66話 無職と魔女のこれから
めっちゃ遅くなってしまった……。
三日ほどして俺はゼニスが待つ拠点へと帰ってきた。
「あ~、疲れたぁ」
着替える時間も億劫で、着の身着のままベッドへとダイブする。
そこには当然ふんわりとしたベッドの柔らかさがあるはず。
俺は天国にも向かうような気持ちでベッドの温もりを感じる……はずだった。
「【風弾】」
「げふっ」
怜悧な声が聞こえると同時横から風が吹き俺の身体をちょうど2メートルほど着地点をずらされる。
その結果、ダイブした先にあるのはベッドではなく硬い硬い地面。
そこに頭から突っ込む。
「はがっ……!?」
「何しようとしてんの?」
上から聞こえてくる声はもちろん氷結の悪魔。
「……せっかく長旅して帰ってきたんだから休ませてくれても良くないか?」
いくら相手が氷結の悪魔だからといって俺がここで抗議の声を辞めたら正義が成り立たない。
俺は負けられないんだ!!
謎の使命感が俺には宿っている。
「無理」
「なんで」
いつものゼニスならもう少し優しい気がするんだが?
今日はいつにも増して厳しい気がする……はっ?!
分かってしまった、俺は分かってしまったぞ!!
これはあれだ。
よくラブコメとかで見られる「私を三日間も置き去りにしてどこの馬の骨と遊んでたのよっ?!」みたいなやつだ。
もうそれしかない、ありえない。
分かってしまえばゼニスの一連の行動も可愛らしく思えてくる。
「何その微笑ましいものを見るような目は」
「……え?」
そりゃこんな顔にもなっちまうだろツンデレ……なのは分かっていたことだがその真意まで悟ってしまったんだから。
「三日もいなくて悪かったな」
そうだよなぁ、基本的にずっと一緒だったもんなぁ。
そりゃゼニスもさみしくなるって。
「そんなことはどうでもいいのよ、それよりなんであなたはダイブしようとしたの?」
どうでもいいって……またまた。
でも指摘されるのはやっぱ恥ずかしいよな。
ここはゼニスに合わせてやるかぁ。
「さっきも言ったけど疲れてたからだぞ?」
逆にそれ以外なくない?
「まずそれ私のベッド」
ゼニスが指さすのは俺がダイブしようとしたベッド。
「んじゃあ俺のは?」
「あれ」
指のさす先にあるのは大量の藁。
ふわふわの、安眠できるようなベッドらしきものは見当たらない。
「……どれだ?」
「だからそれ」
それって言われても……
「藁しかなくね?」
「ちゃんと見えてるじゃない」
「藁で寝ろってことですか?!」
「そゆこと」
「ひ、ひどくないですかね……疲れて帰ってきたっていうのに」
俺がそう言うと、ゼニスは目に見えてため息をつく。
あぁ、これが中年サラリーマンの気持ちか。
居酒屋で誰かが言ってた、俺が家帰ると妻が露骨にため息をついて夕食を準備しだすんだよ、と。
まぁ盗み聞ぎなんですけどね、そんな飲みに行くような間柄の人なんていませんでしたからねはい、一人で楽しく飲んでましたよええ。
「自分の格好をよく見てみたら?」
恰好?
至って普通の黒い格好だが?
「……はぁ、黒だから目立ちにくいけど血がこびりついてるし、それに匂いもすごいわよ野蛮人みたい」
「や、野蛮人……」
そういえば首撥ねた時血が噴き出してもろにかぶったわ。
人間殺したの初めてだったからミスったんだよな、そういえば。
まぁ魔物の血で慣れてたから人間だとしても特に気にもしなかったけど、このままベッドにダイブしたら悲惨なことになるのは間違いない。
「つまりこのままだったら藁確定ってこと?」
「そ」
「んじゃ風呂入れば?」
ゼニス、無言の微笑み。
よっし。
「風呂行ってまいる!!」
俺は気合十分でお風呂へと向かった。
「なんでだよ!!」
意気揚々と風呂から出た俺に用意されていたのは相も変わらず藁布団だった。
因みにちなみになんだが、もう本当にどうでもいい事なんだが……藁布団の寝心地はまぁまぁよかった。
*
「……よし体調も良くなったし話をしようか」
「そりゃあれだけ熟睡したら嫌でも体調は良くなるわよね? 最初あんなに嫌がってたのに」
ゼニスにしては珍しくニヤニヤしたような、からかいの視線が俺へと突き刺さる。
「そりゃベッドが隣にあればそっちで寝たくなるだろ? ダメだったから仕方なく藁で――」
「あら、じゃあ地面で今度から寝る?」
「なんでだよ!!」
酷くなってんじゃねぇかっ!?
「まぁレイヤがお願いしたらベッドに寝かせてあげてもよかったんだけど」
「……え!?」
どうせダメだろうと思って藁で寝ちゃったよ!?
「え? 移動させる気あったの?」
「私もそこまで鬼じゃないわよ」
「……フーン」
信用できないなぁ。
「は?」
間髪入れずににらみを利かしてくるそういうとこ!
そういうとこが鬼だと俺に勘違いされる理由だと思うんだよね!
そんなんじゃ人付き合いなんてできないよ?
「あなたよりましよ?」
え?今俺心読まれた?
嘘だろ?
……なんていつまでも話していてもしょうがない、既に一晩経ってしまっている。
「まぁそういうことにしておいてやろう、それで――」
「ーー何その言い方?」
ん?やけに今日は突っかかってくる、いやよく考えたら昨日からか。
いつもならここで終わらせるはずなのに。
ここでようやく俺はゼニスの異変へと気付いた。
「……おいどうした?」
「何が?」
彼女は顔を背けたまま返事してくる。
しかしその声音は若干固い。
「なんか変だぞ?」
ゼニスの息を呑む音が聞こえる。
自分でも気づいていなかったのだろう。
「そんなことないわ。 それより話をするんでしょう?」
そう言って振り向いたゼニスの顔は微笑んでいた。
しかしその顔はどこか、そうまるで悲壮な決意を固めたみたいなそんな顔。
それは俺に有無を言わせぬほどの圧力があって……
「……あ、ああ」
俺はただそう頷くしかなかった。
……なんで?
ゼニスの変化に俺の頭の中は疑問符でいっぱいだった。
評価いただいた方はありがとうございます!!
そのまま感想もらえると、作者はより心躍ります!!
誤字脱字報告ありがとうございます、本当に助かりますので今後もしていただけると嬉しいです!!
中途半端なところで終わってしまいすみません……。
なるはやで、なるはやでっ、つくりますためどうぞご容赦を……。




