45話 魔女の違和感
本日2話目です！
「よう、遅かったじゃん、もう終わっちまったぞ？」
玲夜はニヒルな笑みを浮かべている。
多分本人的にはかっこつけているつもりなのだろうが全身魔物の返り血を浴びていて、かっこいいというよりは不気味である。
更に周囲には魔物の死骸が至る所にありその中心でたたずんでいるのがより不気味さを引き立てている。
「……あら速いじゃない？ まぁ敵の幻術に掛かるのもめちゃくちゃ速かったけど」
「ああ、やっぱりあれは幻術だったのか……」
私の負け惜しみのような皮肉はあっさりスルーされる。
「……それはそうでしょ……逆にそれ以外何だっていうの？」
「そりゃそうなんだけど……さ、なんであいつら昔の記憶を思い起こさせたんだ？地球での記憶とこっち、異世界での記憶」
「具体的には？」
基本的にあの大木の幻術は敵のトラウマを想起させ戦う気を失わせ捕食するというものだった……。
私の知っている魔物はそんな感じだったし、ケルベロスの死骸も見えないことからその考え自体はおおむね間違っていないはず。
だからこそ玲夜の言っていることがわからない。
「……なんてことはないことだぞ？地球では普段の仕事のこととかでこっちでのことは王城での訓練とかそのへんのこと……かな？」
……玲夜の言う通りならそれは確かにおかしい、今玲夜が言ったことは何気ない日常の一コマに過ぎない。
そう、玲夜の言う通りならば、の話だが。
「……ねぇその幻術の中にはここに至るまでの記憶もあった？」
「……ここに至るまでの記憶？ってことはこのゼニスと出会うまでの過程ってことだよな？あーっと、確かあったぞ？」
「……そう」
なんとはない口調で断言する玲夜。
気づいていないのね。
自分が今どういう状態にいるのか、いやもうそれが彼にとって普通になってしまっているのかしら。
これは私なんかよりももっと、いえ比べるまでもないわね。
それほどまでに彼はもう……。
「それがどうしたっていうんだ？」
「……あなたの心は…………いえ、何でもないわ」
これは今言ってもしょうがないことね。
「おいおいなんだよ、気になるだろ？」
「何でもかんでも聞くもんじゃないわよ？だからいつまでたってもどうて……もといせんに……ううん何でもないわ」
「そこまで言いかけて笑顔で言わなくなるの止めてっ！全部伝わってるからっ、もうそれは逆に悪意あるよね？そこで止めるのってさ！」
「……さぁ何のことかしら、それよりも早く次に進みましょう」
玲夜のことを置いて先へと進む。
多分今の私の表情はとてもひどいものになっているはずだから。
「そんなに急いで……なにかあったか？」
この鈍感男はっ！？
こういう変な時にだけ無駄に勘が鋭い。
「……いえ、気にしないでいいわ、それよりも早く次の層に行きましょ少し休みたいし」
「……お、おう」
有無を言わせぬ口調にそれ以上は玲夜追求してこない。
「……あ、ちゃんとそいつらの素材は取っておいてね？」
「もう取ってるから心配すな」
「そ」
本当に私が起きる前にやることはやってるのね。
そのこまめさを他のところに向ければその年でどうて…………。
うん、考えて見たけど土台この男には無理な話ね。
「……………………おい、今失礼なこと考えなかったか？」
「なんのことかしら」
本当に無駄に感がいい。
＊
第79層、前の層に続いてのジャングル。
食虫植物みたいなやつだったり地面に潜るモグラだったり木に擬態するカマキリみたいなのが多かった、無論刃向かってくる奴らは塵と化したわけだが、ゼニスの手によって。
引きこもりのわがまま魔女さんに逆らって生きていられると思うなっ！
そしてこの層も踏破目前、次の層へと進む階段の目の前でゼニスが歩みを止めた。
「……ん？どうかしたか？」
「……はぁ。さっき言ったでしょう？」
「言ったって何を？」
「あなたの脳はなんのためについてるのかしら？さっき言ったことも忘れたの？80層に入る前にしっかりと休息を摂ると言ったでしょう」
あぁ、そういえばそんなことも言われたな。
「てことはいつも通り1〜2時間ぐらいの休息か？」
このダンジョンに入ってからの休息はだいたいそんな感じだ。
………………ん？いやよくよく考えればゼニスと修行をするようになってからだな。
ああ、一人でいた頃が懐かしい、あの頃は存分に惰眠を貪れたというのに。
というか普通に考えたら、休憩が1〜2時間てやばいな。
もうブラック会社も真っ青な業務レベルだ。
そしてそれに慣れてしまった俺もなかなかに社畜根性になり切ってしまっている。
ああ、嘆かわし……。
ゼニスは絶対地球にいたらブラック社長として訴えられるな……いやどちらかと言えばなんだかんだ上手く人をやる気にさせて問題発覚させないタイプか。
怖…………やっぱ逆らわないようにしよ、身体も心もゼニスの手に掛かれば凍らされて塵にされちまう。
「なんか変なことを考えてる気がするけど、玲夜は今更よね。この万年発情仙人にはそんなモラルを期待してもしょうがなかったわ、それで話を戻すけど……」
「いやなんだよ万年発情仙人って！亀仙人か！」
あの、最初はめちゃクチャ強かったハゲ仙人。
「……はぁ？」
めちゃくちゃジト目で見られた。
「まぁ話を戻すけどもちょっと次の層が厄介なのよね」
「…………え？今まで厄介じゃなかった層あった？」
またしてもジト目。
はい、1回喋るのやめてリスニングに専念しまーす。
「今までよりもっ！」
「……と言いますと？」
「次の層は1層丸ごと……」
おい、溜めるなゼニス、気になるじゃん。
…………ごくり。
「水没してるのよ」
…………
……………………
………………………………はぁ？
今度は俺が使う番だな、うん。
「何それ、無理ゲーやん、攻略させる気ないやん」
「ないわよ？」
ゼニスがここを創ったんだったぁぁぁ、そりゃこの難易度も魔神レベルなのも納得だわうん。
「別に水の中で呼吸するのは問題ないのだけど少し息苦しいからここで少ししっかりとした休息を…………ってどうしたの？ そんな間抜け面して」
「…………今おかしなこと言った？」
「言ってないけど？」
「いや水の中で呼吸って！」
「何がおかしいの？」
キョトンとした顔のゼニス。
まじか？
「おかしいだろ！どうやって水の中で呼吸するんだよっ！？出来るわけあるか！」
「…………え？出来ないの？」
「え、出来るの？」
「「え」」
俺とゼニスの時が止まった。
「……はは」
「……ふふふ」
次いで2人して半笑いしてしまう。
「まじ（ほんと）？」
面白いと思っていただけたら評価の方、してもらえると嬉しいです。
していただけると作者のモチベに繋がります！！
感想もお待ちしてます！
誤字脱字あったらお知らせください！
