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異世界よ、これが無職だ!〜災厄の魔女と始める異世界無双〜  作者: 湊カケル
2章 2人の世界~禁忌な2人は力を得る~
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44話 魔女は過去を夢見る③


 「魔神封印が…………ない? どういう……こと?」


 このころの私は本当に訳が分からなかった。だってこの頃の私はこんな奴らを仲間だと思うほどには浅はかで人間を信じていた。

 

 「あはははっ、そのまんまの意味だよ」

 「どの国もそもそも魔神封印なんてするつもりがないんだよ、いや違うな、出来ると思っていない、と言ったほうが正しいか?逆に考えてみてくれ、いくらここが最前線に近い場所とはいっても各国の精鋭ごときで魔神をここまで連れてくるなんてできるわけないだろう、魔神の幹部1人倒すことも出来ないのに」


 タクトの言っている意味が分からない。

 なぜなら……


 「…………ぜ、全員が結集すれば……そのために私たちは魔神の幹部たちを……」


 この計画のためにここに至るまで数多の敵と戦ってきたのだから。

 

 「あー、違う違う、そうじゃねー」


 そんな私の考えをザンギは嗤いながらあっさりと否定する。

 

 「そもそもの話、この計画は土台から無理なんだよ。 こんな計画ができるほど各国の信頼関係は出来てねぇんだ、それこそいつまた人間同士の戦争状態になってもおかしくねぇほどにだし。 そんな中で各国が協力なんてできるわけがねぇだろ、今は魔神という共通の敵がいてこその関係なんだ。 それにどの国も自国の戦力を全投入なんてできるはずがねぇし。 まぁどこの国にも所属してねぇお前にはわからないことだらけだろうけど」


 ザンギの言う通り私はどこの国にも所属していなかった。


 「だから困るんだよ、魔神という共通悪がいなくなってしまうのは。 …………まぁもし君が言うように魔神と戦うなんてことになったらこっちの被害も甚大、というか最悪全滅も有りうる、誰がそんなことをすると思う?」

 「…………………」


 あまりのことに目の前の私はタクトに何も言い返すことが出来ない。

 そんな私とは対照的に彼らはどんどんと饒舌になっていく。


 「だからもう十分なのよ、というかあなたの存在が邪魔になったの」

 「…………じゃ……ま……とは?」

 「私たちの国はあなたがどこの国に所属することになるのかと戦々恐々、教会も度重なる入信を拒否されて権威を傷つけられ苦々しく思っている、そして言わずもがな魔神はあなたに多くの部下を倒されて当然あなたの存在は目障り……まぁつまり簡潔に言えばあなたは――」


 「誰からも必要とされていないってことですね♪」


 アミの言葉を聖女のミリャが締めくくる。


 「ちょっとミリャ、それ私が言ってやりたかったんだけど~」

 「いいじゃないですか、さっきまでずっとこの邪教徒に言ってやりたいことがあったのに我慢して静かにしていたんですから。だから美味しいところは頂きましたっ!」

 「もうっ、まぁいいわ。ゼニス、あなたは誰からも生きていることを望まれていないのよ、あははは」


 ああ、また誰からも生きていることを望まれない。


 「みじめだなぁ、ゼニスよぅ。お前が救いたかった、守りたかったと考えていた世界の誰からも生きていることを望まれないなんて」


 4人全員嘲笑が止まらない。


 「…………でも……町の人たちは……まだ私のこと……を……っ」


 子供が両親と手を繋いで笑顔で通りを歩く姿、若いカップルが見つめあう甘酸っぱいひと時、夜の住宅街に響く家族の談笑、そんなありふれた、何気ない日常を守りたいと考えていた。


 なぜならそれは私が望んでも手に入らなかったものだったから。


 「ふ、ふひっ。そ、それも心配しなくていい、お前は魔神に送り込まれたスパイだったことになってるから、このために徐々にそういう噂も広めてあったしな」


 なのに彼らはそんな私の気持ちをすべて踏みにじった。


 「あっ……あな…………た……た……ち…………はぁ」

 「もう言葉も出なくなってきたかぁ? そりゃそうだよなぁ、力を失っているんだし」

 「…………あっ、タクト、もうそろそろ、いつまでもこんな女にかまってられないわ」

 「……ん? ああ、もうそんな時間かぁ、もっと楽しみたいが、俺らが出れなくなっても困るしな、とりあえず君には置き土産を用意しとくよ、まあそこまでは絶対に辿り着けないだと思うけど」

 

 そう言って走り出そうとしたがタクトはすぐにたちどまる。


「どうした?」

「言い忘れたことがあった、これは絶対に言ってやろうと思っていた言葉があったんだった」


最後に一言だけ、タクトはそう前置きして満面の笑顔で

 

 「……君の絶望する顔が見れて俺は幸せだよ」


 今まで見た中で一番の笑顔でそう言い放つ。

 それは私の心に深く傷をつけ、肉体が砕け散るような鋭い痛みを与えてくる。

 そして記憶の中の私は崩れ落ちていく。











 「…………だから?」


 負け惜しみなどではなく本当にそう思う。

 今更こんなものを見せてどうだというのか。

 こんなものを見せられて私が絶望するとでも思ったのか。

 私がいつまでもそんなところで留まったままだとでも?



 確かにこれを見れば傷つきはする、思い出したくもないものだから。浅慮な自分を、何度も自嘲した自分を観なくてはいけなくなるから。

 だがそんなことはここに閉じ込めれた長い時の中で何度もしてきたこと。

 もはやこれは悪夢でもなんでもない、過去の繰り返しだ。


 たしかに最近は玲夜といることが多くてあまり思い出さなかったけど、でもそれでもずっと思い出さなかったわけじゃない。


 だからこんなのは今の私にとっては、


 「ぬる過ぎる」





 敵が幻術で作り上げているこの空間を私のマナで上書きして支配権をうばう。

 こんなのはただのごり押し、でもこれが最も効率的で最短の手段。


 最初は拮抗していた敵のマナだったがすぐにその均衡は崩れ、この空間がひび割れていく。

 

 「こんな記憶、とっくに克服…………とまでは言い切れないけど整理は出来てるのよ」


 さて……


 「玲夜はちゃんと突破してるかしら?彼は私よりももっとトラウマを持っていそうだけど……」


 私は現実へと復帰した。




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