閑話⑨ 白銀騎士団の帰還と王城の衝撃
すみません、遅くなりました!!
今回、視点の移り変わりがあるので読みづらかったら申し訳ないです……
地形が変化したあの日から一か月。
白銀騎士団は夜中になってようやく王都へと帰還した。
みな歩く姿には覇気がなく、出陣した時にみていたブランなどが見たらまるで別人のように見えただろう。
ミリアは団員には王都に着くと同時に解散を命じ、自身はローリーと共に城へと報告に向かっていた。
しかしミリアたちの足取りは重い。
「団員たちの士気は少なからず下がっていたね」
「……ああそうだな、私も団員の前でこそ気丈にふるまいはしたがさすがに今回のは堪えたよ」
苦笑しながらミリアは話すがやはりその声にはいつものような力強さはない。
普段白銀騎士団団長としてふるまうミリアが、そこまで親しくもないローリーに対してここまで言うということは珍しい。
逆に考えれば、それだけ今回の一件が彼女に対して与えた衝撃が大きかったという事だろう。
「あれは誰がやっても同じ結果になったと思うよ、むしろ白銀騎士団だからこそあの程度で済んだといったほうがいいんじゃないかな」
「……それは慰めの言葉か?」
「違うよ、これはただの事実。 だって見たでしょ? あの山の形を変形させたレイヤの魔導を」
「……ああ」
「あんなの僕たちがやろうとしたらそれこそ大人数で長大な詠唱とマナを使って、ようやく出来るかどうか、そしてその成功確率も良くて50%と言うところ」
「賢者がそういうならそうなんだろうな」
「しかもレイヤはそれを息も乱さず成し遂げた、しかも彼は最低でも君と同レベル以上で接近戦が出来る」
「同レベル? 冗談を言うなんて賢者らしくない」
ミリアは皮肉気に笑う。
「あの男の方が明らかに上手だよ、ここまで私が手も足も出なかったのは初めてだ」
ミリアは幼少の頃から天才と言われてきた、それがこの若さで白銀騎士団団長に推薦された要因でもあるし、それは全団員が認めていること。
世情に基本的には疎いローリーでさえミリアの噂は知っている。
今回のことは天才と言われてきたミリアにとっては初めての大きな挫折と言えるのかもしれない。
「そうだろうね~」
ただの相槌。
今のミリアに余計な言葉はいらなかった。
なぜならこの後にミリアが言葉を続けるであろうことをローリーは知っていたから。
そしてローリーの予想はまさにその通りで……
「だからこそ我々はもっと強くならねば、別に1対1で勝たなくてもいい。 無論勝ちたくはあるが出来ないなら集団で勝てばいい。 必要なのは負けぬことだ、それこそ今回のようになっ!!」
今回白銀騎士団は完膚なきまでに負けたといっていい。
自分達から攻撃を仕掛け、反撃され負けた。
生き残れたのはひとえにローリーのおかげでしかない。
「ああそうだね、でも――」
ローリーはそこで言い淀む。
「勝つ必要がないのが一番なんだけどね」
そう、いまだにローリーはレイヤと戦いたくないと思っていた。
無理もない、彼がこの異世界でレイヤと一番に言葉を交わし合った仲で、こんな変人に嫌な顔せず付き合ってくれた友人なのだから。
「無論、私だって戦わなくていいなら戦いたくはない。だが彼は、この国のことを【敵】と明確に告げたのだろう?」
ミリアもその時は気絶していたため、これは団員からきいたことでしかない。
「……うん」
「彼の事情は聞いたがそこまで言うということはもう話す余地はないだろう」
「僕たちが悪いのにね、でも守るために戦わなきゃいけないなんてね……」
「無能な王どものせいさ」
「ほんとにね」
この点に関してミリアとローリーは完全に意見が一致していた。
「いいのかい?自分の親だろう?」
「関係ないさ、既に騎士として生きていくと決めている」
ミリアは一応王家の三女だった、政治に関わりたくなくて騎士になったが。
そこでミリアが大きなため息を吐く。
「……はぁ、これからその王に会うと言うのは気が重い」
「僕だって会いたくないよ、1人だったらなんやかんや言って放り出してたよ」
「お前ならやりかねないな」
そう2人でこれから起こるであろう面倒ごとを思い、深いため息をつきながら報告の為に王城へと向かっていった。
*
「……報告せよ」
深夜にも関わらず帰投と同時に王城へと呼び出されるということはそれだけ王が情報を欲しているということだろう。
災厄の森調査を任されたのは白銀騎士団団長であるミリアの為ミリアが簡潔に報告していく。
そしてとうとうレイヤたち出現の話になる。
「では簡潔に説明させていただきます。災厄の魔女が復活しました」
「それだけではないのだろう」
それだけではない、確かにその通り。
「災厄の魔女、それともう一人……いました」
「先に来た情報では魔女と一緒にいたのは男であったということだけは聞いておる。もう少し詳細な情報はあるか」
「私たちが見た男、それは――」
ミリアはそこでローリーに視線を送ってくる。
言っていいか、と言うことだろう。
首を一つ頷いて首肯する。
自分一人の感情を国の安全よりも優先することなんてできない。
「レイヤ・ツキシロです」
「……レイヤ・ツキシロ? どこかで聞いたことのある名だな」
自分で謀殺した癖に名前すら覚えてない、そのことにローリーは腹が立った。
報復されて殺されても仕方ないと思わせてしまう程には。
少しの間が開いて宰相のフォンが耳打ちする。
「例の男です、勇者としては異例の無職という職業を持って現れ、穏便に退場していただいたあの」
「穏便ねぇ、本当に額面通り穏便にしていたらこんなことにならなかったんじゃないのかな?」
王と宰相、二人の言い分に流石のローリーでも我慢できなかった。
「……何が言いたい」
「自業自得では、と?」
「ローリー!!」
ローリーの挑戦的な言動に慌ててミリアが諫めに入る。
「ほぅ言うではないか」
「諫言も賢者の役目ですから」
「小童が……」
しばし二人はにらみ合う。
お互いに一歩も譲らず場は停滞しかけた、そんな時聞こえてくる第三者の声。
「もういいのではないでしょうか?今大事なのは魔女たちに対する対策では?」
宰相であるフォンの言い分に王もローリーも二人して閉口する。
「それにしても信じられませんな、あの無職の男が魔女の力も借りず一人であの白銀騎士団を圧倒するとは……」
「それは私たちの言葉が信じられないということか?」
「そういう訳ではないのですが……」
半信半疑なのだろう。
「確かに途方もない話です、しかし紛れもない事実でもある。 私たちも好き好んでこんな変なこと言いませんよ、それでも信じられないならガラタ山を直接見にいってきては? そうすれば自ずと分かるはずですから」
ミリアの挑発をフォンは軽く受け流す。
「まだ信じきれませんが賢者殿がそう言うならそうなのでしょう、ではその前提で話をさせていただきます」
「……うむ」
「レイヤ・ツキシロが魔女の一味と言うのは対外的に言えば非常にまずいです、あれの素性を調べられたらいずれ勇者召喚で来たことが発覚するやもしれませぬ、ただでさえ召喚もかなり危うい橋を渡っているのです、このことまでばれたら我々は他国からみたら格好の獲物です」
「そうよな」
「しかし災厄の魔女復活の件はいずればれるでしょう、ですのでここは魔女は一人の配下を連れていただけと他国には伝え詳細な情報を知る前に逃げ去っていった、そういうことにしましょう」
「それしかないか……」
王もフォンの言葉にうなずく。
ミリアもローリーも口を挟まない。
釈然としない気持ちはあるが国を思うならそれが一番合理的ではある、あるがその伝え方でレイヤたちの脅威が伝わるのかとも思ってしまう。
(まぁそれは自分たちが口出すべきことではないか)
「お話は以上でしょうか?」
「一つ言わせてくれ」
「はっ」
王は真剣な眼差しとなってミリアを見つめる。
「あまり無理はするな」
「……御冗談を。 今回の汚名はなんとしてでも雪がせていただきますので、では」
そう言い切ると踵を返すミリア。
「ならばその働きに期待していよう」
王のその声は既に娘の心配をするものではなく、一人の臣下として扱うものだった。
*
王の会話をひそかに魔法で遠方から聞いていたものたちがいた。
「へぇ、そうくるか」
ミリアにかけておいた魔法が早速役に立ったよう、まぁかなりマナを使うから乱用は出来ないのだけど。
玲夜は一瞬だけ何かを考えるように顔を俯かせ、すぐにゼニスの方を見てくる。
「俺ちょっとサランだっけか、そこに行ってくるわ」
それだけでゼニスは彼が何をしようとしているのかを察した。
「そう」
「まぁ多分そんなに時間はかからないから、そのあと話をしよう」
「話?」
「ああ、俺らが先延ばしにしていた問題さ」
そう言って玲夜は部屋を後にした。
三日後、王城の前に一つの木箱が置かれた、それも丁寧に包装された状態で。
中を開けた門番は思わず息を呑む。
「……ひっ」
「どうした!?」
「こ、これを!!」
「…な、なんだっ、これは?!」
中には丸々と肥え太った男の生首と一つの紙が同封されていた。
紙には人の血でこう書かれていた。
【名前は返してもらった】、と。
その日王城に激震が走った。
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6月はもっと早く出せるように……




