9話 無職は怪我をした
本日1話目です。
「……ん、うーん……」
太陽の陽光が眩しい。 目をつぶっている今でさえ眩しい。
よし、カーテンを閉めよう。
そう思い、ベッドからカーテンへと手を伸ばす、それも目を開けずに。 手を必死で伸ばすがそこにあるべきはずの布の感触がなぜか感じられない。
「ん?」
怪訝に思い目を窓を見てみるとそこにあったのはガラスではなく木枠の窓。
「……ああ、ここは俺の部屋じゃなかったな」
やはり夢では無かったらしい。 毎朝、同じことを思うんだけどね。
俺たちは1人1部屋、寝室を与えられていて8畳ほどの部屋に1人で寝れる。 それだけで嬉しい、地球の時よりグレードアップしてるし。 しかし今日に限ってはなぜか1人ではなかった。
「ソウダ……ヨ。 ここは地球では……ないよ」
「うぇ!?」
バッと声のした方を見れば、部屋のドアのあたりに金髪のゆるふわカールのイケメンがいた。 服は白いローブで眼鏡をかけていて、何かの学者とか医者っぽい。
「……えーと、あなたは?」
「アァ……イキナリ……ごめんネ。 …………ボクハ……ローリー」
すっごい片言だ。
って、ん? ……ちょっと待て。
……こ、こ、ここのイケメン、日本語喋ってるぅぅぅぅぅ!
「ア……オドロイテルネ。……キキヅラカッタラ、ゴメン……。 本……デシカ……日本語? 知らなくて」
「はい?」
ほ、本だけでここまで喋れるようになったのか。 ああ分かった、この男……天才というやつだたぶん。 普通はそんなこと絶対できないもん。 てかしようともしないか。 あれ? それとも天才じゃなくて変人なのか?
「ソレヨリ……タイチョウ…………ダイジョウブ?」
「……体調? なんで?」
「ウン……。だって、キミ、ユウシャのなかま、二、デコピン……。フツカ、ネムッテタ。ふふ。」
ローリーが心配そうに俺のことを見てくると思ってたら、最後で笑いやがった。
笑いやがったぞこいつ!?
……ていうか俺2日も寝てたのかよっ!? 秋人強すぎだろ! いや俺が弱すぎるのか?
ああっもうっ!?、驚きすぎてもう何言えばいいか分からなくなってきた!
「……チナミ、サーラ……イナカッタラ……シンデタ。 ……セイシ、のサカイ、サマヨッタ……よ?」
笑顔で俺に教えてくれる。
「え?」
「ン? コトバ……マチガッテタ?」
「……いや、多分間違ってはないと思うけど、念のためもう一回言ってもらっていいかな?」
「いいヨ、キミ、シニカケタ。 トウゲ……コエテ……イマイキテル」
うわ、2日寝てただけでは飽き足らずいつのまにか死にかけてタァぁぁぁぁぁ。 しかもデコピンでという情けなさ。 もし死んでたらデコピンで死んだ残念なやつ認定されるところだった……。 でもあれだな。走馬灯とか死んだじいちゃんとかにも会わなかったな、デコピンで死にかけるやつには会いたくないってことか? ひでーなじいちゃんは!
マジでありがとうサーラさん。て、サーラさん?
「非っ常に言いづらいんだけども…………サーラさんってどんな人だっけ?」
「エー、……ワスレチャッタ……ノカイ?」
うーむ、自分のことで精一杯だったし、状況を理解するのに必死だったりしたからなぁ。 ぶっちゃけ記憶にない、全くいっていいほど。 てか教師陣自体、顔もあんまり覚えていない。 マッチョの記憶しかない。 てことはあれだ、これはマッチョのせいだ。 あいつがインパクト強すぎたのが悪い。
「……ショウガナーイ。 ……コッチノセカイキテ、コトバワカラナイ。 タイヘン、ワスレテテモショウガナーイ。 サーラ、カミ、アオイロ、セイカク、キツイ。 オワリ」
以上!? しかし言われてみれば視界の端に青い髪の美人さんが控えてくれていた気がする。
性格キツイのかぁ。 でも怪我を治してくれたんだし挨拶には行くべきだよな〜。 だけど怖いなぁ。よし、ローリーと一緒に行こう。 別にサーラさんにビビってしまったとかではない。 ローリーがいないと話が通じないからだ。 しょうがないよ、俺だって本当は自分の言葉でお礼を伝えたいんだ。 ほんっとうに残念でならない!
「レイヤ」
「ん? どした?」
ベッドから起き上がる寸前に呼び止められる。
「キミ、フツカカン……アンセイ」
「カイフクマドウ……バンノウデハ……ナイ。 ゼンシンダボク……ナオスホドデモナイ……ハンダンサレタ……」
なんか嫌な予感がするぞ?
「つまり?」
ピキ。
俺の身体のどこかから軋むような音が聞こえた。
「イッタァァッァァァァ」
身体中に激痛が走る。 しかも断続的に。
「オキヨウ……スルト……ソウナル。 イマノデ、イツカ……ゼッタイアンセイニナッタ……」
「ぎゃぁぁぁぁぁっ!!!」
サーラさん、打撲も治してぇぇ、まさか……
そこで俺はある画期的な閃きが頭に浮かぶ。
サーラさんって……ドSなの? 俺が痛がるのを楽しみたかったんだな? そういうことなら悪くないぞ。むしろ楽しみたいかもしれない……。 早く罵ってほしい……はぁはぁ。
「レイヤ……ドシタ? 気持ち悪い顔」
「気持ち悪いだけすごい流暢だね」
「うん、ガンバ……った」
なんでその言葉を頑張ろうと思ったのかな? おれはその理由を深く聞きたいよ。
「チナミ……ソレナオサナカッタ……リユウ、シンプル。」
「っ?」
痛みに堪えながらも若干の期待を寄せつつローリーの話に耳を傾ける。
まさか、本当に……?
とうとうおれも卒業か?
ちょっとアブノーマルだけどそれはそれで……ぐへへ。
「サーラ……ツカレタカラ」
「うぉいぃぃぃぃ!! っぅぅ?!」
思わず叫んでしまったので、また身体に激痛が走る。 でも突っ込まずにはいられなかった。 悲しくてだ。
やはりそんなことあるわけないのか……? 異世界は俺に厳しいなぁ。
それとなんかイメージがつかめてきたぞサーラさんの。
あれだ、めんどくさがりやさんに違いない! 絶対にめんどくさがり屋だ、サーラさんは。
「デモ。ソレモ……ショウガナイ。 フクザツコッセツ8箇所。 ……タンジュンコッセツ4箇所。
ソレゼンブ……ヒトリ……ナオシタ。」
疑っちゃってすいません! そんだけ治療してもらったのに疑っちゃって本当にすいません! 恩を仇で返すようなこと思っちゃって本当に申し訳ございません。
てか俺の怪我が酷すぎる!
「ヨッテ……キミ……アンセイ。ソノアイダ……ボクと……オシャベリスル」
「おしゃべり?」
「ソウ、オシャベリ! チキュウ? ノコトオシエテヨ!」
ローリがベッドに乗っかり俺に迫ってくる。 ちょっと怖い。 そしてめちゃくちゃ痛い。 絶対怪我してる事忘れてるね彼。
後、ちょっといい匂いがするなぁ。
「わ、わかった。 わかったから身体退けてー。 俺の身体が悲鳴をあげてるからぁぁ」
後、ちょっと変な趣味に目覚めそうだからぁぁぁぁ。
「あ、ゴメン」
こうして五日間、俺はローリーとおしゃべりし続けた。
「陛下、失礼致します。」
「おお、フォンか。どうした。」
こんな夜更けに来ることは珍しい。さては何かあったのか?
「少々問題が発生してしまいまして。陛下のお力をお借りしたく。」
「なんじゃ、言うてみい。」
「はっ。実は先日勇者パーティーで模擬戦をやったらしいのです。その結果、件の玲夜は瞬殺され動けない状態となりました」
「それになんの問題があるのじゃ?むしろ好都合ではないか。」
「それだけならそうだったんですが……。ブランが余計な気を利かせてローリーに勇者召喚のことを話し、玲夜の傍にやってしまったのです。彼だけが勇者の国の言葉を分かるという理由でです。」
そういう事か……、ちっ余計なことをしてくれおったな。ブラン。
「あいつを遠ざけて欲しいということじゃな?」
フォンはコクリと頷く。たしかにこの作戦には邪魔じゃなあの聡いローリーは。しかし長くは拘束出来ない。
「期間は?」
「1週間ほど遠ざけていただければ」
1週間ならなんとかなりそう……か。
「承知した。遠方での適当な依頼をローリーに王命としてやらせることとする。これなら拒否できんはずじゃ。もちろん方向はお主達とは真逆の方向じゃ。これでよいか?」
「お取り計らい感謝致します。」
「して首尾は?」
「上々で。 あと五日で準備が終わります」
「そうか、それまではゆっくり玲夜殿には休んで頂くとするかのぅ」
これがゆっくりできる最後だからのぅ。
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