65話 無職は借りを返す
「……どかない」
ローリーは悲痛な、それでいて覚悟を決めた目をしていた。
「そっか、それならそれで別にいいよ」
「そ、それってどういう……」
ローリーの言葉が終わるのも待たず一気に肉薄しそのまま横をすり抜ける。
「……えっ」
流石に俺もいきなり知人を倒す気にはならない。
それにローリーは別に俺に攻撃してきたわけじゃないしな。
ただこいつらは別。
「こ、こっち来たぞ?!防御魔導ジャイアントウォール展開!!」
俺とローリーの会話の間に態勢をなんとか立て直そうとしていたらしい。
さっきは恐怖で動けなくなっていたが今はなんとか動けるようになり、魔導の詠唱をはじめすぐに完成する。
完成したのはビル5階分ぐらいの高さで厚みもかなりある土壁。
複数でやっているためか詠唱時間もこの大きさの魔導にしては短い……と思う、たぶんだけど。
対して俺は軽く剣を振るだけ。
必要なのはそれだけ。
「ダメだ君たちっ!!受けようとするんじゃない避けるんだ!!」
俺に横を抜かれて驚いていたローリーだったが、すぐに後ろから俺を追いかけながら指示まで出してる。
しかしその間に俺の斬撃はあっさりとジャイアントウォールを切り裂き、後ろにいた団員たちへと襲い掛かる。
「っうあぁぁぁぁ」
「ぎゃぁぁぁぁっ」
「ぐぅぅぅっ?!」
次いで聞こえてくる悲鳴。
だけど思ったより数が少ない、多分ローリーの声に反応してその通りに行動した団員が結構いたんだろう。
流石賢者の職業の信頼感はすげぇ……。
いや違う、これはローリーの信頼が為せるわけ業だよな。
そしてこの団員たちの練度もそれなりに高い。
さっきの攻撃でダメージを負ったのはぱっと見、年齢が若めのやつら。
「我、願い奉るは風の精霊なり。 風の力を我に貸し与えたまえ! アクセラレーション!!」
背後から突風が吹き抜け、俺の横をローリーが駆け抜けていき、騎士団と俺のちょうど中間に立ちふさがる。
「俺に攻撃しなかったけどいいのか? 背後から攻撃できたはずなのに」
「そんな意味もないことはしないよ、どうせ弾かれるだろうし」
「まぁ確かに」
たぶんそれくらいの実力差はあるはずだ、まぁ油断は出来ないけど。
なんてたって職業があの賢者だ。
捨て身でローリーに来られたら俺らが囚われたダンジョンを作り出すほどのものを持つ。
まぁあれは事前にかなりの準備をしたってゼニスが言っていたからそこまでのことは出来ないだろうが、何にしろ警戒をしておいて損はない。
「ほんと、レイヤは強くなったね……」
「俺が弱かったの見せたことあったっけ?」
確か訓練してた時はローリーじゃいなかったと思うんだけど……。
「確かに見せてはないね、けどデコピンでボロボロにされたのは知ってたから」
「……あああれね」
思わず遠い眼をしてしまう。
まさかデコピンであそこまで大ダメージを受けるとは俺もいまだに信じられない。
あの傍若無人なゼニスもこの話を聞いた時は顔を伏せて5分くらい笑ってたし。
ゼニスが顔を伏せたのはやっぱ笑っちゃいけないってあの氷結女でも思ったんだろう。
「ちなみに誰からきいたんだ?」
「サーラだよ、彼女が爆笑しながら教えてくれた」
さ、サーラさんっ?!
何だろうこの形容しがたい気持ち、治療してくれたのは嬉しいんだけど、めんどくさそうにしてたしなぁ、なんか素直に感謝できないっていうか……。
思い出したらなんかむかついてきた、よし今度会う機会あったらお話でもしようかな、特にデコピンで倒された人の気持ちについてでも。
「サーラさんには今度俺からもなんか言っとかないとなぁ」
「……貴様ぁ我が国に入るつもりなのかっ!!」
そこで俺とローリーの会話を邪魔するように、なんかいきなり知らんおっさんが怒鳴りつけてきた。
「だめ!!余計なことしゃべらないで!!」
ローリーが慌てて止めに入るがもう遅い。
「……はぁ? 何お前」
「……がっ、ぐっ?!」
喋るだけ喋ったくせに俺の殺気を受けた瞬間に蒼い顔して泡を吹き気絶するおっさん。
「れ、レイヤ、お、抑えて」
ローリーもつらそうにしている。
そういえばゼニスも言ってたな、騎士団のほとんどが殺気にあてられてたって。
今回は指向性を持たせたからさっきより強くなったのか。
「ああ悪い、これで大丈夫か?」
「……はぁはぁ、う、うん」
「ローリに攻撃したいわけじゃないしな、あと俺は今ローリーとしゃべってる、邪魔すんな」
最後の言葉は白銀騎士団へ向けて殺気を飛ばしながら話した。
「邪魔だし消すか」
「待って!やめてよレイヤ!」
「なんでだ?先に攻撃してきたのはそいつらだぞ」
「そうだけど、だけど!じゃあなんでレイヤはさっき彼女たちを殺さなかったの? さっきの斬撃で殺そうと思えば出来たはずでしょ?」
「……なんで、か」
そんなの理由は一つしかない。
「君の良心が痛んだから殺さなかったんじゃないの!?」
「……良心、か……」
「だから無意識に――」
「――そりゃ違う」
「……え?」
良心からとかそんな高尚な理由じゃない。
「ただそっちの騎士団が最初に俺らを殺そうとしたのが魔導だったから俺もそれにならってお返ししようとしただけだよ、だから――――流星群」
大量の獄炎を空中から白銀騎士団へと雨霰のように降らせる。
それは最初に玲夜とゼニスがダンジョンを出た時に見せられた光景、まぁ今回の魔法の威力は軽くその数倍は出ているが。
「レイヤ……やめてくれ」
「……それはなんだ?お願いか?それとも命令か?」
ローリーは即座に答える。
「命令なんてするわけないじゃないか……だからこれはお願いだ、止めてくれ、彼女らを見逃してやってくれよ」
そういうローリーの目は真剣そのもので……。
「はぁ」
俺はローリーに、大きな借りがある。
命を救ってもらったというとてつもなく大きな借り。
それにあともう一つ、俺に話しかけてくれたというもの。
俺の気持ちとしてはこいつらはかなり俺らの機嫌を損ねた、それにイシュバルの騎士団として個人的には私怨もある。
特に俺が見逃す理由はない、が。
「しょうがねぇ」
流星群の目標を白銀騎士団の後ろへとずらし、山脈へとぶつける。 その直後大きな轟音が断続的に響き、山の形がみるみる内に変わる。
「こ、これはっ?!」
「なぁローリー俺は君に命を救われた。だから今回は俺が白銀騎士団の命を見逃そう、ほかならぬ君の頼みで」
流星群が山で爆発した余波がここまで届き、ローリーの金髪を揺らす。
「一つ借りは返したぞローリー」
「借りなんてそんなもの僕はっ……?!」
.
ローリーがそんな損得で動いてないことは。
優しいやつなのは1週間でよーくわかったから。
「もうそろそろ行く」
「い、行くって、どこにだい?」
「さぁ?」
「……そっか、教えてはくれないんだね」
「あとあいつらには――」
「――追いかけさせないよ、てか追いかけられないでしょ、あの状態じゃ」
ローリーが苦笑してみた先では山が変わった姿を見て呆然とする白銀騎士団の姿。
「かもな、ただ次同じことがあってももう見逃さない」
「……だから同じようにならないことを僕は祈ってるよ」
「別にそいつらに恨みはないから手を出しこなきゃ何もしない、そいつらにはな」
そう言い切ると一息でゼニスのところまでジャンプして戻る。
「時間かけすぎじゃない?」
戻った瞬間にこの毒舌。
「それにあいつらのこと消し炭にしてないし」
「わりぃ、ローリーには借りがあったからさ」
「はぁ、まぁあんな奴らどうでもいいのだけど」
「だろ?それに情報も手に入ったんだろ?」
「まぁね」
「それじゃ行くか」
「ええ」
ゼニスは魔法で飛び、そして俺は――
「ああ、これをまた使うことになるとは」
これからのことを思い浮かべて少し憂鬱になる、が。
俺も少しは上手くなったんだ。
「{風弾} ぎゃぁぁぁぁぁぁ」
自身の断末魔とともに俺たちははとうとうダンジョンから解き放たれたのだった。
「そいつらには、か。 君はやはり【イシュバル】とは戦う気でいるんだね」
ローリーのそんなつぶやきは誰にも聞かれることなく風と共に流れていった。
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