76話 無職は驚愕する
「……勇者の教官? お前がか?」
「ああそうだ! お前とは一回しか会うことは無かったから覚えていないかしれないが、俺はお前のことをよく覚えているぞ?」
いやーっ、覚えられててもも全然嬉しくねぇな。
「そ、そうか……まぁ正直俺はお前の言う通り、ほっとんど記憶にないけど、まあいいや。イシュバルのやつだし、普通に拷問して殺すか」
「…………拷問? 殺す?」
俺の言葉をなぜかオウム返しするランダ。
「…………お前が?」
「ああ」
「…………俺…………を?」
「ああ」
何度もしつこく確認するランダ。
普通にきもい。
ゼニスはただ黙ってこちらの様子を伺っている。
ここは玲夜に任せるということなのだろう。
時間が経ってようやく何を言われたのかランダは理解出来たらしい。
そして…………
「…………ガハハハハっ、あーッ、つまんない冗談はよせ」
「冗談?」
「…………ステータスはカスで魔導も使えない、武術も何も!! 何もない無職にいったい何が出来るっていうんだ!?」
「……へぇじゃあ俺はここまでどうやって来たんだ?」
「どうせそこの女に連れてきてもらったんだろう? そいつは見たところ、少しは出来るようだからなぁ」
少しは……ねぇ。
なかなか見当違いの考えをしている。
こいつゼニスの過去を知らないのか?
実際は数百年封印された元勇者パーティー最恐の魔女なんだがなぁ。
ランダの下種な視線を受け流しゼニスは薄い笑みを浮かべている。
正に氷の魔女と形容するのが正しい。
もう見なくても分かる。
めちゃくちゃ不機嫌になっている。
しかしランダは何を思ったのか、話の矛先をゼニスへと振る。
「おいそこの女」
「……」
ゼニスは当然無視。
「おっ、おまえに言ってるんだよ、白髪の女ぁっ!!」
おいおいちょっと無視されたぐらいで怒るなよ、煽り耐性なさすぎるんじゃないか?
俺なんて会社では無視されていたし、こっちの世界に来てからも。城ではローリー以外とは話してないし、蒼のやつらにやられてからはみな見ないふり。
有体に言って今の100倍はきついぞ?
マジで自分が社会にいらない存在と認識し始めるからな。
そんなんじゃモテないぞ?
…………ブーメランかな?
ま、まぁプライドの高そうな彼だ。
もう耐えられないだろう。
と思ったら何かを思いついたらしい、急にまた笑顔を取り戻した。
喜怒哀楽が激しい、そしてキモイ。
「……そうかそうか分かったぞお前、騙されてるんだな? お前は知っているのか? この男が昔どんなだったか」
「…………?」
「どうやら知らないようだな! ならばこの俺が教えてやろう、勇者の教育係である俺がな。 実はな、この男は今帝国にいる勇者と共に召喚されてきたのだ、だがこれがもうっはは、笑っちゃうくらい才能が無くてな。 だがこいつは頑張った、数日の間はな だが勇者の仲間である「秋人」騎士王の職を持つ男が軽く動いてデコピンしたらそのまま大怪我、なんと無様なことか。 それからもなぁーー「もういいわ」……なに?」
始めてゼニスが口を開いた。
「…………さっきからつまらないことばかり話すわね、あなたが今言ったこと全て、とっくの昔に知ってるわよ。 何ならそれよりひどい姿だって何度も見たわ。もし知らなかったとしても、それが何?」
「それが、だと? ならなおのことだ。 なぜそんな奴といる!? この世は職業がすべてだ! そんな無職よりこちらに着いたほうがいいのは分かるだろう!」
「いいえ全く、でもそうね一つ分かることもあるわね」
「ほう?」
「少なくともあなたより玲夜の方が強いわ、比べ物にならないくらいにね」
ランダの頬がこれでもかとぴくぴくと震えている。
「……ッ?! ほぉッ、た、大層上手に嘘を並べたのだな、ならばっ!!」
ゼニスにご執心だった彼が一転、俺の方をすさまじい形相で睨み付けてくる。
ついで俺に向かって駆け出してくる。
「はははッ、今に見てろッ!! お前の嘘を俺が見抜き、騙されている貴様の間抜けさを証明して見せよう!!」
なんかランダの口調がよくある勇者みたいになってる。多分こいつあれだな、自分に都合よい話を創っていく典型的な自己中野郎だ。
良く城では隠していたな? それともあれか弱そうなやつにだけマウント取る系か?
…………うん、そっちぽそう
まぁどっちにしろ。
「おらぁぁぁ、しねぇぇぇ!!」
力を入れたこぶしを振りかぶり、俺へと殴り掛かってくる。
が、思いきりすかす。
「……あァン?」
「はッ! ダサいことこの上ないなおいおい」
「ちッ、今のは調子が悪かっただけだよ、まぐれで避けられたからって調子に乗りやがってッ!!」
ランダは頭に血が上ってるのか、攻撃が酷く単調。
ただでさえ避けやすかった攻撃が酷く避けやすい。
「」
しかもそれにしてもまぁ遅い。
これで勇者の教育係かぁ、なんつーかたかが知れるな。
いや、待て。
これはあれかもしれない、威力全振りみたいなことなのか?
速度はもうあきらめたみたいな?
なら……ッ。
一秒、一秒ゆっくりと俺へと向かってくるランダの拳。
さながら映画をコマ割りで見てるような気分だ。
控えめに言ってかなりストレスがかかる。
しかもランダの汚い顔も視界に入るし。
……もういいや、ならこっちからいくか。
「おらぁぁぁぁっ、またあの時みたいに派手に吹き飛べぇぇっ!! ……ふびゅえェェェッ?!」
勇み込んで殴り掛かってきたと思ったら、速攻で逆に吹き飛び後方に激突、その余波で土煙を巻き起こす。
「……え?」
予想外の事態に俺はただただ唖然としてしまう。
だって、そうだろ?
俺はただ受け止めようとしただけだよ?
余りに攻撃が遅いから少しは前に出たけど、本当にそれだけ。
何か魔法をこめたとかそんなことは一切ない。
その結果がこれ。
「……え、よっわぁ」
予想以上によわぁ。
想像を上回る弱さだァ。
「まぁ必然よねぇ」
悲報:勇者の教官が想像以上に弱かった。
あけましておめでとうございます。
明日もう1話出せたら出します。




