41話 無職と魔女はゴリ押す
「ちっ、ああ煩わしいっ!」
ダンジョンも70層を超え、敵の強さも上がってきた。
今までワンパン出来ていた敵も2撃、3撃と必要になってきたし急所を的確に狙わなければ敵はなかなか倒せなくなってきた。
しかも今回のモンスターはそれに加え再生能力を持っているとまで来ている。
「右と後ろは私がやるから、あなたは前と左をお願い、もちろん――」
「お前の弾除けにもなるんだろ、分かってるよ」
「あら、あなたも分かってきたじゃない、安心していいわヒールもちゃんと飛ばすから、だからあなたは何の心配もなく弾除けになって?」
いい笑顔で言ってくれるなおい、しかもそれが様になってるからなおさらむかつくし。
このツンデレを分かりやすく要約すれば、『私の後ろは任せた』ということだろう。
俺らの眼前にはマンティコアとキメラが涎を垂らしながら舌なめずりをしている。
どうせ良い餌が転がり込んできたとかその不気味な面の奥で考えているんだろう。
「キシャシャシャシャ」
マンティコアとキメラは控えめに言ってめちゃくちゃ気味の悪い、頑張ってよーく言えば、とてもとてもユニークなモンスターと言える。
マンティコアは顔が人間のおっさん面でその胴体は獅子、尾には毒蛇という世にも奇妙なモンスター。
それに体長は最低でも3メートルはある。
これがにやりとして俺を見てくるんだからみられたこっちとしてはたまったもんではない。
キメラも様々なモンスターが入り混じった姿になっていて頭部が山羊っぽく、胴体は昆虫型、尾には蟷螂が鎮座しておられる。
ただ一つ一貫している点はマンティコアもキメラも総じて行動が素早いということ
だがこれは俺らには問題にはならない、別に俺らが目に負えないほどのスピードではないしなんなら俺らの方がスピードは速い。
こいつらが真にめんどくさいのはその異常なまでの再生能力で、尾か頭部どちらか片方を倒してもすぐに残ったほうがもう一方を再生してしまう。
ちなみにこいつらのどちらかを倒すことはそれほど造作もないことは既何回か首を落としているので分かっている。
つまりこいつらを倒すには一寸の狂いもなく同時に頭部と尾を倒さなければならない。
そんな手間をかける奴らが俺らの周りに複数。
とりあえずは……
「奴らのスピードを奪う」
「アブソリュートゼロ」
「ウインドインパクト」
ゼニスは敵を凍らせ、俺は風を上から下へとモンスターにたたきつける。
ちなみにこれらの魔法、範囲攻撃のため使用者である俺たち自身にも襲い掛かってきたりもする。
まあそれは相手の動きを遅くすることに成功したので良しとするが……。
「ウインドエッジ」
尾の蟷螂に向かって魔法を放ち即座にキメラの頭部まで移動、そのタイミングでウインドエッジの1発目が蟷螂の鎌によって阻まれる。
キメラの頭部も俺の接近に気づいて特大の火球を放ってくる。
(そんなもので止められるわけないだろう)
もとから初撃で倒されるなんて思ってないしな。
だから本命は2撃目。
一発目のちょうど2秒後に襲来するそれ。
名づけるならそう、
「ウインドエッジ影風車」
インスパイアは某国民的忍者漫画。
俺は火球をジャンプすることで避け。
その数瞬後にウインドエッジの2撃目が蟷螂の頭部を撥ねる。
それに合わせて俺も長剣でキメラの頭部である山羊の首を切断する。
キメラの再生を確認するが起き上がる気配は無い。
「これでやっと1匹か……」
こいつを倒すのに1分程度かかってしまっている。
他の敵はまだウインドインパクトで動きを止めているし、ゼニスへと飛んでいきそうな攻撃はすべてシャットアウトしている。
「これ効率悪いな」
横を見ればゼニスはアブソリュートゼロで凍らせた敵をそのままま魔法で砕いている。
簡単に言えばただの能筋プレイ。
敵によってやり方を変えるなんてことは、はなから考えていないらしい。
「なら俺もごり押しするか」
ただ俺はゼニスほど魔法に長けていないので魔法でのごり押しは出来ない。
だから俺に出来るごり押しをする。
魔法を付与、イメージは【疾風】、それに【斬鉄】【破壊】も付与。
「それじゃやるか」
攻撃される前に倒しつくす。
キメラとマンティコアたちの間をすり抜けながら斬撃を加えていく。
奴らも反撃をしてくるがもうそこに俺の姿はない。
その隙をついて俺はまた首を切り落とす。
瞬く間に首か尻尾どちらかを失ったモンスターが急増する。
まぁすぐに再生するわけだが……。
だが再生している間はやつらから攻撃はされない。
大抵の敵が首か尻尾を失ったところで仕上げに入る。
「それじゃ後は火葬して終わりだ、火魔法【獄炎】」
「ギャサァァァァァァァ」
敵は身動きもできないうちに白炎によって焼かれていく。
だがゴブリンの時と比べて焼けていくスピードは遅い。
「んじゃついでにエタノーレ」
これで炎をさらに大きくする。
意図せずしてできたものだが案外使えるなこれ。
「ミャギャァァァァァ」
数十秒でモンスターが全滅する。
「はぁ終わったっと……すまん待たせたな」
後ろを振り向くとゼニスが顎に手を当て考え込むでいる。
「……どうかしたか?」
「最初にここを創った時にこんなに多種多様なモンスターは入れてなかったのよ」
「……うん?」
「入れたとしても1種類、こんなに複数はいなかったわ」
てことは何か?
この多種多様さはつまり……
「モンスター同士が交配したとでも?」
「その可能性が高いわね、外部からこのダンジョンに新たに侵入なんてことはまずないはずだし……」
「ならこれより先は独自の生態系が出来ている可能性があるってことだな?」
「ええ、でもここだけという可能性もあるけれど一応考えておいたほういいわね」
「了解、んじゃ5分休んだら行こうぜ」
一つの懸念を抱えながら俺たちは先の階層へと進んだ。




