64話 無職と賢者
「…………ローリー」
城では優しく俺に話しかけてくれたローリーが今は険しい顔をしてこちらを見ていた。
「……レイヤで、いいんだよね?」
こちらを警戒したまま困惑した様子を見せるローリー。
その姿を見て思わず苦笑してしまう。
「……えっ、俺そんなに変わったか?」
「……なんていうんだろう、外見もまぁちょっとは変わったけど、それよりも雰囲気かな」
「そ、そうか?」
全く分からないんだが、でもまぁそういわれればそうか。
かなり長い間2人で閉じこもってたからなぁ。
「うん、まぁ雑談はこれくらいにして……さ」
「……ああそうだな、俺はローリーとのこういう会話結構好きだったよ」
「ほんの数カ月前なのにものすごく遠い出来事のように感じられるよ」
「はは、だな」
遠い出来事のように、というか俺にとってはまんまものすごく昔の出来事なんだよなぁ。
それでもこんなに記憶を鮮明に覚えているのはローリーとの時間が地球でもあまり感じたことのない、色鮮やかな時間だったからだろう。
だがそれは今も昔。
「総じて僕たちの距離も遠くなった」
不意にまじめな顔でこちらへと語りかけてくる。
「俺はそんなつもりないけどな」
「君はそうかもしれないし僕もそうありたい、でも今のこの状況がそうさせてくれないかもしれないんだよ、でも可能性はまだあるけど」
一瞬、ほんの一瞬だけすごく悲しそうな顔がよぎり、そして俺が今まで見たこともないような顔でこちらを見てくる。
「じゃあこっからは本当にまじめな質問をさせてもらう」
「……そっか、んじゃぁ俺は答えられる範囲で答えようかな」
「それじゃ質問、なんで君はこっち、レイヤでいう異世界の言葉をしゃべれるようになったの?」
「勉強したから?」
嘘はついてない。
が、馬鹿正直に答えるほどお人よしでもない。
「レイヤが勉強してたのは知ってる、でもそんなすぐに話せるようになるわけがない」
「ローリーだって俺の日本語を聞いてすぐ話せるようになっただろ?俺もいい教師がいたからさ」
まぁその教師は言語なんて教えてくれなったけど。
……訂正。教えてはくれた、肉体言語という名の言語であったが。
「僕の場合は元々勉強してたし、それに賢者の職業補正があるから」
……賢者……か、確かゼニスの前の職業だったな。
「日本にはこんな言葉があるんだぜ?『男子三日会わざれば刮目してみよ』ちょっと違うかもしれないが」
「……どういう意味だい?」
そんなこと聞いてる場合じゃないはずなのにことわざの意味を聞いちゃう辺りローリーって感じがする。
「人間は三日も鍛錬すればとても成長するって意味の言葉だよ」
「……へぇなるほど~、日本語は奥が深いね~、より興味がわいちゃうよ」
「まぁとはいっても元々は地球の日本じゃない、また別の国の言葉なんだけどな」
「そうなんだ、ところでさ――」
そこでローリーは言葉を一旦切り、そして一息に笑顔で言い切る。
「レイヤってまだ人間なのかい?」
「……はは」
いきなり核心のど真ん中をついてくるじゃないか。
「質問を変えよう、レイヤは敵かい?」
敵……か。
そう聞かれるなら――
「ローリーの敵にはなりたくはないかな」
これは本心だ。
彼はこの異世界で出来た親しい人で、そして俺の命を救ってくれた恩人の1人だから。
「それは【イシュバル】の敵じゃないってことかい?」
【イシュバル】……ねぇ。
「久々に聞いたよその国の名前」
多分おれは今嗤っているだろう。
「まぁあんまり焦らしてもしょうがないしな、ローリーの問いに率直に答えるなら答えはノーだ」
「……そっか」
ローリーの返答はすごく寂しそうだった。
だからこそ――
「なぁローリー」
「なんだいレイヤ」
「お前がここにいるってことはさ、大方大体のことは知ってるんだろ?なんで俺がここにいるとか、さ」
そう言った瞬間、目を伏せるローリー。
その態度が全てを物語っていた。
「それを知ってるならさ、俺があんな国に戻ろうなんて思うわけないのもわかるよな」
「…………」
沈黙。
だが俺は構わず続ける。
「しかもさっきの攻撃で二回目だ。前回も今回も俺はイシュバルに対してなんもしちゃいない」
まあなんもしなかった、いや出来なかったからこそ追放されたんだろうけど。
「…………」
「まあそれでも前のままだったら泣き寝入りするしか無かっただろうけどな、今は違う」
「…………それはっ?!」
「俺も使えるようになったんだぜ?まあものすごく苦労はしたが」
俺は手元に獄炎を出現させてみせる。
「…………僕にはレイヤがどれだけ頑張ったのかは正直見当もつかないし、どうやったのかも残念ながら分からない、でも多分、後ろの彼女が手助けしてくれたんだろう?」
そう言ってローリーはゼニスの方を見る。
ゼニスもこちらを見てきたので多分もうやることは済んだのだろう。
「ちがうのかい?」
「…………」
手助け?
それはなんか言葉が違う気がする……。
「…………うーん、獅子が子を谷底に落とす、いや深淵に落とすって感じかな?」
「またことわざかい?興味がそそられるけどそれよりも大事なことがある、まずは彼女を返してくれないかい?」
彼女、とはもちろんさっき俺が拉致ったリーダーらしき女のことだろう。
「ああ、別にいいよ」
もう用は済んだし。
「なら――――」
「――――ただ条件が一つだけある」
そういった瞬間、ローリーの顔が固まる。
どんだけ無茶な要求すると思ってるんだ、ローリーは。
そんなに今の俺は怖いかね。
「そんな警戒しなくてもいいよ、簡単な質問だし分からなかったらそれはそれでいい、これはただ単純な興味だから」
「……なんだい?」
「イシュバルでさ俺ってどうなってんの?」
返ってきた返答は……沈黙。
ちょっと漠然としすぎたか。
「いやなんか追放される前に金貨100枚と後家を用意するって言われたんだよ、そしてすぐに蒼いやつらにボコられた。多分その頃には俺の処遇は決まってたわけだろ?なのになんで俺にあんなことを言ってきたのか、その理由が知りたくてな」
「……っ」
「ああ気にしなくていいぞ?これは俺がちゃんとけりつけるから」
俺がやられた分を何倍にもして、そしてそれはあいつらだけじゃない。
「…………じゃあ事実だけを伝えるね、今イシュバルにレイヤ・ツキシロは、存在する」
「それは俺とは別に、ってことでいいよな?」
「うんそう、僕が実際にあったから、丸々と肥え太った男だったよ」
へぇ、そのための追放でもあったわけだ。
「ちなみに場所は?」
「……教えてもいいけど知ってどうするんだい?」
「さぁ?だから言ったろ、ただの興味だよ」
「そういう顔はしてないけどね~、まぁいいけど。サランっていう大きめの都市にいたよ」
って言われても場所は分からんのだが。
まぁローリーは約束守ってくれたし俺も守らなきゃな。
「おーいゼニス、そいつをローリーに返してやってくれ、もう用は済んだだろ?」
何の返答もなく氷に乗って女の身体が返ってくる。
だがどうやらまだ気絶してるらしい。
「ほい、これでいいか?」
ローリーが駆け寄って身体の状態を確認している。
多分大丈夫なはず、多分。
だ、大丈夫だよね?
ちょっとの間確認し、どうやら大丈夫だったらしい。
騎士の一人を呼んで後ろへと運ばせている。
「大丈夫だったろ?」
「うんそうだね」
「ああ、それじゃ用が済んだならそこをどいてくれ」
「……どうしてだい?」
「どうしてってそりゃもちろん俺たちに敵意を向けてきたやつは殺さないといけないだろ?」
そう言った瞬間、ローリーは何度目かの泣き笑いのような表情を浮かべた。
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