48話 無職と魔女は苦戦する
ダンジョンは進み、第95層。
「はぁっ!」
魔法付与した長剣を思いきり眼前の炎竜に向かって振り下ろす。
「うおっ」
しかしその攻撃は水竜が創り出した水壁によってはじかれ、一瞬の隙を敵へと晒してしまう。
その瞬間を狙っていたかのように上空の風竜からはこちらを叩き潰さんばかりの暴風がたたきつけられ、土中の土竜からは土槍でもってこちらを貫こうとしてくる。
「……ちっ」
水竜が創った水壁を思いきり蹴りつけ土槍を回避、そのまま後方に飛びながら魔法を創り上げる。
「{水壁}」
暴風と{水壁}がぶつかり合う。
しかし即興で創った分こちらの方がやはり分が悪い。
俺が創った{水壁}は暴風の威力は大分減衰させたがそれでも威力を完璧に殺すことは出来ず、風竜の攻撃をまともに受けて地面にたたきつけられる。
「……がはっ」
受け身はかろうじてとったが、肺からは空気が抜け、一瞬息が出来なくなる。
しかしそんな隙をみすみす逃してくれるような甘いやつらじゃない。
水竜は莫大な質量を伴った水砲を打ち放ち、炎竜は幾千もの炎弾を、土竜は俺が逃げられないように辺り一帯を沼へと変貌させ、風竜は竜巻を創り上げている。
しかも風竜の竜巻は炎竜の炎弾を巻き込み、炎竜巻へと変貌している。
その1撃1撃が俺に致死傷……とまではいかなくても喰らえばかなりのダメージを受けてしまう。
足にまとわりつく泥を思いっきりジャンプすることによって振り払う。
空中に飛び出した俺を見てこれ幸いと魔法を一気に俺へと集中させてくる。
左右からは水砲が、上空からは炎竜巻が俺へと差し迫ってくる。
後1秒もすれば俺の身体を焼き尽くし、そして粉みじんにするだろう。
そして俺はジャンプしてしまっているので空中で身動き取れない状況。
このままいけば俺への直撃コースまっしぐら。
「……本当はこれ使いたくないんだけどなぁ、ま、そうも言ってられないか、{風弾}」
それを竜共に向けてではなく、自身へと向けて解き放つ。
横から押し寄せる風の塊。
「ぐへっ」
俺を半強制的に竜共の攻撃の射程外へとはじき出す。
威力の加減までする余裕がなかったため、かなり吹き飛ばさてしまう。
何かにぶつかってようやくその動きを止める。
「ってぇ」
身体を思いっきり打ち付けた。
「何に当たったんだ?」
腰をさすりながら後ろを見れば赤い眼が俺を見つめてくる。
しかも「グルルゥ……」という、うなり声付き。
もしかして不機嫌だったりします?
そして聞こえてくる凛とした声。
「玲夜ッ、避けなさい!」
いつになく緊迫した様子。
何だと思って前を見てみれば拳大ほどの大きさの氷礫が数百ある。
「はぁってうおっ!?」
俺はすぐに長剣で迎撃……するのを諦め、本日二度目の緊急回避を実施。
「{風弾}」
今度はちゃんと威力を抑え気味にして飛ぶ。
それでも十分痛いが、ゼニスの氷礫を喰らうよりは断然ましである。
「あーいったぁ」
大体50メートルくらいは吹き飛んだか?
ちらっと見れば、避けた氷礫は大部分が黒竜へと吸い込まれていった。
痛いだろうな、あれ。
てか普通に生命活動停止だなありゃ。
「ボロボロじゃない?」
彼女の言う通り今の俺の身体はズタボロだ。
身体の至る所に裂傷はあるし、火傷、あと一番多いのが凍傷。
つまり……
「お前のせいだけどなっ!」
「私悪いと思う?」
「…………」
「ねえ?」
「……ぐっ……思わなぃ」
「ふふ、そういう素直に認められるところはいいと思うわ」
「……それはどうも、嬉しくもなんともないがな」
「はいはいそれはいいけど、とりあえずあっち何とかしてきて」
ゼニスが指さした先には地獄絵図が広がっていた。
吹き荒れる竜巻に、燃え盛る大地、大量の水流。
そしてその現象を生み出した4匹の竜と、多数の死骸。
「…………あ、もしかして助けがほしかったりするかしら?」
「はっ、そんな風に見えるのか?」
「見えないわね」
「逆に助けいるか?」
「愚問、さっきから物理法則を無視して動いてる人にそんなこと言われたら終わりよ」
はは、そりゃそうだ。
身体の節々がめちゃくちゃ痛いもん。
てかちゃんと見てんのな。
さって、俺ももうひと踏ん張り行きますかっ!
「{破壊}{毒}{斬鉄}{雷神}{硬化}を付与」
「{身体強化}{軽量化}{半狂戦士化}{常時回復}」
この半狂戦士化って名前の通り、知性が衰える分身体能力上がるらしいんだがこれ良くわからん。
正直自分の知性に靄がかかったりするそんな感じが全くない。
後、常時回復は自分が傷ついた時自身のマナで補填するもの、かすり傷程度なら治る!
骨折とかは無理、そんな微妙なものだけど一応かけておく。
それじゃいつも通りの脳筋ムーブで……ってこれが知性の衰えか?
とりあえず上空の敵に向けて有色の{風鎌}を数百作って解き放つ。
「がるぅぁぁぁぁ」
咆哮で半分以上の{風鎌}がかき消され。残りは水竜の水壁によって防がれる、俺の予想通りに。
「とりあえず上空にいられるのはうざいから堕ちろ」
{風鎌}によって視界を遮ることには成功。
まずは一番厄介な水竜の片羽を切断する。
「グギャぁぁぁっ」
堕ちていく水竜を蹴りつけ風竜へと向かう。
敵はまだこちらに気付いていないらしい。
このままもう一匹……
「ヴォギャァァァァァ」
土中からの叫びが聞こえた瞬間、風竜がこちらを振り向く。
だがもう遅い。
「おらぁ」
右の羽をもぎ取り、残りは後、炎竜のみ。
このままいきたいが……さすがに無理か。
炎竜は空中にいる俺向かって【炎の咆哮】を放ってくる。
当たれば人間の丸焦げの完成だ。
「はい、{風弾}」
自身に魔法を当ててブレスの範囲外へと逃れ、一旦地上へと戻る。
そしてそのまま、羽をもがれた水竜へとランダムに動きながら突撃。
これで【水の咆哮】は打ちにくいだろう。
ちなみに{風弾}で出来た傷は{常時回復}によって回復されている。
「って、撃ってきたぁぁぁ」
そういうの気にしない感じかよ。
思いきりジャンプして水竜を飛び越え、その後ろの風竜の眼前に着地。
敵は切断された羽の修復に集中していたらしく、一瞬反応が遅れる。
「ダメだぞ、集中しなきゃ」
そのまま一刀両断、っと行きたいがさすがにもうきついか。
脳天に突き刺す。
「これで100、何匹目だっけ? 忘れちったな」
とりあえず3桁なのは確実。
長剣はとりあえずそのままにして背後を取った水竜へと肉薄。
振り向いて【水の咆哮】を撃とうと開けた大口の中へ魔法を解き放つ。
「水竜だから火の魔法に強いのは確かめたから分かったけど体内の方はどうなんだろうなぁ、{獄炎}」
水竜の身体は一瞬膨れたかと思うと、次の瞬間には爆散する。
「体内までは体表のように火に強くは無かったんだな」
炎竜は仲間を殺されて怒りを覚えたかのようにマナを貯め始める。
さっきまではそれでも問題なかったけど今は違うぞ?
そんなに堂々と隙を晒すってことは攻撃してくれってことだよな?
「風牢」
超速で炎竜目掛けて飛ぶ。
その進路をふさいであわよくば、倒してしまおうと土竜から汚泥が飛んでくるがそれは風牢が弾いてくれる。
炎竜を袈裟斬りしようとするがそれはかろうじて反応した鉤爪によって阻まれてしまう。
「なら……{風鎌}」
至近距離なら避けられないだろう。
狙い通り、風鎌は炎竜の腹部を切り裂き絶命させる。
「とりあえずは下の土竜だけか」
下を見れば高速で土竜が戦線離脱しようとするのが目に入る。
「逃げるのか? 冷静な判断で何よりだ。 だが方向は失敗だったな」
土竜が逃げた先にいるのは一人の女、そして最強の魔女。
彼女の範囲内に入ってしまえばそこにあるのは死。
土竜がゼニスの射程内に入った瞬間お得意の氷魔法が炸裂。
一瞬にして土竜は絶滅させられる。
「……終わった?」
「ああ、ゼニスは……って聞くまでもねぇな」
ゼニスの周囲には幻想的な光景が広がっていた。
数多の竜たちによる死の彫刻が。
「さすがに苦戦したわね」
珍しくゼニスも素直に心情を吐露する。
「ああ、予想通りと言うかなんというかやはり10倍以上数は多くなってたな」
「魔神相手だったら嬉しい誤算なのだけど……」
「だな、少し休んだら次へ向かうか」
「そうね」
「次はどんだけ数が増えてるか楽しみでしょうがない」
「ふふ、それは笑えない冗談ね」
他愛ない会話をしながらつかの間の休息を取った。
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