72話 無職と魔女は知る
遅くなりました!!
完全に夏バテてました……
狐娘を運ぶこと数十分。
「……んんぅぅっ」
ようやくと言うべきかお姫様抱っこされた狐娘が意識を取り戻す。
「……ンあ、あれ?わ、私はど、どうなっ…………て」
辺りを見回し、そしてそこでようやく自分がどのような状況にいるかわかったらしい。
「……さ、ささっきのモンスター」
どうやらその勘違いは今も続いていたらしい。
「い、いやぁぁぁぁぁっ!!」
「お、おい?!あ、暴れんじゃねぇよ逆に落ちて危ないだろ!!」
「も、モンスターがしゃ、しゃべったぁ!?」
「じたばたすんなって!ほんとに危ないから!」
「……な、なんでこんなところに……ま、まさかっ……」
元から血色の良くなかった顔面が更に色味を失っていく。
どうせろくな想像はしてないだろう。
めんどくさいな。
それが率直な感想だった。
こうなったらいっそ……
玲夜が腕を振りあげようとするよりも一足早くゼニスの魔法が彼女へとかかる。
その瞬間、泣き喚いていた彼女はまたすぅすぅと安らかな寝息を立て眠り始める。
多分睡眠系の魔法か何かを使ったのだろう。
「ナーイスタイミング!」
「やらなきゃ殺してたでしょ?」
ゼニスのジト目。
多分これ本気で言ってるなぁ、俺の事をなんだと思ってんだよ
「さすがに今助けたやつを何も聞かずに殺したりしねぇよ、ちょっとうるさいから安定したとこまで寝ててもらおうかと思っただけだ、首の裏にトンっとしてな」
よくドラマとかで見るあれをやってみようかな、と。
「……トンっしてどうするの?」
え。
ま、まさか異世界ではこの首トンっ実在しないのか!?このかっこよさを分かるやつは!
そ、そんな訳ない!
「と、トンっとして、相手の意識を奪ったりす、するだろ?」
俺は縋るような気持ちでゼニスの答えを待つ。一瞬にも永遠に感じる時。
そしてついにゼニスが口を開く。
「何それ、なんでそんな非効率なことを。気絶させる余裕あったら殺すでしょ普通」
俺の希望は見事に砕け散った、はぁ。
やっぱ異世界は物語みたいに上手くは行かないかぁ、はぁ。
*
「おい、おーい、起きろ狐娘」
俺の声に反応してか耳がピクピクと動いている。
だが目は開かない。
まだ寝てんのか?そ!なら……
恐る恐る手を伸ばす。
俺が今も昔も触れたいと絶望しながらだが、触れる機会が訪れなかった場所。
「…………ハァハァ。…………ジュル」
や、やばい。興奮で心臓がバクバクいってやがる。
落ち着け俺のハート。まだ爆発する時じゃない。まだ我慢するんだ。
「お、起きてないよな?な、な、なら触っちゃおっかなー? い、いやあれだよ?やっぱ身体に傷とか着いてるかもしれないしね?、もしそんなのあって死なれたら困るしね、だ、だからこれは不可抗力なんだよなぁ。うん!!」
入念に自身の手の準備運動を行う。
心做しか狐娘の身体が震えている気もするが多分気の所為だろう。
いや、まさか…………。
瞬間天才的な考えが閃く。
「さ、寒いのか?こ、これは俺があっためるしかないのか!?ゼニスも今はなんかしにいっていないし不可抗力だなぁこれは!!」
手の準備運動も完璧に終わった。
俺の10本のフィンガーは俺の思いどおりに完璧に動ける。
「い、いくぞ?ふぅ」
そぉ……
この狐娘を連れたまま町に入っても俺らが困るだけ、だからやむを得なく触るんだ。
恐る恐る手を伸ばし、とうとう俺はそこに到達する。
もふっ。
「おおぅ……」
なんてすばらしい触り心地。
いつまででも触り続けられる、そんな予感さえしている。
それほどの心地良さがここに秘められている。
いつまでそうしていただろうか、5分かもしれないし、30分かもしれない。 時間を忘れるほどに熱中していた。 俺が意識を取り戻したのもゼニスの気配を感じたからだし。
「……何してんのよ」
「見てわからないか?」
「気絶した女の子に対してべたべた触りまくってるわね」
「言い方!!」
「ただ俺は起こしてあげようとだなーー」
「狐耳を優しく触って?」
「そう!! お前も起こすために触ってみろよ……やべぇからほんとに」
ゼニスは相変わらず呆れた目を俺に向けているが俺にはわかっているぞ?
眼が若干狐耳に向いているのを。
「ほれほれ~」
狐の耳の揺れと同時にゼニスの目元もぴくつく。
ゼニスはもはや我が術中。
このままなら落ちるのも時間の問題だな。
勝利を確信したその瞬間。
「……あの」
不意にしたから声をかけられる。
「……ぅん?」
それはここにいたはずなのにずっと存在感が無かった狐耳、と言うか気絶していた彼女。
どうやらいつの間にか意識を取り戻したらしい。
「おはよう」
「……お、おはようございます」
「ようやく普通に話せるな」
何回も気絶したとなるとさすがに慣れてきたのか、いきなり叫ぶこともなくなった。
「……あの」
「ん? どうした?」
優しめの声を意識して心掛ける。
何か言いたいことがあるのだろう。
「……お礼とか今の状況とかお聞きしたいことがあるのですが」
そこでいったん言葉が切られ、彼女の目線が上へと向く。
「……ですがその前に耳、離してもらっても?」
底冷えするような声。
その声が出てたらさっきのオークさえも逃げ出したかもしれない。
「あ」
「気づいたなら離していただけますか?」
底冷えする声はそのままに絶対零度の笑顔を向けてくる。
常人なら手を放してしまうだろう。
だがしかし!男には避けては通れない戦いもあるのではないだろうか。
それが今、この時!!
「ねぇレイヤ?」
今まで黙っていたゼニスが口を開く。
「なんだ? 今忙しいんだが」
目線は狐娘に合わせけん制したままにゼニスをちらりと一瞥。
「じゃあ手短に、それセクハラよ?」
「……なるほど」
それからの動きは素早かった。
すぐさま手を放し、5メートルバック。
そのまま流れるように頭を下げる!!
「申し訳なかった!!」
「……いえそんnーー」
「申し訳なかった!!!!」
「頭をあgーー」
「申し訳なかった!!!!!!」
「だからあnーー」
「申し訳なかったぁぁぁぁ」
どうだこの相手に何かを言わせる隙を与えない作戦。
さらに謝り続けることによって相手に怒る気力もなくさせるという高等戦術をも併用する二段構え。
「あの!」
「……ん?」
恐る恐る顔を上げれば狐娘の顔に怒りの色はなくどちらかというと困惑しているよう。
「やっとお話を聞いてもらえた!!」
「さっきも聞いてたよ?」
「言葉攻めにしてたの間違いじゃない?」
「ゼニス!余計な茶々入れない!! 会話が進まんだろう!!」
「……あなたにはいわれれたくないわね」
「ゆ、ユニークな方たちですね」
そんな俺たちの会話に狐娘は苦笑している。
何か面白いことあったか?
「ううん! 改めまして先ほどは危ないとこを助けていただきありがとうございます、狐人族のファナと申します」
「こちらこそ危うk……うっ、ううんっ?!なんでもない。 いや、こちらこそ危ないところを助けられてよかったよ、それでお礼と言っちゃなんだが……」
「そ、そうですよね、やはり相応の……」
そんな不安そうな顔されるとこっちも困らせたくな……らないなぁうん。
危うく魔法を放たれそうになった、解せぬ。
「なぜこんなところにいたのか、事情だけ教えてくれればいいよ」
しょうがなく当初の予定通りのことを聞く。
決してゼニスににらまれたとかちきったとか、そういう軟弱な理由じゃないからな?
「まぁ簡単に言ってしまえば、戦争が起きるかもしれないからです」
誤字脱字報告ありがとうございます!!




