53話 魔女と守護者③
守護者戦ラストです。
それにしても三人称って難しい……。
しかしようやく第一段階を突破した。
残るは本丸である守護者のみ。
私の身体もまだ動く。
気持ちを切り替えて前を向く。
客観的に見ればゼニスの身体で無事なところのほうが少なく、かなり出血もしている。
しかしその傷自体の深さはそうでもない。
問題はむしろ身体の内。
超高速で動き続けたせいか、かなりがたが来ており少し体を動かすだけで鋭い痛みが襲ってくる。
だがそれだけだ。
まだ動けない訳ではない。だからこその先ほどの発言。
守護者の弱点は一つ、胸の奥に埋まっている核をつぶせば動けなくなる、だからこそそこは一番厚く作られている訳だが。
その核を覆っているのはミスリルとオリハルコン。
身体に鞭打って高速移動を続けながら矢を放つ。
更に私の狙いが守護者に悟られないよう矢をあえて様々な部位にばらけさせる。
ただ守護者も何もしていない訳じゃない。
結界を創るのを諦めそのあふれ出るマナを守護者自身の強化に使う。
「同じスピードで動いて接近戦に持ち込もうと?」
ゼニスが今最も取られたくない戦法。
守護者に近づかせないように、ゼニスも巧みに岩などの障害物などを利用し守護者を攪乱、同時に矢も放っていく。
それは先ほどよりも集中を要する作業。故にゼニスの想像以上に
そしてその時はやってきてしまう。
―――――がくっ。
限界が来たのはゼニスの心ではなく、身体。
足から力が抜け、膝が地についてしまう。
(こんな時にっ?!)
そしてそれはこの高速戦闘においては致命的。
守護者は大楯を前面に押し出し私目掛けて突っ込んでくる。
守護者の勢いを削ぐため、出来る限りのマナを込めとにかく何本も何本も矢を放つ。
それでも完全に勢いは殺せない。
このまま当たれば即死―――――運よく免れたとしても戦えはしない。
横に逸れることもあの大楯の前では出来ない。
もう衝突まで数秒もない。
「…………ふふ、一か八かの賭けは好きではないのだけれど、こんな戦い方まるでどっかの無鉄砲な戦闘狂じゃない」
魔法を発動し、自分自身を包み込むように水泡を創り、その中に飛び込む。
そしてインパクトの瞬間自分で後ろへと飛び跳ね更に衝撃を減らす。
「がふっ…………」
それでも凄まじい打撃音が鳴り響き、ゼニスの身体が後方に吹き飛ぶ。
幾つもの岩を貫通しても止まらず、階層の壁に激突することでようやく止まる。
壁に激突した影響で水泡も弾き飛び煙が巻き起こる。
煙のせいで守護者からゼニスを倒したかどうかは確認できない。
故に守護者が取った行動は―――――――――――――――
煙に向かって魔法の乱射。一発一発が竜の攻撃よりも強い。
そんな攻撃が雨あられのように降り注ぐ。
一分ほどして魔法がやみ、守護者はゼニスに向かって悠然と歩いてくる。
煙が晴れるとそこにはもう何もない、あれだけ連射すれば死体なんて見る影もないだろう。
まぁ、死んでいればだが。
守護者がゼニスを倒し、金巨人と闘う玲夜へと向き直ろうと振り向いたその瞬間。
「待ってたわ、隙を晒すその瞬間を」
守護者の横から、ゼニスのほぼすべてのマナを込めた一矢が守護者の右肩から胸にかけて貫いていく。
ほぼすべてのマナを込めただけあって、貫通力も今までのとは段違いで、ミスリルさえも貫いていく。
否、貫くはずだった。
しかし事実は無常か……あと一押し足りない。
ゼニスの全力の矢は守護者の核を半分ほど貫いて止まり完全には破壊しきれていない。
が、もうゼニスには最後の1押しをする力も残っていない。
水泡のおかげでショックを軽減できはしたが身体の至る所はボロボロで骨も何本も折れている。
力を入れようと踏ん張った結果、逆に前のめりに倒れこんでしまう。
目線だけをなんとか前にあげれば奴がこちらに向けて何かの魔法を放ってこようとしている。
(ああ、これは死ぬ)
だが守護者の動きもまたかなりぎこちないのが見える。 マナも身体から抜け続けているし活動を止めるのも時間の問題だろう。
(最低限の仕事は果たせたかしら)
ただ少なくともこのままでは私の方が倒されるのが先なことは確か。
しかし打つ手がもうないこともまた事実で。
「どうしましょうか」
言葉の割にゼニスに悲愴感はない、諦めかはたまた何かに期待しているのか、それはゼニス自身にもわからない。
しかしゼニスの予感は当たっていた。
そう呟いた瞬間、ゼニスの横を一陣の風が吹き抜ける。
「……最後は美味しくいただくな?」
玲夜は駆け抜けると同時にそう囁くと風の魔法で私の矢を完全に核へと突き刺す。
「……ふぅ」
手にはいつの間にか見たこともない直剣が握られている。
「ちょっと休んでろ、いいか? ちょっとだぞ! 長く休んだら俺がっ!死ぬからな!」
玲夜はなぜかそう念を押す。そのちょっと残念な言い方が玲夜だな~と感じさせしかしそれにどこか安心感を覚える。
そんな顔は珍しく凛々しく見えるかもしれない。
既に目がかすんでほとんど見えていないけど、だからこれは幻想だろう。
「はいはい、じゃあちょっとお願いして休もう…………かし…………ら」
玲夜が来た安堵感からか、気合だけで繋いでいたゼニスの意識はそこで途切れた。
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