ盗賊と初めて戦った時のような雰囲気を感じる。
(……やっぱりあの時から柊は何かが変わってしまったのね)
桜も隣で不安げに私の袖を握りしめている。
「大丈夫だよ桜、きっと大丈夫。 一緒に乗り切ろう? ……いざって時は私が守って見せるから、さ!! ……だからそんな不安そうな顔しなくていいのよ?」
桜は俯いていた顔をゆっくりと上げる。
その顔には僅かばかりに緊張がほぐれたような気がしてる。
「夏希、何言ってるの~? あなたを、ううん。 あなたたちを守るのは私だよ? この大魔導士のジョブを持つこの私!! だから夏希は私の後ろで怪我した人を回復してあげて?」
「……言うじゃない、桜。 じゃあ安心して前は任せるわね?」
「うん!!!」
でも私は思うの桜。
盲目的にこの国の言い分を信じることはしない方がいい気がする。
ブランさんや他の皆さん、それにサーラさんはとても良くしてくれた。
……でもそれは結局私たちが勇者パーティだから、力があったから。
それだけ。
でも彼、月城玲夜君には違った。
彼がどんな目に合ったかは想像に難くない。
だから私たちはいつか逃げないといけない
だから警戒心は解いちゃいけない。
サーラさんやブランさんは信じていいと思うけど。
でも私だけでも警戒心を持っていなきゃ。
そう出ないと使いつぶされてしまいそう。
だからとりあえずは…………。
「……なんとかこの戦争をブランさん、サーラさんみんなで勝って乗り越えなきゃね」
その背後で行われていることには何も気づかぬまま、私たちは勝利の先にある希望の未来を思い描いていた。
*
それよりも2週間前。
「……はい、どうやら獣人たちに向けて戦争を起こすのは確定の様です。 領土と軍備を拡張するのが主な目的の様です。 10年前にも戦争では負けていますが今回はかなり周到に準備しているみたいです。 ですので我が国としても……」
「――なぁサーラ、誰と、話しているんだぁ?」
「……ブラン、ここで何をしているの?」
「聞いているのは俺だぞ、サーラ?」
ブランは剣を片手に威圧してくる。
それはまるで敵と相対してるほどに鬼気迫っている。
否、その通りなのだろう。
「お城の中でそんな物騒なものはしまいなさい?仮にも同じ仲間に向けるものじゃないんじゃないかしら?」
サーラの言葉にブランの眦が吊り上がる。
「……なかま?仲間だと?笑わせるなよっ!!間者のくせして!!俺らの情報をどこに売っていた!! 」
「何か誤解があるんじゃない?」
ブランの怒気にもサーラは何処吹く風。
「私が間者だと言うならちゃんと証拠を持ってきなさい?」
「はぁっ…………シラを切るのか」
「しつこい男は嫌われるわよ?」
「…………」
「フンっ!!!」
徐にサーラに向かって斬り掛かるブラン。
サーラは後ろに大き跳ね回避する。
「よく今の反応できたな」
「ギリギリ当てるつもりは無かったからでは?」
「そりゃな今死なれても困るし、情報を喋ってもらわなきゃ。 でも存外お前は戦えるみたいだな」
「私はか弱い乙女よ?」
「はっ、どこが!?」
「全部、かしら?」
唐突にサーラの纏う雰囲気が変わる。
そして気がつけば背後から声が聞こえた。
「そんなんじゃ死ぬわよ?」
「ぐうっ!!!!???」
「凄い反応速度ね」
「はっ、お前ほどじゃねぇよ」
「お褒めに預かりどうも、でもあなたと話す時間はもうない。私は失礼するわ」
サーラは一瞬で闇へと溶け込んでいく。
王城の廊下に取れ残されたのはブランただ1人。
直に警備兵共も来るだろう。
「逃げられた、か」
まさかあそこまであいつが強いとは…………。
いや今まで隠していただけか。
だが……。
それなら
「お前があのガキ共に見せた優しさも何かも全部嘘だったってのかよっ!!!」
やるせない気持ちが溢れ出す。
だがブランもこういう経験は何度もしている。
裏切られたのを見てきたし仲間が近くで息絶えていくのも見てきた。
だから割り切れる。
だが対して柊たちはどうだ?
ただでさえ戦闘の緊張感で張り詰めているだろう。そんな中でのサーラの裏切り。
動揺しない方がおかしい。
はぁあいつらには何とかして黙っとくか。
「ったく中間管理は煩わしいねぇ、だがとりあえずは警備の増強か、簡単には逃がさないぞ? まだ街の中にいるはずだからな」
ブランは1人虚空に向かって独りごちた。
一カ月ぶりです。
4月と言うことで新生活も始まりますね。
今年こそはラブコメも同時並行で出来たらとか考えております。
明日の同じ時間帯に1話更新します。
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