71話 無職と魔女は救い出す
そう言えばこの作品連載して1年経ってたんですね……。
相変わらず進みが遅い笑
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「「……ぅん?」」
どこかから聞こえてきた悲鳴。
俺とゼニスは思わず顔を見合わせる。
「今のは……」
「悲鳴……よね?」
「助ける……べきか?」
「まぁ助けてもいいんじゃない? 私たちに害を与えるようならその時は殺せばいいわけだし」
「んじゃ助けておくか、それにしてもなんでこんなところにこの子はいるんだろうな」
顔を見合わせたのは一瞬。
ゼニスは気配探知を全方位に展開。
俺も上空から気配探知と同時に目視での確認。
「北30度!!」
「おっけ見えた!!」
狐の獣人が3匹のオークにのしかかられそうになっている。
ぱっと見ではまだ手遅れにはなっていなそう。
まぁあと数十秒もしたら本当に手遅れにはなるだろうが。
(しゃあない、風弾使うかぁ……あーでもやっぱあれ痛いんだよなぁこんなことなら早く自由自在飛べるようマスターしておくんだったなぁ)
「どうして私がこんな目に遭わなきゃいけないのっ?! 今日に限って家に帰るのが遅れそうで近道を通ったから?! 普段ならこんなにモンスターがいることは無いのに!! こんなことならこんな近道通るんじゃなかった!!」
彼女が泣き叫んでいる間もオークの魔手は着実に迫ってきている。
対して玲夜は彼女を助けるために飛び込みながらも少しだけ、ほんの少しだけ落胆していた。
何も彼女のことは知らないし、どういう環境で生まれ育ったのか、どういう信念で生きてきたのかもわからない。
ただ漠然と思ってしまったのだ
自身の不幸をお前は闇雲に叫ぶだけなのか。
お前はオークに好き放題にやられっぱなしなのか。
一矢でも報いようとはしないのか、と。
多分俺は狐耳の彼女を、昔の地球での俺と重ね合わせてしまっているのだろう。
なんだかんだ恨み言を言いながら何もできなかった自分と。
こんなのは自分の勝手なエゴでしかない、そう思いながら、そのまま助けようとしたその時。
「だからって」
(ん?)
彼女がぼそりと呟く。
一方玲夜は風弾によってオークの元へ向かって加速した状態。
(彼女も俺と同じ、か。)
そんな風に勝手に思っていると、今度は彼女から自身に活を入れるようなそんな声が聞こえてくる。
「これでも私は狐人族の女なのよ、こんなところで諦めるわけにはいかない、そうじゃないとお母さんが!! 狐火!!」
淡い炎が一瞬オーク共の視界を遮る。
オークは必死で火を振り払うが炎が傷をつけた様子はない。
どうやら狐火自体にオークを殺すほどの殺傷力はないらしい。
となると目的は……。
「ぐおっ?!」
炎を振り払った先にはもう彼女はいない。
オーク共が慌てて周囲を見回すと、少し離れた先へと狐女は逃げていた。
「はは盛大な目くらましってわけだ」
正に化かし。
最後の悪あがきを彼女は見せた。
それはまるでこの異世界で最後に蒼の騎士に悪あがきをした俺の姿に似ていて。
(まるでこれまでの人生を見せられているようだ)
まぁ全て玲夜の主観で、思い込みでしかない訳だが。
それじゃ俺はあの時、ボロボロの俺をゼニスが見つけ出して助けてくれたように颯爽と彼女の前に現れるとしますか。
正確にはそのあとまた彼女によって地獄へと叩き落されたわけだが……まぁそこは今回は省くとしよう。
小さな風弾をいくつも発動。
細かい微調整を加えていく。
このまま予想通りいけばちょうどオークがギリギリ彼女に追いつく前に彼女の元へと辿り着く。
そして
玲夜がオークを一太刀で3匹斬り伏せたまでは良かった。 しかしそのまま彼女の腰を抱こうとして二つの誤算が生じる。
一つは彼女が何かが急接近してくるのを咄嗟に感じて横へと飛んだこと。
そしてもう一つは……非常に残念なことに玲夜に女性経験がなさ過ぎて彼女の身体に触れることを一瞬ためらってしまったこと。
その二つの事象が相乗的に作用して起こったあまりにも悲しい出来事。
玲夜はうっかり彼女の身体をつかみ損ね、バランスをとることに見事に失敗。
だが玲夜もただでは転ばぬ男。
なんとか狐の女の子へと向けて仮面の奥からだがニヤリと笑って見せる。
「大丈夫ですか? オークはすべて殺しぶへぇぇぇぇぇぇっ?!」
だがいかんせんそれが悪かった。
紳士的に彼女を救おうとした結果、ギリギリで間に合わなかった。
紳士と化け物、二つを同時にこなしてしまった。
なんとかかっこつけようとしたら更にかっこ悪くなるという悪循環。
そしてそのまま地面に撃突。
「いったぁぁ」
だがとりあえずオークの手からは守った。
あまりにかっこ悪い騎士風の玲夜の登場に対して狐の彼女の反応はというと……
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
オークの時と全く同じ悲鳴だった。
前回と違うのは彼女はさっきのオークへの抵抗で力を使い果たしてしまったのか、それとも理解できない状況に思考を放棄したのかは分からないが、とりあえずそのまま気絶してしまったこと。
そんなタイミングで来てほしくない彼女がやってくる。
「とりあえずこの辺りのモンスターは全滅させてきたわ、それで……」
ゼニスは現れると同時にこの惨憺たる状況を一瞬で把握したらしい。
「今私はオークの代わりにあなたを討伐すればいいのかしら?」
前言撤回。どうやら状況理解してなかったぽい。
「冗談よ、冗談。 まぁでも私じゃなかったらオークの血にまみれた新たなモンスターにしかあなたの姿は見えないでしょうね」
「良かったわね、発見したのが私で」、とまで付け加えてくる。
「そんなひどいか!?」
「控えめに言ってオークよりは」
「……あっはい」
そこまでは流石に言われたことは……いやゼニスにならあったか。
「まぁ仮面してるというのも怖さを助長してるわね、控え目に言っても魔神のところで幹部やってそうだもの」
「誇張して言うと?」
「まんま魔王ね」
よっしかなり怖いことは分かった。
そっか―素顔をばらさないためのお面が仇になってしまったかぁ、そうだよな、なかなかにイケてる狐面にしたもんなぁ。
「普段のあなたの顔でもなかなかだけどね」
「おい」
「とりあえずこの子を運びましょう?」
「俺が運ぼうか?」
気を利かせて言ったつもりがなぜかゼニスにジト目で見られる。
「……なんだよ?」
「……寝てる子に手出すのはいくら何でも」
「お前の中の俺どんだけ鬼畜なんだよ!!」
「だって童貞だし」
「それはまた別の話だろ!!」
「あ、でも大丈夫よねへたれむっつり童貞だものね」
「さっきよりひどくなってる!?」
……てかまさか俺がゼニスの胸を見てたことがばれたのか?
いやしかし俺の視線管理は完璧なはず、ばれるわけが……
「……一つ言うとね。 女性って自分に向けられる視線には敏感なものよ?」
「ふむなるほど」
お、おお見通しと言う訳か。
冷汗が止まらなくなってきたな。
「と、とりあえず彼女をこんなところに置いておいたらかわいそうだ、さっさと街に戻ろうか、ゼニス嬢!!」
「動揺しすぎて言葉おかしくなってるわよ?」
もう何も言い返すまい。
この流れで反論すると余計ぼろが出そうだ、実はお尻も見てたとかそんな感じのことが。
さっきは掴むことに失敗したが、失神してる彼女なら失敗することは無い。
俺はお姫様抱っこで彼女を持ち上げる。おんぶだとお尻触っちゃうかもしれないしね!!
「はっ!!」
こ、この角度胸の谷間がチラ見できるぅぅ。
「視線」
「あ、はい」
俺はゼニスに監督されながら町への道を引き返し始めたのだった。
誤字脱字報告毎度ありがとうございます!!助かってます!!
感想とかもらえたら嬉しいなーと、ひそかに思ったり……。
それにしても玲夜、どうて……魔法使いムーブかましすぎでは?




