34話 無職は回避する
遅くなって申し訳ない……
「……き……さい」
ゼニスの声が遠くから聞こえる気がする。
でも聞きたくない。
今はこの心地いい感触を楽しんでいたい。
具体的に言うと、めちゃくちゃもちもちしていて、しかし程よい硬さもある。
そしてすごくいい匂いがする。
そんな天国みたいな感じ。
「起きなさい」
ゼニスの冷ややかな声が聞こえる気がする。
だが彼女の声に従う必要はない!
いや、必要はあるかもしれないがしかしこの絶妙の心地良さが俺を離そうとしない。
「しらを切るつもりなのかしら? ならまたあれやるわよ? 今度は10万ぐらいでいいかしら」
フフッとゼニスの笑い声が聞こえる。
絶対あれだ、声だけ笑っててゼニスはわらっていないパターンの笑みだ。
フローズンスマイルだ。
それをやられたら俺にできる選択肢は一つしかない。
「起きます」
「遅いわよ?」
ったく、あの高校生たちは騙せたのになぁ、寝たふり。
起こし方は彼らの方が優しかったし。
そこで俺はようやく自身が置かれている状況をちゃんと認識した。
「……膝枕……だとっ!?」
「気持ち悪い声出さないで、意識を失ったあなたをそのまま床に転がしておくほど私も人間の心を捨てちゃいないわ、まぁ身体はもう人間とは言えないけど」
……そうだ、俺はあの三つ目の金色をした6本腕の巨人と闘っていたのだった。
それが今ではここでゼニスに膝枕をされている。
それはつまり……
「負けて死んだのか、俺たちは。 そうじゃなきゃあの鬼やドラゴンさえ震え上がるあのゼニスが膝枕なんてするはずがない、あぁ何もエロいことをできず死んでしまうなんて。 あぁ自分が情けない」
ちょろっと目尻から涙がこぼれる。
「……ちょっと」
まあさすがにそれは冗談なわけだが……。
あ、そういえばゼニスも一緒にいるってことは一緒に死んだんだな俺たち。
「……ああ、どうした?」
「なんでそんな優し気な目で見てくるのよ。 突っ込みどころが多すぎて色々と言いたいことはあるけどまず一つ」
「なんだ?」
「私の膝を汚さないでくれない?」
「おれの涙が汚いっていうのか!?」
俺ほど清廉潔白な人物はいないぞ!?
確かに汚物にまみれたりはしたが……。
「ええそういってるの。 どきなさい。 いえもう魔法を使うからいいわ、だから動かないでね」
ちょ、さっきと言ってることが逆なんだが!?
「待った待った、動くから。その魔法は使うなって、また気絶するぞ!?」
「……それもそうね、また気絶されたら厄介だわ…………でも邪魔だし…………どうしようかしら」
「そんな真剣に悩むなって! 起きてるから、起きるから、はい起きた!」
あの魔法とは、地球でいうところのテレポーテーション、またはこっちでは伝説とされている転移の魔導の事である。
ただファンタジーでいうほど便利なものではない。
「なら使わないけど……別にあれじゃなくても、省エネでこういうのもできるからね?」
ゼニスはそう言うと、MPを練る素振りすら見せないで魔法を発動する。
「うぉっ」
身体が宙に浮いたぁ!?
そして股の辺りをふわりと風でさするのは止めて!
「しかし物は使いようだな」
「何が?」
「だってこの魔法使って俺のこと助けてくれたんだろ?」
「いえその言い方は正しくないわ」
正しくない?
いやそんなことは無いだろう。
あの金巨人からなんとか逃げられたのは間違いなくゼニスの魔法のおかげだ。
「確かにあの、名前は何だったかしら……えーっと、と。とりあえず三つ目の金巨人から直接的に逃げたのは私の魔法よ? でもその前段階においてあなたがあの金巨人とさしで戦って稼いだ数分がそれを成功させたの。 だからあの戦いに関してはあなたが私に感謝する必要はないわ」
「ゼニス……お前「まあそれ以外に関しては本当に感謝してほしいけどね」
案外いいやつだな、そう言おうとしたが言うのをやめた。
「とりあえず俺が倒れた後の事聞いてもいいか?」
「別にいいけど、そんなに話すこともないわよ?」
「ああ、それでいい。 とりあえず状況を教えてくれ」
「あまり時間もないから評細は省くけど、あなたが倒れたのは私が魔法を発動したタイミングよ」
うん、それは分かってた。
何回かあの魔法を経験していたおかげだ。
まあその度に気を失っていた訳でもあるのだが……。
だがこの世界に来てから気絶する機会の多かった俺にはこのぐらいへっちゃらなわけだ。
「だけど残念ながら転移の魔法では私のいる場所まで運ぶことは出来なかった。 だからあなたの身体にマークを付けていたからそれで運んだのよ」
「運ぶって。さっき俺を宙に浮かせたやつ?」
「そう、それで自分でいうのも何だけど、金巨人の攻撃を避けるためにすごい無茶苦茶な軌道で動かしたのよあなたを、それが私が膝枕する訳になったんだけど……。 それで金巨人から戦略的撤退をした後は……」
「逃げた後な?」
「…………戦略的撤退よ、あとで私たちはあいつを倒すもの」
どうしてもゼニスは「逃げた」という言葉は使いたくないらしい。
もうこうなったら彼女が引かないのはこの500年で分かっているので深くは突っ込まない。
「だから体中がむち打ちした後かのような違和感があるわけだ」
「でも骨折とか脱臼とかそういうのは直したからいいでしょう?」
「細かな傷は?」
「そこからは自分でなさい、今ならできるでしょ?」
「まぁ……」
出来るか出来ないかでいえば出来る。
でもなんか違うじゃん。
自分でやるのとやってもらうのではさぁ。
そんなこと言ったら吹っ飛ばされるから何も言わないが。
でおゼニスにはそこら辺の男の機微というものが分かっていない。
仕方なく俺は自身の身体にMPをいつもより多く巡らせることを意識し、そしてその中で損傷している部分を活性化させる。 自然治癒を促そうという訳である。
「もういいや。 それでどうしたんだ?」
「…………なにその適当な感じ、まあそのあとは特に話すことは無いわよ? この階層にいたモンスターをあらかた片づけてから魔法でこの空間を隔離してあなたを回復させてたってわけ」
「……さらっと言ってるが結構すごいことやってるよなぁ」
「それこそあなただってできるじゃない? 雑魚モンスター1万のデスマーチを余裕綽綽な顔して倒してたくせに」
「はぁ!? ばっか、あれのどこに余裕があったよ!?」
めちゃくちゃつらかったんだが!?
腕とか足とかすべてどこかしらに怪我してて傷のない場所を探すほうが難しかったんだが!?
「でも終わった後、高笑いしてたじゃない?」
「……それはテンションが変に上がってただけです」
言葉が尻すぼみにになってしまう。
あれは俺の黒歴史だから思い出したくないんです、はい。
「まああなたのあれに比べれば今回のは500~1000程度だしね。 それにそのおかげで大分レベル上がったわ」
「……具体的には」
「41」
「はぁ……」
思わずため息が漏れる。
またこれでゼニスとの差が開いた……。
「気にしなくてもいいわよ、レベル差はすぐになくなるし」
「レベル差はねぇ」
ふふふ、と笑うだけで何も答えない。
「ほらいつまでも休んでられないわよ? 金巨人のところに目くらましは置いておいたけどいつくるか分からないわ、だから……」
「ああ、追いつかれる前に奴から逃げ切ったボーナスステージを狩りつくしに行きますか」
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