62話 白銀騎士団は無職と魔女の機嫌を害す
遅くなってすみません、3章正式にスタートです。
今回の視点は白銀騎士団の長ミリアです。
「「は??」」
玲夜とゼニスの声が珍しくはもり、次いで数多の魔導が頭上から降り注ぐ。
魔導が地面へと着弾した瞬間、大きな爆発音が辺り一帯に響き渡り閃光が巻き起こる。
「魔導を途切れさせるなぁ!! 相手は災厄のダンジョンを突破してきた化け物たちだ!! 気を抜いたらこちらがやれるぞ!!」
ミリアによる団員への鼓舞は魔導の勢いの増加でもって答えられる。
余計なことは言わない、それより今すべきことをやる。ミリアの隊、いや白銀騎士団の連弩の高さが伺えた。
爆煙と怒号は止まらない。
風、土、火、あらゆる属性の魔導が撃ち込まれる。
数でごり押すことは闘いの常ではあるが、白銀騎士団はそれに加えて質もある。
彼らにとって高レベルの魔導が大量に玲夜たちを襲う。
魔導は降りやまず10分間にも及び、しかしそれは白銀騎士団にとっても精神をすり減らすような長い長い10分間であった。
「……はぁはぁ、も、目標みえるか?」
魔導を撃ち終わった時、白銀騎士団の大半が肩で息をしていた。
ミリアも同様であるが疲れた体に鞭を撃ち、部下に状況を確認させるが、帰ってくる返答は確認できないとの報告。
「逆にあれだけ撃ち込んで体の一部でも残っていたら、それはそれで怖い……か」
そう言えるほど打ち込んだ自信はある。
だが油断はできない。
十中八九今の攻撃で敵は倒せただろうがそれでも相手はダンジョンを少数で攻略するような化け物。
もしかしたら今の攻撃でも辛うじて生きているかもしれない。
「総員第二波の準備を、近接もいつでもできるように用意しておけ」
白煙が晴れるのを待つ。
ゆっくりと晴れていくその瞬間がミリア、いや白銀騎士団にとっても永遠にも等しい時間に思えた。
煙が晴れた先にあったのは草一つない焼け野原だけ。
所々には大きな陥没も出来ている。
魔導を撃つ前の面影はほとんどない。
なのに――――
「…………なっ?!」
数多の陥没が出来ている中で、一つだけぽっかりと、その場所だけ隔絶されたように元の景色が残っている場所があった。
爆心地の中心。
遠目からで正しくは確認できないが人影は見える。
普段は礼儀正しく品行方正な彼女でも今、この瞬間だけは舌打ちの一つもしたくなった。
だが今はそんなことをしている時間さえ惜しい。
思考を切り替えて、追撃を部下に指示する、いやしようとした。
「魔導、第二波はな――「はぁ」
放て、ミリアは確かにそう言おうとした。
しかし言えなかった、ため息とともに放たれた濃密な殺気のせいで。
「…………ぐっ?!」
白銀騎士団の面々は数多の苦難を乗り越え、死線も幾度となく潜り抜けてきた、そんな猛者の面々。
にもかかわらずそんな面々のほとんどが今地に倒れ伏している。
かろうじてミリアは膝をつくだけにとどめているが、さすがにその類まれな忍耐力をもってしても立ち上がることはかなわない。
それほどの殺気をミリアは目の前の男から感じた。
そしてとうとう男が口を開く。
「なにお前ら」
一切抑揚のないその口調が、逆にミリアたちの恐怖感を煽る。
「……っ」
答えないのではない。
答えられないのだ。
しかしそれをどうやら男は、答えと受け取ったらしい。
「沈黙が答えってことな? まぁそれならそれでいいよ、じゃあ死ね」
彼は右手に持った無骨な長剣を無造作に振る。
その簡単な動作。
しかし生み出された一撃は莫大な質量を纏っていた。
「なっ……?!」
ありえない……。
ミリアの心中によぎったのはそのただ一言。
しかしそこで止まらないのが白銀騎士団団長足る所以。
気合で動かない右腕をなんとか動かし剣を前方に構える。
だからと言ってこの斬撃が耐えられる訳じゃない。
ただの気迫だけ。
しかし団員の前で弱気な姿は見せられない。
見せたらそれこそ踏ん張っている団員たちの士気が完全に折れてしまう。
「……まぁそれも意味ないかもしれないが」
小声で誰にも聞こえないようにぼそりと呟き、次いで苦笑をうかべる。
これは格が違いすぎる、魔神とはこのようなものなのか。
多分これでも力のほんの一部なのだろう。
惜しむらくはこのことを完全に国に情報を伝えられない点。
ただ私たちが全滅したとなればその脅威の一部は伝わるだろう。
そんなことを考えていたら、もうすぐそこまで斬撃が迫る。
もうだめ、か。ならせめて目は開いたままでっ!!
最後は騎士として、そうミリアが覚悟を決めた瞬間それは現れる。
「……はっ?!」
目の前で斬撃が何かとぶつかりせめぎ合う。
「こ、今度はなんだっ!?」
薄氷と斬撃は互いに譲り合うことは無く、程なくして薄氷と斬撃は霧散した。
「た、助かった、の……か?」
しかし疑問は尽きない。
この魔導は誰が?
私の団にこれほどの魔導、しかもあの斬撃を受け止められるようなそんな魔導を単体で扱える者は記憶上いない。
だがその疑問はすぐに解消される。
斬撃を放った男は誰がこの魔導を発動させたのかすぐにわかったらしく顔を険しくさせ私達の方ではなく、自分達が出てきた方、つまり自身の後ろに振り向く。
視線をそちらに向ければ現れたのはとても美しく、そして冷たそうな、そんな印象を与える女性。
男は険しい顔のままその怜悧な女性へと近づいていく。
「何のつもりだゼニス」
まさかの仲間割れが化け物たちの間で発生しかけていた。
面白いと思っていただけたら評価の方してもらえると嬉しいです。
評価いただいた方はありがとうございます!!
そのまま感想もらえると、作者はより心躍ります!!
誤字脱字報告ありがとうございます、今後もお願いします!!




