閑話⑧ 教官たちは回想する
3章開始しました。
「あーあ、寂しくなるわねぇ」
柊、秋人、夏希、桜の4人が王城から出ていく姿を見送りながらサーラが呟く。
「しょうがねえだろ、あいつらも期限付きとはいえギルドに登録したんだから、まあ昨日は速攻で帰ってきやがったが」
外へと向かって城から遠ざかっていく背中は少し硬い。
その背中をサーラは、まるで親から子供が巣立っていくのを見るような、そんな感傷に浸りながらみていた。 そしてそんな自分に気付き思わず自嘲する。
「……って私まだ子供なんて持ったことないのに何を考えてるのかしら」
「……その年なんだから少しはそう言うことも考え始めたほうがいいころだと思うがな」
いきなり余計な茶々を入れてきたブランの腕をサーラが思いきり捻り上げる。
「っ、いたた。わりぃわりぃっ!! だがお前のその気持ちは分かるよ」
「分かるって、あんただって子供いないでしょうが。……あ、分かるって女性の気持ちがってこと?別にそういうのあってもいいけどあんたみたいな厳ついのがそうだとちょっと反応に困るわね……」
「何勝手に勘違いして引いてるんだよっ!! ちげぇよっ!! あいつらをちょっと自身の子供のように思っちまうことだよっ!!!!」
「ああ、そっちね」
「そっちねって、そっち以外ないんだけどなっ! で、でもまぁそう思っているのは俺らだけじゃねぇみたいだぜ? なぁ?」
「ええ、今日が勇者パーティー【シキ】として4人の初仕事ですからね」
ミシャスの声が聞こえ、そちらを振り向けばゴリマッチョのタントと意外と筋肉質のランダもいる。
全員が全員、期間が短いとはいえ勇者たち4人を指導してきたものたちばかりだ。
しかも1を教えれば10学ぶ、そんなスポンジのような4人。しかも性格は素直でひねくれていない。まぁ夏希はちょっとひねくれてるけど、それも可愛い程度のもの。
だからそんな4人の門出をここにいる教官たちが見逃す訳がない。
「……そういえば最初は5人だったのよね」
「……ん?ああ」
ブランとそれにミシャスはかろうじてうなずいたが、タントとランダに至っては頭に?マークが浮かんでいる。
「今夏希たちは4人の勇者パーティーと呼ばれ、そのことに私たちは疑問さえ抱かない」
「……そうだがそれはいいことだろう、勇者としてあいつに責は重すぎた。 それにあいつも今はどこかの辺境の領主になって--」
「王の言葉を馬鹿正直に信じるほどあなたも純粋な歳でもないでしょうに」
サーラは皮肉気な笑みを浮かべ、ブランは非難するように目を細める。
だが何も言えない、なぜならそれは紛れもない事実であるから。
ブランもサーラが言いたいことは分かっている。
5人目の【無職】の勇者、いやあったと言った方が正しいか。そのレイヤ・ツキシロは十中八九辺境の権力者などになっていないこと。そして既にこの世にいないであろうということもを。
そんなことも分からぬほど伊達に歳はブランも食ってない。
しかしそんなことは言い渡された時点で【シキ】のメンバーを除いて最初から分かっていたこと、だからこそブランには分からない。
なぜサーラが今こんなことを言い出したのということを。
「……なにがいいたいんだ?」
ブランの口調は自然と厳しくなる。
そのせいで一瞬緊張感が生まれるが、すぐにサーラが破顔したおかげで幾分か緩和する。
「ブラン、そんな怖い顔しなくても大丈夫よ、本当にただの世間話程度だから。全然聞き流してくれていいわ」
「…………」
しかしブランの顔は厳しいまま。
「でも。でももしも彼が生きていたら……」
「そんなバカな、こういう時は大体仕向けられるのは青だぞ? 万が一なんてあいつらに限って……」
「だからもしもって言ってるでしょ、そんな本気にしないの~」
「……おう」
「……じゃあ続きを話すけど、もしよもし生きていたら、どれほど王たちのことを、いえそうね、たぶん私たちというかこの国自体になるのかしら。まぁそこはどうでもいいけどどれほど彼は恨んでいるのでしょうね」
「そんなの決まってるじゃないか」
悩む様子も見せずブランは断言する。
「そりゃ死ぬほど憎んでいるさ、いやそんな言葉じゃ飽き足らないかもしれないがな」
「でしょうね」
「んでそう思う根拠は?何かしらあるのだろう?」
「え、なにも?」
「……は?」
間の抜けたような表情をするブラン。
どうやらかなり真剣に考えていたらしい。
「だから言ったじゃない、世間話程度だって」
「まさか本当に……」
「そうよ」
「いつも思わせぶりなことを言うからてっきり――」
「そんなことないじゃない?」
含みを持たせるようなそんな妖艶な笑み。
そういうところだよっ!とブランは叫ぼうとしたが寸前で言葉を押しとどめる。
ただサーラの言葉には続きがあった。
「でも強いて言うなら」
「やっぱあるんじゃねぇかっ!!」
「気まぐれだからね、それに強いてだし」
「……そうか」
諦めを含んだうなずきだった。
「女の勘ね」
「そう…………か」
出てきた答えもまたなんともいえず。
ブランもさっき決意してなければまた突っ込んでいただろう。
突っ込みたい気持ちを鋼の精神で抑え込んだ。
「あの子を一度見た時があったでしょ?」
「……秋人に吹き飛ばされたときのことだな」
「あの子あれだけ大きなけがしたのに起きてからも落ち着いてたのよ」
「普通そんなもんじゃないか?」
「いえ、何かしらアクションがあるはずなのよ、そうね例えば秋人への憎しみだったり生きてたことへの安堵だったりそういった何かしらの感情が」
「俺はよく見てないから分からんがお前がそういうならそうなんだろう」
「しかもあなたのは何十年も戦ってきたからこそそういう感情にたどり着くのであって、彼らは闘いもない世界だったのよ、そう考えてみれば必然的にわかるんじゃない?」
言われてみれば確かにおかしい、彼は順応力も高かった。
いや本当に順応力が高かったのか、彼にとってはちがったんじゃないのか?
答えは出ないが、一つ言えるのは――
「――異質だな」
「ええ、そんな異質な相手に対して召喚までして連れ込んだうちの国は掌を返し、あまつさえその彼を始末しようとした」
そんな奴が力を持ったらどうなるのか予想もつかない。
どうしようか、そうブランが思案しようとし始めた時。
「そんな万が一の可能性を話しても仕方ありません、それよりもご報告が」
どうやらミシャスも話は聞いていたらしい、多分面倒そうで入ってこなかったのだろう。
タントとランダはいつの間にか消えているし。
所詮は雑談と、ブランもすぐに頭を仕事へと切り替える。
「どうした?」
「影が任務を開始するとのこと」
「ああ、了解した」
影、とは【シキ】を秘密裏に支援するための今回ブランが用意した小隊。
もし【シキ】に何かあった時に援護に入るもの。
柊たちを信用していない訳ではないが、冒険者の世界には何が起こるか分からない。
リスク管理としては当然の事でもあった。
「本当は俺たちが行きたいんだけどな」
「それじゃ彼らを冒険者にした意味がなくなるじゃないですか、それに仕事もあなたは溜まっているんですから」
「うっ……」
「ほら行きますよ」
ミシャスに連れていかれる中で、ブランは先ほどのサーラの話を再度思い出し一笑に付す。
「そんなことはありえるはずないな」
そのままブランは執務室へと引きずられていった。
最期に場に残されたのはサーラのみ。
「……思わずあんなことを口走っちゃうなんて迂闊だった」
あんな事とは「5人の勇者と言ってしまったこと」
言ってからはっとしたが、運悪くブランに聞きとがめられてしまった。
冗談半分にはしたが若干の疑念を抱かれてしまったことは否めない。
「まぁ今となっては彼らが言ったようにほぼない可能性だしね、ただあの子はうちの国が確保したかったわねぇ、本当に王も無駄なことを……いや我が国の邪魔をしたと思えば有益なのかしら?」
サーラはすぐにそんな思考を振り払う。
「今は一応この国の人間なんだからそう振る舞っておかないといざとなった時にぼろが出るわね、さっきも出そうになったし」
だからこの時は誰も考えていなかった、この万が一が現実になり、そう遠くないうちに彼女らに知らされることになることを。
遅くなりました。
物語自体は数日前には描き終わってたのに、投稿する時間まで起きてられなかった……。
予約投稿にしようかな……。
誤字脱字あったらコメントお願いします!!




