閑話⑬ 勇者たちは戦争の準備をする
「せ、戦争ッです……か?!」
王様によって直接呼び出しがあったからただ事ではないと思っていた。
だがまさか、それが戦争とは……ッ。
「そうじゃ。 だがそう焦るでない、まだあと2月は先の話じゃ」
2月は?
もう2月しかない、の間違いじゃないか?
玉座に座る王様は髭をなでながら俺らを見下ろす。
「なぜですか? 私たちの敵は魔王のはずです、なのにそれを獣人と戦争だなんて」
この世界に召喚された目的は魔王の討伐だったはず。
「もちろん我だって、いやこの場にいるすべての者、国全員がそのつもりでおった。 人類、亜人共に協力して我らが宿敵、凶悪無比な魔王との戦いに臨むべきだとッ!!!」
拳を振り上げ力説する王様。
魔王を絶対に討伐するという意気込みが伝わってきた。
「だが……」
玉座から立ち上がり俺たちの方へと近づいてくる王様。
「だが残念なことに亜人たちはそうではなかったらしい、我らが協力のために、と送った使者を……拉致した」
「ら、拉致……?」
秋人も桜も驚きで口を開けている。
桜だけがただ何かを考えているかのように下を向いている。
「な、なぜそのようなことを獣人たちは? 正気とは思えないのですが……」
実際ありえない。
イシュバルを敵に回せば、他の国家だって味方になるのは想像に難くないはず。
こちらから手を出した、と言うのであればまだ納得もできるが。
「さぁ奴らの思惑は完全には理解できぬが、もしかしたら……」
王様はそう前置きし、自分達が予想もしていなかった答えを出してくる。
「…………彼らは魔王と手を結ぶつもりなのかもしれぬな、我らの壊滅を手土産として」
その言葉には俺を含め【シキ】全員が絶句する。
「なっ!!!過去には色々とあったのかもしれないけど、今は仲間だったんじゃないのか!!」
「柊殿が憤る気持ちは痛いほどわかる。私とて同じかそれ以上の気持ちを持っている、我々の貴重な仲間がっ!! 奪われたのだから!!」
王様は拳を握りしめ、口元を強く引き結んでいる。
どれだけの激情がその身に渦巻いているのだろうか。
「……ちなみにその使者と言うのは誰だったんですか? 自分たちの知っている方ですか?」
「……ああそうじゃ」
なぜか王様はブランさんたちのの方を見る。
そこにはブランさん、サーラさん、ミシャスさん、タントさん。
別の任務でいないというランダさんはここにいない。
「……ま、まさか」
嫌な予想が頭を過る。
ま、まさか、いやでも……。
信じられない、あの無口だったけど優しかったランダさんがなんて。
「い、いやでもそんな――」
「――ありえねぇ!!!」
秋人の悲鳴にも似た怒声。
「……使者はランダじゃった」
「「「「…………」」」」
だがまだ生きている可能性もある。
「何かあちらから要求等は?」
「……ない」
「何がしたいんだ奴らは!!」
とうとう秋人の怒りが爆発した。
「あんなにやさしい人だったのに!! 動きとか何回も見せてくれたりしたし!! 最近はやっといい感じに戦えるようになってきたところなのに!! それをあいつらが!!」
秋人の眼に宿っているのは暗い感情。
怒り、復讐心。
でも秋人の言いたいことは分かる。
「いい人だった、言葉には出さない優しさのようなものを俺も感じたよ……だから俺も憤りを感じているよ、だからこそ一旦落ち着くべきだ秋人」
こういう時こそ冷静になる必要がある。
「分かってる、分かってるけどよぉぉ……そんな簡単に割り切れねぇよ、お前みたいにな!!」
「別に俺だって!!」
「二人とも落ち着きなさい!」
「な、夏希」
「……すまん」
「ランダはどうやら勇者殿たちから信頼されておったようじゃな、なればこそより一層獣人どもを許すわけにはいかぬのじゃ!!! 今回の事だけではない、何かと小競り合いを頻出させてくる始末、この機に思い知らせてやることとした!!」
今の言葉、それはつまり……
「戦争じゃ」
戦争……。
「猶予はある、勇者殿たちにはその間に、より強くなってもらいたい、相手は卑怯な手を使ったであろうことは明白じゃがそれでもあのランダを捕まえるほどの者たちもおる……。 用心に越したことは無い。 ワシからのお願いじゃもっと強くなるのだ、それこそS級冒険者に匹敵するように。 くれぐれも勝手に助けに行こうなどとは考えぬようにの、この国の命運は貴殿らにかかっておるのじゃから!! 故に国を救い、そしてランダが生きているという希望がある限り、希望を捨てずに一丸となっていくぞい!!」
「「はい!!」」
俺達「シキ」は復讐心と使命感で燃え上がっていて物事を冷静には見えていなかった。
多分夏希、以外は。
新たな短編書いて見ました。
タイトルは「ゲームをしてたらいつの間にか隣で美少女がむくれてた。」です。
よろしければお手隙の際にて
https://ncode.syosetu.com/n9287gu/




