55話 無職はボスへと挑む③ー絶望と狂気
誤字報告ありがとうございました、助かります!!
ふぅ、ようやくダメージらしいダメージを与えることが出来た。
「ギャァァァァァァァァァオオオッ!!!!!」
耳をつん裂くような叫び。
金巨人の身体から漆黒のマナが溢れ出していく。
「おいおい、まさか怒りで覚醒とかそういうパターンか?」
漆黒は金巨人を完璧に覆い込み、漆黒内部の様子を窺い見ることは出来ない。
取り敢えずは――――
「パワーアップを悠長に待っている奴なんていないわな」
直剣で漆黒の球体、黒球へと斬りつける。
何度も何度も斬り続け、徐々に徐々に黒球を削っていく。
(何で斬ってるのに削ることになるんだよ)
嫌味のひとつもいってやりたくなるがその時間も惜しい。それらの思い全てを剣に乗せて斬りつけていく。
斬りつけて斬りつけて斬りつけて、ようやく中が伺い知れる。
しかしどうやら遅かったらしい。
穴が空いたその瞬間、強烈な殺気と莫大なマナが溢れ出。そしてその圧力に耐えきれなくなった黒球が破裂し、その余波で玲夜も吹き飛ばされる。
すぐに態勢を立て直し前を向く。
眼に入ってくるのは漆黒の鎧を身に纏った金巨人の姿。
御丁寧に悪戦苦闘してどうにか斬り落とした腕も復活している、しかも漆黒で出来た武器を持っているというおまけ付き。
まぁそれもこれも些細な問題だ。
一番やばいのは金巨人がさらに強化された手がつけられそうにないこと、今までも何とかついていってたというのに完璧に離された。
しかしそれでも玲夜の心には何処か慢心とまではいかないものの、幾ばくかの緩みがあった。
無理もない、明かに格上の敵に対してなんとか一矢報いることができ、可能性が開けたのだから。だからこれほどの差を見せつけられても何とかなるんじゃないかと漠然と考えていた。
だからこそ反応が一瞬遅れた。
金巨人の目がピカッと光り、身体の左側にとてつもない衝撃。
その余波できりもみ状になりながら後方へと吹き飛ばされ壁に激突させられる。
「……っ?!{アースウォール}!!」
激突の衝撃を感じる間も無く魔法を展開。
自分の姿を見えなくし、自分は一旦土中に身を隠す。
しかしなんとか出来たのはそこまで。
身体の左側に遅れてくる熱さ。
左腕が、熱い熱い熱いっ。
痛いではなく、熱い。
恐る恐る左腕を見てみれば、肩口か先にそこにあるべきはずの左腕がなかった。
それを視認した瞬間、麻痺していた痛みが波のように押し寄せる。
「ングっ、ンガァァァッ?!?!」
必死に声を押し殺す。
「ふぅふうっ、…………んぁぁぁぁっ!」
やばいこのままじゃ死ぬっ!
痛みを感じながらも魔法で何とか止血する。
これですぐに出血多量で死ぬということはないはずだ。
「っ、はぁはぁ、……まじか」
痛みを堪えながらも段々と思考がクリアになっていく。
これも普段から痛みに慣れていたからこそ出来たこと。
これまでの戦いでも何度も似たような場面はあった…………まぁ腕を欠損するほどのものはなかったが。
「…………眼からビームとかマジかよ、漫画じゃねぇんだぞっ?!」
何だあの破壊力、しかも早すぎて眼でも追えなかったし。
次撃たれても避けられる気がしねぇ。
あんなの事前に身構えてなきゃ避けられるはずもない。
いやだからこそか……。
「逆に考えたら左腕だけで済んでよかったと考えることもできるのか」
これが右手だったら剣も同時に失うことになっていた。
かなりのポジティブな考え方だがそんなふうにプラスの要素を考えてなきゃ今の状況なんてやってられない。
今の状況は端的に言えば最悪だろう。
打てる手段はほぼなくこちらは手負い。
しかも悠長にやることも出来ない。
俺の身体的にもそうだし、上には障壁に守られているとはいえゼニスもいる。
「ハハハハハ、行くか」
客観的に見れば玲夜の未来には絶望しかない。
しかしそんな玲夜の顔にあったのは絶望に抗うような悲壮な決意ではなく、はたまた全てを差し置いてし戦いに赴く戦士の決死な顔でも無い。
そこにあったのは金巨人の漆黒のオーラにも負けない、昏い笑みを浮かべた狂人の顔だった。
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しかしストックはない……。




