61話 無職と魔女は攻略する
2章最終話です!
「あ〜、改めて思うけどここまで長かったなぁ」
扉へと続く階段を見て思わずつぶやいてしまう。
「何言ってるのよ、あなたがそんな感じで言ったら私はなんて言えばいいのか分からないじゃない」
言葉こそ強いがそういうゼニスの顔も最初に会った時のような、何もかも諦めたような顔ではなくどこか穏やかな顔をしている…………気がする。
正直いつも通りのクールビューティーさだからわからんけど、かすかにそんな気がする。
「あ、確かに。でも俺もお前に魔法で修行する空間に落とされた期間あるんだから同じようなもんでは?」
まあとは言っても俺の場合はゼニスという第三者がいたがゼニスの場合は本当にただの1人。一人ぼっち。
地球でぼっち系会社員だった俺でも他に全く誰もいないというのはあまり経験したことがない。
それを何百年、何千年希望も何も無い中でやっていたとすればその辛さは想像を絶する。
「そういえばそんなこともしたわね」
「軽く言ってくれるがあれはあれできついものがあるからな?」
「そうでしょうね、出て来た時わたしはなじられ非難され戦闘になるのも覚悟していたわ」
「他人事のように言ってくれるなぁ、もしそうなったらその時はどうしたんだ?」
「誠心誠意お話するかしら?」
「はは、お話か」
謝ると言わないあたりがゼニスらしい。
「ええ、だからあなたが私に向かって強くしてくれって言ってきた時は頭が狂ったと思ったわ」
「いや狂ってねぇよ!?現実的に考えただけだから」
それ以外可能性のありそうな方法はなかっただろうし。
「まあ狂ってるかどうかはさて置いて、そろそろここを出ましょう」
「その話題についてはさておかないで欲しいから後日じっくり話すとして、ここを出ることには異存ないし行くか」
金巨人の死骸を越え、守護者が守っていた階段へと足を踏み入れる。
階段はすぐに終わり、その先には重厚そうな扉が鎮座していた。
「ふぅ、ここを出ればとうとう待ち望んでいた外か……」
そう思うと緊張してくる。
と言うか外に出たら何をしようか。
とりあえずはここを出ることを目標にしていたからなぁ、やらなきゃいけないのはあの騎士団とイシュバルと言う国をつぶすこと。
後はうまいものとか食って後自由気ままに寝たり、後は――
「――ねぇ何してるの?早く扉を開けてよ」
「ったく人が感慨にふけってるというのに、情緒の分からない奴だなぁ」
「そんなの外に出てからでもできるでしょ、こんなところ一刻も早く出たいの私は」
ゼニスの気持ちになってみればこんなところは忌むべき場所ともいえるだろう。何百年と孤独と闘ってきた場所なのだから。
それじゃそんなゼニスに開放感をプレゼントしようか。
「じゃあ籠の中の鳥を解放してあげよう」
「…………え?もしかしてだけど籠の中の鳥って私の事?というかその変な騎士、風?のしゃべり方どうしたの? 寒気が走ったのだけど。 あなた良く言っても流浪の民よ?下手したらその恰好、蛮族よりひどいわよ?」
……ごめん。テンションが上がってきもいことを言ってしまったのは自覚してるけれどさ、それは言い過ぎじゃないかと思うんだ。まぁ確かに服は穴だらけだけどさ、特に腹の部分は。
と言うかそういうことはもっと早く言ってほしいんだが?!
「何してるの? まだ言ってほしいの、マゾヒストなのかしら?」
止めてくれもう俺のライフは0だからさ。
これ以上言われないためにも、すべきなのは扉を開けることそれのみ。
深呼吸して一思いに扉を押し込む。
…………
あかない。
「あれ?ふんっ――」
思いきり力を入れて押し込んでもびくともしない。
「開かない?」
「ああ」
「横開きなんじゃ?」
「そういう系なのかよこれ!」
そんな感じはしないが、扉を創った本人がそういうならそうなんだろう。
細かい突起を見付けて一気に横へと引っ張る、が。
「…………開かない」
「……でしょうね、最初作った時そんな面倒な仕掛けしてないもの。普通に押し込めばいいはずだったし」
「じゃあなんでやらせたっ?!」
「一応よ、ちょっとそこをどいて」
全く納得できないが俺がいてもしょうがないので、ゼニスと替わりそのままゼニスは扉へと触れながら魔法を発動する。
「解析……そういうことね」
どうやら何かが分かったらしい。
俺は何もわからなかったんだが? いやまぁ魔法的な何かがあるなんて思ってなくて、物理でごり押しただけだったから分からないのもしょうがないよね。
魔法的なものだと分かってたら俺も分かってたはずだ、うん。
「ほんっと性格悪いわねぇ」
憎々し気に呟くゼニス。
「え?いきなり自分をディスってどうしたんだ、大丈夫か?」
「は?私の事じゃないんだけど?なに?喧嘩売ってるのかしら?」
「あ、ごめん」
「ふーんあなたがどう思ってるかよーくわかったわ、後で覚えてなさいね」
うっわぁやらかしたぁ……。
「そ、それで、な、何が分かったんですか?ゼニスさん?」
「……この扉は一人では開けることが出来ない仕様になってるみたい」
「何だその仕掛け……ってあ」
「ええそう、これはタクトたちが私だけに向けた置き土産」
「相当陰湿な奴だなそのタクトってのは。もしゼニスが万が一にも金巨人とかすべてのモンスターを倒しても、最後にここの扉に阻まれてお前が絶望するっていうことだろう?」
「しかも二人以上で一緒に扉に触れるというものだから一人の私ではどうしても無理。魔導の制約がピーキーな程効果は強力になりやすい。そしてこれは私をピンポイントに狙ったものだから効果は覿面、それこそ昔の私の全力でも通れないくらいには」
陰湿で慎重、いや臆病と言った方が正しいか。
逆に考えればそれほどまでにゼニスを恐れていたってことにもなる。
「まぁ一人なら、の話だけど」
「そりゃぁ俺の存在は考えらんねぇよなぁ。 んじゃあもし外でタクトたちが生きていたらどうする?」
「徹底的にやり返さないとね」
そういうゼニスは凄絶な笑みを浮かべていた、それこそ金巨人や守護者と闘った時以上の気迫。
「んじゃそのためにもとりあえず外に出るか」
そういって玲夜はゼニスに向かって手を差し出す。
「この手は?」
「ほら、なに。ここまで一緒にやってきたんだ。最後ぐらいちゃんと手を取り合っていこうぜ」
まぁ断られるだろうけど。
そんな軽い気持ちで提案した俺の予想はしかし見事に裏切られる。
「…………はい」
ゼニスが優しく重ねるように俺の手を握ってくる。
「…………お、おう」
「…………なんであんたがきょどってんのよ」
そういうゼニスの頬も少し赤い気がする。
何と言うかこの雰囲気が非常に気まずく……
「……ん、んじゃ行こう」
そうやって俺とゼニスは二人で手を扉へと触れる。
さっきまでびくともしなかった扉がすんなりと奥へと押し込まれていく。
最後まで押し込むと扉を開けた先にあったのは晴れ晴れとした青空。
爽やかな風が扉の内部へと吹き抜けて来る。
「すぅぅぅぅぅはぁ」
息を大きく吸って吐き、久々の外の空気を堪能する。
隣のゼニスを見ればいつものクールビューティーは変わらないが目元がうるんでいるような気がする。
「そろそろ出ようぜ」
「……そうね」
軽い会話をしながら外へと足を一歩踏み出したその瞬間。
「その先に行かせるわけにはいきませんっ!!魔導放てぇぇ!!」
怒号と共に雨のように魔導が振ってきた。
「「は??」」
玲夜とゼニスの声が珍しくはもった。
2章終了となりますので、ここまでの率直な感想、評価などもらえると嬉しいです!!
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