59話 魔女の初めて
「…………え?!」
地面へと倒れた玲夜の様子を見て愕然としてしまう。
「……なんで生きてられるの?この状態で」
玲夜の左腕は肩口から無く、腹部も金巨人の槍によって貫かれおびただしいほどの血液が流れ出ている。顔も青白くなり始めていて生気がない。
ただよく見れば自動回復の魔法をかけていたからか、ギリギリではあるがもう少しは保ちそう。
なら今私に求められているのは求められるのは冷静に対処すること。
「左腕は後回しでいいわね、先に対処しなきゃいけないのは腹部の傷」
自動回復でも血が止まりきっていない。
あまり回復系の魔法は得意じゃないしマナもそこまで残っていないけどそんな泣き言も言ってられない。
「ハイヒール!!」
ゼニスの両手から白い光があふれだし、玲夜の身体を包み込んでいく。
そして徐々に傷がふさがっていく……はずだった。
「……回復しない?」
なぜ?
いくら苦手とは言っても魔法が作用しないほどじゃない、精々が回復する速度が遅い程度なはずなのに。
「【解析】」
玲夜の傷口を見てみれば何か靄のようなものが、回復魔法を阻害しているのが見てとれる。
「毒ね、それも厄介なもの」
この毒だと解毒にかなり時間がかかる。
更に回復魔法もかけ続けないといけない。
「先に氷魔法で凍らせておいて正解だったわね」
凍らせたとは言っても患部だけを凍らせた訳だが。しかし何を勘違いしたか玲夜は全身を凍らせられたと勘違いして気絶していった。
(玲夜の中でどれだけ私は鬼なのよ)
因みに玲夜が勘違いした原因は常日頃ゼニスに凍らされているからなのだが、また凍らされる理由も玲夜が創っているため総じていえば彼の自業自得ではある。
ゼニスは並列思考を総動員しながら魔法を使っていく、が予想以上に玲夜の傷が深い。
(このまま魔法を続けても僅かばかりずつしか回復できない、しかもそれを出来るのは私のマナが保つまで。平時の私ならそれでも有り余るほどのマナが残るけ余裕だけど、生憎と今の私は守護者との戦いでほぼマナを使い切り、更になけなしの力で金巨人にまで魔法を使ったしでほぼすっからかんの状態)
色々考えたが結局のところこのままじゃ玲夜を助けられない。
「しかもまた短時間で何とかしなきゃいけないのね」
頭をフル回転させて解決策を考えていく。
過去の戦いのときの知識を総動員しながら答えをひねり出す。
「……あっ」
この状況を何とかする方法は一つだけだけあった。
こんな方法普通はやらないし、自分が各地を回っていた時も恋人たちがイチャイチャするための口実としてしか使われていなかった。
それをまさか自分がやるなんてあの頃は一みりたり考えたことは無かったけど、今この時を解決するには効率的。
直接接触による生命力の譲渡。
もうそれしか方法はない。
同じマナの波長が合っていないと出来ないというデメリットもあるし、普通に忌避感もあるため、緊急時でもなければ使われない方法。
しかし今がその緊急時。
「まさか初めての相手が玲夜になるなんて」
自分の顔に赤みがさしていくのが分かる。
昔を振り返っても私自身そういう経験はない、そんな機会はなかったしそういうことをしたいと思った相手もいなった。
別にこれから玲夜とする行為が嫌という訳ではない。むしろ玲夜には好感を持っているといっていい。独りぼっちだった私を助けに来て……くれたわけではないが結果的にきっかけをくれた。
ここに至るまでもなんだかんだ文句を言いながらも二人でやってこれたし、似たような境遇にいるからか親近感もある。
あれ?案外私玲夜のこと……いえ考えるのは止めましょうか、藪蛇になりそう、うん。
でもやっぱり初めてだし……。
「いえこれは治療行為……羞恥を覚える必要はなんてないわ!!」
こんな葛藤なんて感じる必要はない、そう自分を納得させる。
その当の本人は呑気な顔して気絶しているし……、いや呑気な顔してはないわね、どちらかと言えば死にそうな顔だし。
「ふぅ……」
一呼吸置いて、彼の口元にゆっくりと自身の唇を下していく。
触れたその唇はすごく冷たかった。
しかしそんな感情を抱いたのもつかの間、すぐに自身の生命力が玲夜へと急速に流れこんでいくのが分かる。
(これはっ……かな、り…………つらいっ)
傷自体は目に見えてふさがっていってはいる。いるが、私自身が意識を保つのがつらい。
(だけど今意識を失えば並列で行っている解毒の魔法が切れてしまう)
手に力を籠めてなんとか意識を途切れさせないようにする。
解毒が終わるまであともう少し。
ここさえ超えれば後は普通に回復していっても何とかなる。
(あぁ、これは忘れられない初めてになるわね)
心の中で苦笑しながら、生気を少しずつ取り戻していく玲夜の顔を眺めていた。
評価、ブクマしてくださった方ありがとうございます!
何百年も生きてるのに初心というゼニスさんへのご感想お待ちしています(笑)




