35話 無職はストレスを発散したかった
「……あ~、キッツ」
「無駄口叩いてる暇あったらさっさとこの犬もどき共を全滅させなさい」
ゼニスはそう言い切る間に三つ首の犬もどきを5匹、総じて15個の首を魔法によって断ち切る。
「いやちゃんとケルベロスって言ってやれよ」
俺は雑談に意識を割きながらも魔法を発動し、付近のケルベロス数体を数十本の土槍で絶命させる。
「そういうあなただってこれまでのモンスターのこと、名前で言ってないじゃない」
「……覚えられるわけないだろ!? 色々な毒を吐くなめくじの次は多種多様なカエルだぞ!? その一個一個を覚えろっていうのか?」
「パラシススラッグにアシッドスラッグ、それにポイズンスラッグ、あとカエルの方はファイアーフロッグとフローズンフロッグ、マッドフロッグ、それに上位種数体よね?」
「よく正式名称をそんなに言えるな、俺にとっては全部気味悪い生き物にしか見えなかったぞ?」
「……そりゃあれだけ粘液をかけられればそうなるのは分かるけどーーー」
「いうな!」
思い出したくもないんだ!
てか誰に需要あるんだよ、俺の粘液まみれの姿なんて。
「でもよかったじゃない? それで魔法に毒系統を付与できるようになったんだし」
「そのおかげで俺のsan値はすり減った」
魔法を使う時に最も重要なのはイメージだ。
漠然としたイメージではなく詳細なイメージ。
手っ取り早く理解したいなら、その身で受けた方が早い。
ゼニスの言う通り、おかげで毒も使えるようになったが……。
なったわけだが……!!
「納得いかん!」
とりあえずは……
「こいつら全員もらうからな?」
「出来るものならどうぞ?」
試すように上から目線で挑発してくるゼニス。
言ってくれるじゃん。
「お前ら、何匹も何匹も群れてきやがってっ。
暑苦しいったらありゃしないんだよ!」
毒を思いきり使った魔法を放ってやりたいが、生憎と熱くなっていてもそれを俺はしない。
出来ないことは無いが俺はやらない。
そもそも俺は魔法主体というよりは、魔法を補助に使って近接戦を、この500年ゼニスとともにやってきた。
遠距離戦も出来ないことは無いがゼニスとの対戦成績はこと魔法だけの場合は全敗中だ。
その点においては悲しいが、今この場、この時においてはちょうどいい。
「{破壊}{毒}{斬鉄}を長剣に付与」
思いっきり今までの鬱憤を晴らしてやる。
*
玲夜の戦っている姿をなんと形容したらいいのだろう。
狂人、戦闘狂、狂戦士。
確実に言えるのは彼はどの言葉を使っても、狂っているという言葉がふさわしいということ。
今の姿がまさにそれ。
数多の犬もどきを一刀のもとに切り伏せ、最小限の動きだけでやつらの攻撃を躱す。
犬もどきが攻撃してくる間に少なくとも玲夜は3度奴らを切りつける。
もし攻撃を躱せないと判断すれば、最小限のダメージだけで済むように行動する。
行動のすべてが合理によって動いている。
たまに感情的になるが、今のように。
例えば玲夜は今、3匹の犬もどきに周囲から囲まれている。
さすがに一刀でその3匹を一気に切ることは出来ない。
普通なら絶体絶命の場面。
彼は違う、普通ではない、私と出会った当初から。
今もそう。
犬もどきの鋭利なかぎ爪が振られ、ブレスが吹き付けられる正にその瞬間、玲夜はあえて前に突っ込み一匹の胴体を下から真一文字に切り裂く。
「頭は三匹あっても結局胴体は一つなんだろ?」
それはその通り。
「普通は再生するものだけどね」
しかし玲夜が切り裂いた犬もどき共は一匹も再生する気配を見せない。
そのすべてが既に絶命している。
「さすが粘液を身体に浴びただけの甲斐はあったわね」
ただそのすべてがあってもまだ……
「私よりは弱いけど」
そうつぶやくと玲夜はすぐに返答してくる。
「うっせ、すぐに強くなるわ!」
随分と余裕があるわ、ストレスを解消するような倒し方をしているからかしら。
「だから話してないで倒しなさい? 早くしないと私がやっちゃうわよ?」
「ちょっと待ってろ」
「10分」
「……は?」
玲夜はそう言いながらも、犬もどき共を倒す手は止めない。
私との会話の間にも5匹は殺している。
既に辺りは犬もどき共の血液で染まり切っている。
「あなたならできるわ」
「お前はほんと毎回無理ばっかり言うよな」
「あら、できることしか言っていないつもりなのだけど? 殺すだけに集中すればいいでしょ?」
「……はぁ鬼かよ」
鬼?
……玲夜もいうようになったじゃない?
「……おい、なんでフローズンスマイル浮かべてんだよ! 嫌な予感しかしないんだが!?」
フローズンスマイル?
いやな予感?
一体何のことかしら?
「5分ね」
「……え?」
「5分」
「……いやいやゼニスさん?」
「はい、はじめ」
「話を聞けって!」
このままいけば玲夜は30分もあれば倒せるだろう。
だが今のうちに、10階層ごとのボスモンスターと闘う前に可能な限り彼を強くしなければいけない。
そうでなければ金巨人を倒せない、ここから出られない。
だから玲夜にはレベル的にも技術的にも強くなってもらわなければ。
「……いいえ、それは私もね」
ここにいる長い間に相当衰えてしまった。
技術もレベルも戦闘勘もすべて。
そりゃ何もしないで無気力にいればこうもなってしまうわ……。
思わずため息が漏れる。
このダンジョンに入る前にも一応玲夜相手に勘を戻してきたつもりではあったけど……。 それでも昔だったらもっと敵を、それに金巨人だって苦戦こそすれ倒せないなんてことは……。
いえこれじゃだめ、過去と比較したって何にもならない。
過去に縋りつくのはただの現実逃避。
今を直視しなければ。
意識を前に向ければ玲夜は既に戦い方を変えていた。
さっきみたいに無策に敵を切り伏せるのではない。
急所だけを確実に狙っている。
そのため一体にかかる時間も確実に減っている。
すぐに彼はすべての犬もどきを全滅させる、魔法を長剣を、すべて使って。
でも今回は……
「はい、お疲れ」
すべてを倒し切った玲夜に水の入ったボトルを渡す。
「……さんきゅ」
すごい不満げな顔をしている玲夜。
彼はとても負けず嫌いなのだ、たとえどんな不利な状況だったとしても負けるということを許せない。
「9分ちょいかしら」
「はぁ……」
「まあ初めてにしては上出来だったんじゃない? まぁ失敗だったけど」
「お前は余計な一言が多いよなぁ、まじで」
「あら何のことかしら? それよりも死体を回収したらさっさと次行くわよ」
「……ちょっとは休ませろ……そういいたいが早く次に行こう」
「珍しいわね、どうしたの?」
玲夜はある程度怪我もしている。
回復するという言葉よりも先に出てきた言葉が先に行くという言葉。
「ストレス発散のつもりが余計にストレスが出来た」
「あら大変、それじゃ先に向かいましょうか。 でも次からは二人で行くわよ?」
「分かってる」
憮然としながらもうなずく玲夜。
だから彼は強くなれる。
理由はそれだけではないけどもね……。
そんなことを考えながら私たちは先へと進んだ。
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