8話 無職は体術を学べない
魔導の次は、体捌き、剣術、防御術、まあ一括りに簡単に言ってしてしまえば体術だ。 これは魔導ほど差が出ない……なんてことはない。 どちらかと言ってしまえば、その差は魔導の時よりも如実に現れた。
体術の時間の教師役はタント、ランダだ。 回復役としてサーラもいる。 ブランは統括役として全体の様子見をしているだけだ。
「^*&%$$%(*&(*&^&*(*&^*&^%^&^%$^%^&@##$%%^&%^」
『今日は体術だ。 しかしその前に君たちのどの程度の実力があるかを見せてもらいたい。 ステータスだけでは測れないところもあるからね。 ということで模擬戦をしてみてくれ』
ちなみにこのタント、めっちゃマッチョだ。 もう筋肉がもりっとしている。 ボディービルとかでも通用しそうなほどだ。 逆にランダは細マッチョな感じで優しそうな印象を受ける、無口だけど。
「*%*^%%%^^^&$#$$&&$&^#%^#」
『組み合わせはそうだな、女子同士、これは決定。 それにうーん。 今回は秋人が2人分やってくれればいいか、ジョブ的には君が適任だし』
ジョブが騎士王だからか。 確かに秋人のステータスは近接戦闘においては頭一つ抜けている。 総合力では柊なんだろうが。
「@!@#$%$#@#$%$$**&^%$%^&」
『最初は秋人と玲夜だ』
大丈夫だろうか俺。 ステータス紙のようだぞ? いや大丈夫か、タントもステータスだけでは測れないって言ってたし。 てかダメだったら戦わせないなだそもそも、うん。
タントが秋人の近くで何かを言い秋人がそれに頷く。
何を言ったかは気になるが今は模擬戦だ、魔導はダメだったが体術ならいける気がする、高校の時は体育の成績4だったしな!
俺と秋人は訓練場の中心で1メートルほどの距離をとって相対する。
「%$%^&^%$#」
タントの合図らしき声が訓練場に響く、その瞬間だった。
「へ?」
訓練場に決して似つかわしくない間抜けな声。
もちろん俺の声だ。
しょうがない、思わず漏れてしまったのだ。
相対していたはずの秋人が開始の合図と共にいきなりふっと消えたんだから、ふっと。 絶対俺じゃなくても誰だってそんな間抜けな声を出してしまったはずだ。
「おーい」
不意に後ろから声がした、今のこの状況で考えられるのは秋人しかいない。
「っ?!」
急いで振り返った俺の額に秋人のデコピンが炸裂、これも全く見えなかった。
デコピンを受けた瞬間、ふと思った。
「何やってるんだ俺……」
デコピンだけで俺は盛大に吹っ飛び、訓練場の壁に激突、そのまま意識を手放した。
*
「やはりか」
統括官である俺は2階から下の訓練場で行われていた模擬戦の様子を見ていた。 下では玲夜が秋人のデコピンを受けて吹き飛ばれ、倒れている。
それを慌てた秋人が駆け寄っていく。
「おい!!大丈夫か!?」
返事はない。
すぐに柊、桜、夏希も駆け寄っていく。 全員が青い顔をしている。
回復役のサーラが駆けつけ回復魔導の詠唱を始める。 死んだり、身体が動かなくなるということはないだろう。 こういう時のために王国でも回復役としては五本の指に入るサーラも帯同しているんだしな。
タントが俺の方を向き首を左右に振っている。 あいつも俺と同じ結論に至ったのだろう。 その横のランダも同様の表情だ。
「やはり玲夜は彼らと一緒に訓練することはできんか、というよりも戦力としても期待できないだろう」
彼も勇者と同様に召喚されたはずなので、可能性はあると思って一緒の訓練に参加させて見たが、言葉は分からない、魔導は使えない、秋人の動きにもついていけていない。 彼からしてみたら秋人が消えたようにしか感じなかったはずだ。 後ろに回り込まれたことにも声をかけられてようやく気付いたぐらいだから。 近接戦闘系のステータスではない桜や夏希でさえも見えていたのにだ。 加えて秋人は力を1割も出していなかった。
「はぁ」
ここまでくると流石の俺でも彼には同情せざるを得ない。 彼は本当に無いもの尽くしだ。
数日しか見ていないが彼のある程度の人となりは理解できた。 年の割に他の者たちよりも落ち着いていて、ポジティブな性格だ。 魔導の練習に参加できないと分かったら、筋肉トレーニングをしていた。 それはまあ意味のないものだった訳だが……。
だから惜しいと思う。
絶望的なほどに才能がない。
強くなる素養がない。
さらに言葉もわからない。
彼は残念だが勇者一行のパーティーに入れるのは無理だな。 悔しいがそう報告するしかない。
……彼のことは心配だが、流石に貴族や王も勇者として召喚されたものを無下に扱うようなことはしないだろう。 こちらの都合で一方的に呼び出しているのだし。
「とりあえず玲夜のためにできることはすべきだな。 後であいつに会いに行くか、確か城にいたはずだし」
あまり気は進まないが……この際しょうがない。
あいつは確か過去の勇者たちが使っていた異世界の言葉の研究をしていた。 あいつなら玲夜と喋れるかもしれない。 多分あいつは研究で頭がいっぱいで勇者召喚のことも気付いていないはずだからたぶん俺の話にのるはずだろう。 あいつが好きそうな話だしな。
(好きなことを話し出すと止まらなくなるんだよなぁあいつ)
ブランは若干の憂鬱を忘れる為にも柊たちへと視線を移す。
下では正に応急処置を施された玲夜が担架に乗せられて、サーラとともに訓練場を後にしていた。 それを見送る柊たちの顔色は未だに青ざめたまま。
しかしこれで彼らは分かっただろう。 自分たちがどれだけ力を持っていて、どのように力を扱わなければならないか、あの様子では増長する心配も今のところはないだろう。
(いい教訓にはなったか……最初のうちに学べてよかったと……考えるべきか。 だがあいつらと後で少し話さないといけないな)
ブランはそう結論づけると、王城へと足を向けた。
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