67話 魔女の独白
今回長めのゼニス視点です。
多分誤字のオンパレードです、申し訳ない。
「さて、俺の名前も豚から取り戻したことだし今後について話そうか」
玲夜は真剣な眼差しでそう話し始める。
対して私の心境は複雑そのもの。
それが自身の態度にも表れてしまっている。
「そうね」
本当は話したくない。
これがただの逃げだということは分かってる。
いつかこんな日が来ることはダンジョンの途中から覚悟していた、けど……。
ダンジョンを上るにつれて、玲夜と会話をするにつれて、ダンジョンを出ることを夢見るその一方で、その夢が現実になる恐怖も増していった。
「これからのことを話せるようになるまで長かったな」
玲夜はそう無邪気に笑う。
「ええ何十年じゃすまなかったもの」
「それは俺もだ、お前のおかげで」
そう言いながらも玲夜の口調に私を責めるようなものはない。
「最初の絶望的な状態からよく普通にここまでこれたと思うよ」
柄にもなく玲夜が感傷的なことを言いはじめる。
「最初はゴブリンに追い掛け回されるぐらい弱かったものね」
「いやお前その姿実際に見てないだろ。 ……でもまぁそうだな、こんな俺を召喚してあげく政争の道具にしてポイ、おまけに蒼いやつらにはゴブリンをけしかけられて遊び殺されそうになったりもした」
顔は笑顔のままだが、玲夜の声が、雰囲気が、眼が、自分を苦しめた者たちへの復讐心を物語っている。
それほどの凄惨な笑み。
彼の復讐に対する思いは最初から一貫してぶれていない、口には出していないけど心の奥底にはいつも秘められている。
(でも復讐に関しては私も変わっていない、魔神、それに私を裏切ったやつらを徹底的に苦しめる)
復讐のために私はダンジョンを突破しようとした。
それこそ、見ず知らずの可能性に満ちた玲夜を問答無用で地獄に叩き落して抜け出そうとするぐらいには。
玲夜は利用するだけのはずだった、ダンジョンをもし仮に出れたとしてもそこで終わりの関係と思っていた。
それで彼が私に恨みをぶつけてきてもしょうがないと、そのことに関しては今でもそう思ってる。
(気にしてないとは言っても、でもこれ以上一緒にいるとは限らない、というか一緒にいるはずがない)
私は、ダンジョンを出たらこの関係は終わりといういわば仮初の関係と評するには、最初とは正反対の感情を彼に対して……多分持ってしまっている。
だからこれから出るのはサヨナラの言葉。
「だからゼニスには感謝している。 何も持っていなかった俺を助けてくれた。 っていうにはかなり強引だったけど、あの女めちゃくちゃ泣かしてやるし犯してやる、て最初はめちゃくちゃ恨んだけど」
言いながら玲夜は苦笑していた、当時のことを思い出していたのだろう。
だが玲夜の言葉はまだ終わりじゃなかった。
目線を上へと上げてみればそこには苦笑をうかべていた表情は既になく、代わりにただ真剣な眼差しで私を見つめていた。
「だからまぁなんだかんだいってもゼニスには感謝している。お前はこの世界で俺を助けてくれた、たった二人だけの恩人だ」
「でも私はあなたを何十年、何百年と閉じ込めたのよ?その私に感謝するの?」
「……まぁ確かにな、そりゃめっちゃ恨んださ。でもな結果的には俺のためにもなってるんだ、それにちゃんと理由もあった。 てかそれは最初の俺の願い、「強くしてくれる」ってので消えたはずだろ?」
それは本当は私があなたにお願いしたかったこと。、私と共に戦えるようになってくれることを。でもあなたは自分から言った、自分の無力さを痛感したからとか色々理由はあったのかもしれないけど。、でもあの言葉に私は少し多分救われた。
「でもそれは……」
「俺がいいって言ってんだ、もういいだろ? 俺はお前に感謝しているんだ、ありがとう」
「っ」
しかしそう笑う玲夜の顔は屈託のないもので、何十年と一緒にいた中で初めて見た顔だった。
(こんな顔も出来るんだ……)
これもまた玲夜の本質だったのかもしれない。
しかし周りがそんな彼を殺したのだろう。
その瞬間に私はいなかったから、推測でしかないし今となってはこんなことを考えるのは何の意味もない。
無性に悲しくなり怒りもし、そして一方で喜びも不謹慎ながら感じていた。
私にだけ見せてくれたその表情、ということ。
そんな自身の思考に私は思わず苦笑してしまう。
(思った以上に私は溺れているのかも)
まぁ言われたところで絶対に認めないが。
しかしそんな私の苦笑を玲夜は別の意味に受け取ったらしい。
「なんで笑ってんだよ、ったくだから言いたくなかったんだバカにされると思ったから」
憎まれ口をたたく玲夜にさっきの面影はもうない。
「ふふ、別にバカにはしてないわ、ただ玲夜もちゃんと感謝を言えるんだと思っただけ」
「……」
玲夜は虚を突かれたかのように私の前で間抜けな顔を晒す。
「なに、間抜け顔して」
「……っ、いやなんでもない」
明らかに何かを隠した様子の玲夜。
私が顔を覗き込んだらブオンと効果音がするぐらい顔を背けたし。
「何よ」
「やめろ止めろ、氷結させようとすんなって……て危なっ?!」
ついいつもの癖で魔法を放ってしまった。
まぁいいか、どうせこれが最後なんだから。
「……それで?思い出話がしたかったわけじゃないでしょ?」
あえて自分から話し出す。
自分でけじめをつけるために。
無様に追いすがるような真似を私はしない、出来ない。
ここまでで十分私は救われた、だから――
「……ああそうだこれからのことを話そう、俺たち今まで未来のことは何も話してこなかっただろ?」
それは私と玲夜が意図的に避けてきた話題。
「俺はこれから復讐する、ていうかもう始めちまったわけだが。 ゼニス、お前も復讐するんだろ? 魔神に、お前を裏切った元仲間に、まぁそれは生きていたらだろうが」
「何言ってるの、そんなの関係ない。死んでたとしても生き返らせて復讐するわよ?元の世界に戻ってたとしても連れ戻して苦しめる。 あの女の前で崇拝する神様をボロ雑巾のようにしてみせる、あいつらの大切なものをすべて目の前で木っ端みじんにして見せる」
「おぅおぅ、こりゃ二人合わせたらもう世界の敵だなぁこりゃ」
「何言ってるの?あのダンジョンに入った時から世界は私たちの味方じゃないわよ?」
「間違いないな」
復讐を望むのは一緒。
だが相手が違う、だから私たちの道はここで分かたれる……。
「復讐だけか?」
「……え?」
だからいきなりのわけわからない質問に面食らう。
どういう意味?
「俺はな思うんだよ、復讐だけのぞんでそれを達成する、そりゃ確かに目的達成できてハッピーだ。お互い本気で戦うんだから」
……玲夜が何を言いたいのかわからない。
「俺さダンジョンに入った時、まぁ落ちた瞬間だな、「自由に飛びたい」って思ったんだよ」
「……」
「だからさ復讐もしたい……がそれ以外にもうまいものをたらふく食いたいし、死ぬほど惰眠もむさぼりたい、今までできなかったことをしてみたい」
そんなことは私もしたことがない。
「自分の思うままに生きてみたい、これまで何かに縛られた人生だったからこそそう思う」
「そう……」
「だからさ復讐だけにかまけてらんないんだ、俺は正直片手間に復讐してやるくらいがちょうどいいと思ってる、だってそうだろ?相手は本気でビビってんのにこっちは知らん顔して観光なんかしてみろ? それを知った時のやつらの顔を想像したら復讐だけよりもっと愉快じゃないか? んで最後に悔しがる顔を見ながら殺す」
ああ、なんて傲慢なんだろう。
かつての仲間も魔神もイシュバルという国もそのすべてが普通に復讐を考えてみても困難なものばかり。
それを片手間に復讐、なんと愚かで非現実的で傲慢で、そしてなんて ̄―――-
甘美な響きなんだろう。
でもそこに私はいない。
あなたの隣に私はいない。
だから私にできるのは快く送り出すだけ。
「いいんじゃない? あなたの新たな人生なんだし、自由にしなさい」
羽ばたく人を私はただ地上から見ているだけ。
私の心は結局あのダンジョンのようにとどまったまま。
ダンジョンを突破してもそれは変わらない、変わらなかった、変われなかった。
「はぁ? 何言ってんの? お前も一緒にやるんだよ」
当たり前のように話す玲夜に私の思考が完全に停止する。
「……え?」
「え?じゃねぇよ、なんで別々だと思ったの? これ全部俺とお前の話だぞ?何他人事みたいな顔してんだ?」
「……でも私とあなたの関係はダンジョンを出るまでって」
「……え? そうだったの? てっきり俺は最後まで復讐するつもりだったんだが」
「……?」
「……?」
気まずい沈黙が部屋の中に満ちる。
「わ、私の敵ってことは魔神も宗教もそれに多分この世界では伝説的存在になってるタクトたちよ、それを分かって言ってるの?」
「うん」
「……う、うんって」
そんな簡単に……
「世界を敵に回すだけだろ? そんなの今までと何も変わらねぇよ、地球でも異世界でもな」
そう、そうだった彼はずっと一人で戦っていた。
なら今度は私も一緒に世界を敵にしよう。
「最後まで?」
「ああ、最後までだ」
「もし復讐が終わったら?」
「ん―、またその時考えればいいんじゃね?二人で」
何とはなしにいっているんだろうこの魔法使いは。
それがどれだけ私の心を救ったのか彼は分かっていないだろう。
なら今度は私があなたを……。
ただそれはまぁいいとして……
「ふぅ……」
椅子に腰を下ろす。
なんだか少し疲れたかもしれない。
ここ最近色々と、というかこれからのことを考えて気を張り詰めていたから。
なんかほっとしたというかなんというか。
とりあえずものすごい疲れた。
「どうした?」
「うーん、ちょっと寝たい」
「え?おれと?」
「じゃあ寝る?」
しょうもない童貞みたいな発言をしてきたのでいつもなら吹っ飛ばすところだけど今回はあえて乗ってみる。
「……え?」
あ、玲夜が困ってる。
なかなか斬新な顔してる、サルが獄炎と氷結を左右両方
さっきまでかっこいいこと言ってたけどこういう間抜け顔も笑えていい。
「ふふ冗談よ、あなたが寝るのはそこの藁布団、それじゃおやすみなさい」
私の頬からは自然と笑みがこぼれ落ちていた。
そのまま布団に包まれる。
外からは玲夜の、「ど、童貞を弄んだなぁぁぁ」という叫びが聞こえてくる。
ああ、気持ちよく寝れそう。
それはそれとして玲夜自分で童貞って認めちゃってるけどいいのかしら?
「……おやすみなさい、魔法使いさん」
「……ああおやすみ魔女さんよ」
不貞腐れながらもしっかりと反応を返してくれた玲夜の声に安心して私はとうとう眠りに落ちた。
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早く作りたいとは思ってるんだ……
ただ心情描写なかなか難しい……




