閑話⑫ 勇者たちの変化
盗賊の襲撃後私たち【シキ】は、対人間、の依頼もこなすようになってきた。
秋人と桜は初めての戦闘以来、徐々に徐々にだが戦えるようになってきている。
まだ青い顔をしていたり、ところどころビクッとしたり危なっかしい所はあったりはするが。
「お前だけでもぉぉぉ」
秋人の所から敵が1人漏れてしまった。
「……っ!?わ、我願い奉るは清流の……」
桜も呪文を唱え始めるが多分間に合わない。
だけど…………
「やらせないわよ」
夏希は決して声を張ったわけではない。
叫んだわけでもない。
なのになぜか明瞭に桜の耳には夏希の声が聞こえた。
「私の友達に触るな」
【弾き飛ばせ、聖光レナトゥス】
夏希が短く言葉を紡いだ次の瞬間にはバチっという雷にも似た音と共に男は弾き飛んでいた。
「……え?」
「ボケっとしないの、次来るわよ」
「う、うん!」
「秋人も!!」
「あ、ああすまねぇ!!」
夏希は次の瞬間にはもう意識を別の敵へと向けている。
あの初めての盗賊との戦いから、私も回復だけじゃなく自衛できる程度の魔法を覚えた。
だっていつまでも戦いから逃げている訳にはいかないから。
最低限自分の身を守れるよう、みんなに迷惑をかけないように、そしていざって時に自分の友達を守れるように。
もう…………。
何もできず、友達が敵に殺されそうになっておびえている姿をただただ見るのはこりごりだから。
「このくそ野郎どもがぁぁぁっ!!!」
裂帛の気合とともに秋人が敵をたたき伏せていく。
対して柊は秋人とは対照的に、ただ黙々と敵を屠っていた。
数でいえば秋人の2倍以上。
なのに息もあまり上がっていない。
敵を見るその目線はまるで炉端の石ころでも見るように冷たくて。
でも戦闘が終わればいつもの優しい笑顔になる。
そのギャップが夏希は少し怖かった。
その後ものの10分もしないうちに中規模の盗賊団がたった4人のパーティーに壊滅させられた。
*
「こりゃまぁ……」
遠くから様子を窺っていたブランはその戦いぶりに息を呑む。
まだ荒いトコロも多々あるがそれでもこの間までとはまるで別人のようだ。
「技術云々と言うより精神的なものが大きい、か」
もちろん技術の進歩もある。
だがそれ以前に顔つきが違う。
以前までならどこか落ち着かず、地に足ついていない印象があったが今は真逆だ。
どっしりと構え、現実を直視できている。
冷静すぎるほどに。
柊は特に。
「あの依頼で初めて人間同士の『命のやり取り』と言うものを経験したからか」
誰も守ってくれない、己の武で何とかしなければいけない、そんな密度の濃い時間の中で更に仲間を失うかもしれないという恐怖。
全てが未知。
学生生活を平和な国で送っていたとしたら経験しない恐怖。
そのためのステップとしてモンスターとの戦闘があった。
だが人間との戦いとはまた別。
憎悪を直接ぶつけられるというまた別種の耐性が必要にもなる。
しかも数多の人間からの憎悪を耐え忍び跳ね返さなければならない。
相手を殺すことによって。
そうしなければ次に死ぬのは自分だから。
それは戦場における常識。
しかしこの感覚は普通徐々にならしていくもの。
それこそ桜、秋人、夏希みたいに。
しかし柊は一発で適応して見せた、いや適応してしまった。
「……流石勇者の職業を持つだけあるな」
「本当にそう思ってるの?」
不意に冷たい声が聞こえてきた。
「……サーラ、か、お前も来たんだな」
「ええあんなことがあって何回も盗賊討伐の依頼をこなしたとはいえ、あれと同規模の戦闘は初めてでしょ?そりゃ心配になるわよ。傍から見ても彼、いえ彼らが無理をしてるのは明らかだしね」
それくらい勇者の教官として接してきた俺らにはわかる。
タントや最近は別の任務に出ているランダなどは分からないかもしれないが、特に交流を密にとってきた二人からしたらそれは明らかだった。
「それもしょうがない。 それに徐々に順応してきている」
「確かに他の三人はそうかもしれない。でも勇者のジョブを持つ柊に限って言えば、間違いなく違うでしょう」
「…………」
サーラが言った言葉にブランは何も言い返せない。
事実彼もそう思っている。
柊の場合は多分人間を殺すときの葛藤やそういった感情を受け入れて乗り越えた、とかではない。
恐らくそういう感情を……
「切り捨てた、かしら?」
「だろう、あの一瞬で優先順位をつけて実行させた」
「やっぱりあの時全員で……」
「王が言ったのだからしょうがないだろう」
サーラも王の名前を出されれば何も言えない。
たとえ胸にくすぶる思いがあったとしても。
「それに王としては望んだ結果かもな、今度戦争をするそうだ」
「……本気で言ってるの?」
にわかに信じ難いといった様子のサーラ。
「……ああ、獣人たちとまたやり合うらしい」
「あれだけコテンパンにやられたのに?」
歯に衣着せぬ物言いに思わず苦笑する。
「その借りを返すんだとさ、今回は裏工作等もさせてるらしいぞ? そのためにランダもいないしな」
「厚顔無恥とはよく言ったものね、いい神経してる」
「おいおい、流石に不敬だぞ?」
「でもそうでしょ? 獣人なんて別に争う必要はない。それこそ魔王の脅威の方が先決でしょうに」
「獣人の国を得てなんとか大国に並びたいんだろ、あの王様は」
「そのためにわざわざ召喚した柊たちを殺戮兵器にしてまでも?」
「上は考えてるようだ、最初は洗脳しろと言ってたぐらいだしな」
はぁ……と深いため息をつくサーラ。
「なんとまぁ……」
「俺らは言われた通りにするしかない、だからせめて俺らに出来るのはあいつらが死なないように尻を叩いてやるのさ、そして安心して戻れる場所にしてやる……だからお前もあいつらの前でそんなしけた面見せるんじゃねーぞ?」
「分かってるわ」
子供にこんな顔は見せないわよ、こんな大人の汚い世界なんてね。
そう去り際に呟くサーラの体からは影がにじみでていた。
「違いねぇ、あいつも優しいなほんとに」
ブランは自嘲気味に、何もできない自分を皮肉るように笑った。
いつもお読みいただきありがとうございます。
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感想等も頂けたらありがたいです。
サーラの名前が所々でサーシャになっておりましたので修正しました。
治ってない箇所あれば教えていただければと思います。
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