7話 無職は魔導を学ぶ
あれから3日、座学と同時に魔導の行使などの実践演習も始まった。
説明(桜訳)によるとこの世界にはマナというものが大気に満ちているらしく、それと自身に内包する魔力(MP)を混ぜ合わせて、魔導という現象を起こすらしい。 ただそれを感覚だけでやることは不可能なため、詠唱をしてイメージをより具体的にし、筋道を立てるのだそうだ。 威力の小さなものは詠唱は短く、逆に威力が大きくなるにつれ詠唱も長くマナの消費量も多くなる。 それでは大元のマナとは一体なんなのかという疑問が当然出てくるわけだが、結論から言うとそれはこの世界の人たちもわかっていないらしい。
ものは試しということで、柊たちが魔導を早速試してみる。
「我、乞い願い奉るは火の精霊なり。 汝の赤をもって我が宿敵を滅ぼしたまえーーファイアーボール」
拳大ほどの火の玉が柊の前方へと出現、前方に設置されていた木製の的を目掛けて飛んで行く。
火の玉は一直線に飛び、一瞬で的を燃やし尽くす。
その光景をみた地球育ちの俺らはというと唖然としてしまう。
魔導を放った柊でさえ、思わず口を押さえている。
俺たちに魔導を教えてくれているミシャスも唖然としているのは謎だが……。 そして柊の後に秋人、桜、夏希も魔導の発動に成功する。 桜の魔法が一番威力があって的が燃え尽きるのが早く、逆に一番遅かったのは秋人。
これはステータス、主にジョブの影響らしい。
え? 俺? そりゃ気合を入れて詠唱しましたとも。 みんなが軽く引くくらいにさ……
「ーーファイアーボーォォォォルぅ!」
…………。
辺りに漂う微妙な雰囲気。
何も起こらない。
つまりただ叫んだだけ。
身体だけは若干だるいが。
……ウソん。 このままじゃめちゃくちゃいたい人になってしまう、いや違うね、もうなりかけてしまっている。 めっちゃくちゃ気まずい。 全員が俺から目を逸らしている。 まさか異世界来てまで厨二病している所を見つかってしまった時特有の雰囲気を味わうなんて……恐らくこれを味わったのは俺が異世界初に違いない。
やったね、異世界の初めてもらっちゃったっ!(泣)
「……えーと、なんで?」
もう泣きたい……。
ポッとさ、マッチの火ぐらい出てくれてもいいじゃない? これ使用魔力10もないんじゃなかったの? 思わずミシャスの方を見てしまう。 長く青い髪の下に不健康そうな肌が見え隠れするタレ目の彼女は伏し目がちに、顎に手を当てている。 そして一拍間をおいて……とても言いずらそうに教えてくれる。
「%$^&*&^%^*&^&**&^%^&*&?!@#$#@#$#$%^&^&※()(*&^%$%&)……(*&^%$%#@&^*&……」
『確か玲夜さんは異世界の言葉が理解できてないんですよね? 多分、その影響だと考えられますね。 詠唱も勇者殿たちの言葉は異世界の言葉に変換されますが、玲夜さんの場合変換されないから、マナとうまく混じらないような……気がします。 より詳しくは賢者様でないと分かりませんが……』
よくわからんが多分ミシャスの言う通りなんだろう。 だけどならなんで気怠く感じるんだろう? しかしとりあえず魔導を俺が使えないのは分かった。 なら、体術的なものを学びに……も行けないか。 行っても言葉が分からなくて何も学べない。 マジで言葉が分からないとうのは終わってる……。 が、人生を諦める勇気もないし……、とりあえず出来る事を考えようか。
「$%^^%$#@#@(*&^&*(*?」
『とりあえず玲夜さんは見学という事で……お願いしてもいいいですか?』
「了解です!」
笑顔で答えておく。 高校生の彼らに気を遣わせ続けるのも悪いしな。
その後気まずい雰囲気が流れるが、柊たちが他の魔導を発動し始めたらそんな空気は途端に霧散する。
「これはすごいね」
「ああ、これはやべーよ柊。 俺はお前ほど上手くはできないが、それでもこりゃやべーよ、ははは」
「いや、それをいうなら桜の方だろう。 彼女の方が威力も精度も高いよ」
水を向けられた桜は少し照れくさそうな様子だ。
「でもそれはあれですよ。 私のステータスが魔導全振りみたいなところがあるからですよ。 総合力では全然」
そんな風に3人で魔導について話し始めている。 しかし1人足りない、いつもは四人でいるはずなのに。
あのいつも強気に構えている彼女がいない。
夏希はどこだ?
辺りを見回してみると、夏希は少し離れた所で魔導について意気揚々と話している柊や秋人、控え目ながらも楽しそうな桜の様子を若干困惑するような表情で見つめていた。
「どうしてそんなに……」
そんな言葉をポツリとつぶやいたかと思うと、その表情はすぐに変わり一瞬ですぐにいつもの気の強そうな表情へと戻り、3人の輪の中に入っていく。
……今のはなんだったんだ? まあいっか、それよりも俺の問題の方が深刻だよな……うん、ステータスのこととか魔導が使えないこととか色々。
特に気にも止めずに他の4人が魔導の練習をしている中、俺は黙々と誰でもやれるワイドスタンスクワット、レッグレイズ、ヒップリフトなどをすることにした。 まあ小難しく言ってみたが、簡単に、ざっくりと言えばただの筋トレである。
え? なんでやってるか? いや魔法は使えなくても武術は使えるかもしれないし、そのための基礎訓練みたいなもんよ、最近は運動もしてなかったらから身体もなまってたし……。
魔導の練習が終わった柊たちがこちらにやってきた。 夏希が俺を奇妙なものを見るような目で見てくるのは何故だろう。 え? 元々? そんなはずはない。
「ねぇあんた」
夏希から話しかけてきた? こないだ話しかけられた以来喋ってないから久々だ。
「おつかれ様、……どうかした?」
「なんで筋トレしてるの?」
「…………えーっと」
おっふ。 なかなかきついことを言ってくるな。 ようはステータス雑魚なんだからやる必要ないじゃんって言いたいのか?
思わず答えに窮してしまうぞ?
「ああ、この質問に他意はないわよ? ただちょっと不思議だっただけ」
「不思議? 不思議って何が?」
「だってあんたがやってるのって痩せたい時にやる筋トレじゃない? 確かに無駄ではないけど、ある程度引き締まっているあんたには必要ない気がしたのよ。 やるんだったらもっと他の筋肉増やすようなやつにすれないいのにと思っただけ」
え? なんだ……と。
なんかの記事のうるおぼえで筋トレしていたのにあの記事は痩せるための筋トレを紹介していたものだったのか……。 騙された……わけでもないか……。 ただ勘違いしてただけだし。
「はは」
乾いた笑いしかもう出てこない。
てことはだ、俺はどうやら一日を無駄にしてしまったらしい、泣きたい……。
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