閑話⑦ 勇者パーティー
「とうとうこの日が来たな」
ダンジョンを攻略してからもう1月ほどが経った。
あの時よりも私たちはさらに強くなった、それこそこないだ攻略したダンジョンなら傷一つとまではいかないまでも軽症で突破できるぐらいには。
「……これからが本番みたいなもんだけどな」
今日私たちは冒険者として登録し、任務依頼を達成していくことになる。
それが私たちの成長に必要らしい、とブランさんは言っていた。
多分、全部自分でやってみろということなんだろう。
「そうだね、これからは死のリスクがあるもんね」
「一応今までもあったわよ?」
「そうだけどさぁ、でもやっぱりブランさんとかサーラさんとかが後ろにはいてくれたわけじゃない? それがなくなっちゃうっていのはやっぱり不安だよぅ……」
何を今さらとも思うけど、でもそれもまた一つの事実ではある。
桜の言葉に私たちの空気も自然と重くなりかけた。
「大丈夫だ!! 桜も、いや桜だけじゃない、秋人も夏希も絶対に俺が死なせたりはしない。死んでも俺が守るから、だからそんな心配はしなくていいぞ」
柊は見るものを安心させるような朗らかな笑みを浮かべている。
これも一種のカリスマみたいなものだろう、昔も何か率先して人を引っ張っていた。
桜もさっきまで不安がっていたのがウソのように、ぽわぁっとした表情をして柊に見とれてしまっている。
それもそれでどうかと思うが、まぁさっきみたいな暗い顔をしているよりは断然いい。
それよりも見過ごせないのは――
「ねぇ、私たちを守るために柊が死んだら意味ないんじゃない? 回復役の私としては悔やんでも悔やみきれなくなるわ」
「夏希の言う通りだぜ、柊。俺が一番前で体張ってるってのに先にお前を死なせでもしたら寝覚めが悪すぎるってもんだ」
「そ、そうだよ! 私だってサポートするんだし絶対に柊は死なせないよ!後、夏希と秋人も」
明らかに私と秋人がついでみたいな言い方に思わず苦笑してしまう。
もうこれだけで桜が柊に特別な感情を抱いているのは柊も分かりそうなものだけど。
「ああ、じゃあ後ろは任せたぞみんな!」
しかし当の本人は全くそんなことに気付かない。
「桜は大変ね」
「……はは、城の中にも柊のことを狙ってるやつは多いからな~」
まぁ普通に考えればそうでしょうね、新たに召喚された勇者様で地位が高く、さっぱりとした性格で嫌味なところもなく、ひたむきに努力し自分達とは関係のないこの世界を救おうとしてくれる、後イケメン、ここ重要。
これで人気が出ないほうがおかしい。
まぁそれは秋人にも言えることではあるが。
「でもお城にいる機会は減るから、まだ全然桜にアドバンテージはあるんじゃない?」
「そう思うなら桜に言ってやれよ、ふあんがってたぞ?」
「まぁ桜からなにか相談されたら言うわ」
「はは、お前は厳しいな」
厳しい? それはちょっと違う。
「そんなことはないわよ、ただ相談されてもないのに勝手にアドバイスしたりするのは余計なおせっかいかなって」
「……でもそれが嬉しかったりするんじゃないか?」
「さぁどうかしら、私は相談したりはしないから。でも本当に困ってたら私も手助けするわよ、桜は大事なパーティーメンバーだし」
「……そこは友達って言えよ」
確かに、気づかないうちに私もこっちの生活になじんできたのかしら?
*
冒険者ギルドは柊たちの予想に反して清潔感が保たれており、中は人の数もまばらで閑散としていた。昼時でみんな依頼をこなしに行っているのだろう。
「すいません、冒険者登録をさせてもらいに来たん、です、が……」
「はーい!! 今行きますねぇ!!」
彼らの応対に出てきたのは活発そうな印象を与える綺麗な受付嬢。
かなりの美貌を持っており、柊も秋人も、男性陣は一瞬見惚れてしまう。
「……どうかされましたかぁ?」
「い、いえ! ぼ、冒険者登録をお願いしたいのですが」
「はい!!かしこまりました!! 私はここイシュバル冒険者支部で受付をしておりますセリシュと申します。 それでは説明をいたしますので奥の部屋へどうぞ!」
柊もすぐに気を取り直し、若干ぎこちなさはあるものの受付嬢の後へと続きその後に秋人たちも中へと入る。
「冒険者のルールなどはご存じですか?」
それは事前にブランが四人へと教えてくれていた。
「確かF~Sランクで上に上がるにつれて依頼の難易度も報酬も跳ね上がるんですよね?」
「はいそうです。一応補足を言わせてもらえれば冒険者の方は一つ上のランクまでなら受けることが出来ます。ただし失敗したら違約金を余分に払わなければいけなくなりますからご注意くださいね」
もし柊たちが失敗したら王国が払ってはくれるだろうが失敗しないに越したことは無い。追加でいくつか質問をしたら即座にセリシュが分かりやすく答えてくれた。
「質問はとりあえず大丈夫です」
「そうですか、それではここの用紙にご記入をお願いしますね、ただ名前以外は基本的には任意ですのでもし御秘匿されたい事柄でしたら書いていただかなくて結構です。そしてその情報をもとにギルドカードを創らせていただきます」
人数分の用紙が手渡され、用紙には名前のほかにジョブや使用武器なども書く欄がある。
「……もし書かなかったら何かデメリットみたいなものがあるんじゃ」
「通常ですとおひとりさまの場合が多いのでパーティーを組んだりする際に組みづらくなったりはしますが、あなた様方は4人組なのでその心配もないでしょう。今後も4人で組むなら別段デメリットはありませんから安心していただいて結構です、それに冒険者の方々は自分の情報は命にも等しいので書かない方も結構おられますいよ?」
「そうなんですか、じゃあ名前と、あとは使用武器ぐらいは書いておこうかな」
全員が書き終わったタイミングを見て、セリシュが新たにもう一枚用紙を出してくる。
「……これは……パーティー申請、用紙?」
「はい、これを創る事によってパーティー単位で指名依頼なども来ますし今後も長く活動していくのであれば作っておいて損はないかと思いますが。いざとなったら破棄も出来ますし」
「そうですか、じゃあそれもお願いします」
「ちょおい、そんな簡単に決めていいのか?もちろんパーティーを組むことに異存はねぇが……」
慌てて秋人が柊を諫めに入る。
「うん、問題ないよ。これを創れば個人個人に依頼が来る手間は省かれると思うんだ、それに僕たちは4人とも目的は一緒、損になるようなことは何もないさ、そうですよねセリシュさん?」
「はいもちろんです! そもそも冒険者になられる方々に我々冒険者ギルドが不利になる事をするはずがございません!!」
首を上下に動かし、力説するしぐさを見せるセリシュ。
案外おちゃめなところもあるらしい。
「じゃあ、後記入するのはパーティ名だけですね、どのような名前にするかはお決まりですか?」
柊はちらっと全員の顔を見る。
誰一人として名前で悩んでいるものなどいない。
「名前か~、あれでいいんじゃね?」
「うん、いつも通りのあれでいいんじゃないかな~」
「いいと思うわよ」
「それじゃ決まりだね、じゃあパーティー名は―――」
すらすらと達筆な字で柊は用紙に記入していく。
―――――――【シキ】
この瞬間正式に4人の勇者パーティー【シキ】が誕生した。
すみません、お待たせしました。
引っ越しやら新社会人として仕事が始まるやら色々ありまして遅れてしまいました。
今後も投稿は続けていきますが、前よりはお待たせしてしまうかもしれません。
のんびり気長に待っていただければ……と思います。
本当に仕事始まる前に2章終わってよかった……。




