60話 無職と魔女は帰還する
「…………ふぁぁっ?」
眼を薄らと開ければ見慣れた天井があった。
いや見慣れたという言葉は正しくない、見慣れていたの方が正しいか。
「そうか、俺は長い夢を見ていたのか」
金巨人と戦うまでの酷く鮮明な夢を。
寝ぼけた頭で考えているが十中八九間違っていないはずだ、そうでなければ俺が最初の、ゼニスと出会った家にいるはずがないし。
「……本当に長いこと寝てたわね、差し支えなければどんな夢を観たか教えて貰ってもいいかしら?」
ベットサイドを見ればゼニスが椅子に腰かけてこちらをその怜悧な目で見つめている。
「……ああゼニスか、なんだか久しぶりな気がするな」
「1ヶ月ぶりくらいかしら?」
1ヶ月?てことは俺があの穴から帰ってきてからちょっと経った頃か。
じゃあ俺が見たのは予知夢かなんかだな。
「まあまあ長かったか、それで実は俺、なんか結構長い夢を見てたみたいなんだよ」
そうして話し始めてすぐゼニスの目が胡乱気なものへとなっていき、中盤には頭を抑えるようになり最終的には無表情へとなっていた。
どうやら俺の特殊能力に言葉を失っているらしい。長い時を生きてきたゼニスでもさすがに予知夢を見るようなやつはいなかったんだろう。
「どうした、ゼニス?あ、予知夢とか使えるやつを知らなかったから恥ずかしがっているのか?気にしなくていい、誰でも知らないことはあるから」
だから俺はこの極めてプライドの高いお方をなるべく刺激しないよう言葉を選びながら語りかける。
「…………なんて言ったらいいかもう。玲夜が最初起きたらなんて言えばいいかとか考えてた私がバカみたいじゃない」
俺があんなにも優しい言葉を掛けてやったというのに当のゼニスはなぜかめっちゃウンザリした顔してるんだが?
「ねぇ玲夜」
「ん?」
「夢じゃないわよ」
「……なにが?」
「さっきの話」
夢じゃない?
何を言ってるんだ?もし夢じゃなかったとしたら俺がいるのは第100層だし、そもそもあの怪我で生きていられるはずがない。
「普通にここへは私が運んだだけよ、100層をクリアしたらどこの階層でもすぐに行けるようになってるの、魔神には必要ないけど創った私達にはその機能は必要だったからね」
「へ〜」
「へ〜ってあなたが聞いたんじゃなかったかしら?」
ピキビキとゼニスの額に青筋が浮かびそうなのが見える。
「まぁまぁ。そっちより俺はほぼ死んだ状態の俺をどうやって、ボロボロのゼニスか助けてくれたのかが気になるからな」
「…………それはっ?!」
今まで間髪入れずに返答してきたゼニスが答えを言い淀む。
心做しか顔にも朱色がさしている気がする。
「どうした?」
だから俺が思わず聞いてしまったのも無理はないだろう。
だって普段無表情なゼニスの照れたような顔だぞ?ずっと一緒にいたが全く見た事ないからなそういうの、レアもレア、激レア、いやそんなんじゃすまないな、URだ!!
「…………別に大したことはしてないわ、何とかできる方法があったのよ」
「その方法とは?」
「……こういう時に限って深く突っ込んでくるのね」
そりゃ気になるからな。
「方法なんてどうでもいいでしょ!とりあえずこれが現実なのを認識したいなら自身の左手をみなさい」
左手?
否、左手があった場所を見て急速に頭が回転し出しようやく頭が現実に戻ってくる。
そりゃ冷静にもなるよ、俺の左手がなかったんだから。
いくら修練とかでそういうことがあって慣れてても寝覚めに見たらそりゃ飛び起きる。
「それでもダメなら自分の腹部をみてみなさい」
無言でシーツをめり、自身の腹部を確認する。
大きな傷跡が…………ある。
てことはだ、俺が夢として語ったことは――
「ね? 現実だったでしょ」
確かに金巨人にやられたはずの場所に傷跡がある。
となるとだ、どうやってこの傷を治したのかがより気になるのだが。
「ちらっとこっちを見ても治した方法は教えないからね?」
「なんでだよ」
「それより早く自分の左腕を治しなさい」
ああ、そうだったな。
うーん、今のマナは半分ってとこか、まぁこれなら大丈夫だけどあんま好きじゃないんだよなぁこれ。
「渋ってないで早く使いなさい、それ時間かかるんだから」
「はいはい、完全回復」
左肩がむずがゆいような感覚が走る。
うわぁ気持ち悪い。
「いつ見ても見るものじゃないと思わせるわね」
「俺も思ってたんだから改めて言わないでくれるっ?!」
そういう人間の機微みたいなものをゼニスはもっと学んだほうがいいと思うんだ俺。
「それはそれとしてあと数日はここから出るのを待ちましょう」
「数日?てか思ってんだけどここは崩壊したりしないのか?」
「ここは私たちが手を加えたダンジョンだからそういうことは無いわ、天然だとそうもいかないけどね」
「へぇ、ダンジョンにもいろいろあるのな」
「ええ、だからここであなたの回復を待ってからここを出るわよ」
「ああ、それで問題ない、マナを全開にして外に出ないと何があるか分からないものな」
「ここほど危ないところなんてそうないと思うけど」
あきれ顔のゼニス。
「用心に越したことはねぇよ、外は魔境だからな」
「そんな不吉なこと言っている暇あったらさっさと傷を治しなさい、それともリハビリがてら一戦やっとく?」
「待って、せめて傷が治るまで――」
「……ふふふ」
不吉な笑みを浮かべるんじゃないゼニス。
お前の笑みはその怜悧な美貌と相まって真実味が増すんだから。
久しぶりにリラックスしながらのんびりとした数日を過ごしていった、その間も手はにょきにょきと生え続けていたが。
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