30話 無職は願う
「ダンジョンって?」
「この膜は元々破られる前提なのよ」
「……は?」
「この膜は魔神がここを乗り越えたと、警鐘を与えるためだけにあったの」
「はぁ…」
なんかもう不安でしょうがない。
いやもはや不安でしかない。
「んで?」
「この先に魔神を足止めするためのダンジョンがあるわ」
「もちろんダンジョンにはモンスターとかいるよな?」
「……? 何当たり前のこと言ってんの?」
「だよなぁ……」
いるよなぁ、モンスター。
そして絶対ゴブリンより強いよな、だって魔神を抑えるためのダンジョンって言ってたし。
やっぱ当初決めていた通りに行くか。
「なぁ」
「一応聞いておくがダンジョンのモンスターはゴブリンよりは強いんだよな?」
「…………あなたこの世界に来て何も学ばなかったのかしら?」
「一応だよ、一応! 俺この世界に来てからモンスターと闘ったのゴブリンしかないからしょうがないだろ!?」
「……そこのダンジョンには1番弱いのでもワイバーンだったかしら。 ただこれは数合わせで入れたようなものだから、最低でもそれ以上がいるわ」
ワイバーン……。
物語とかではドラゴンの下位って感じだったか?
だが強さがやっぱよくわからんなぁ。
「……なぁ、ゴブリン換算だとどのくらい?」
「なんで……ってゴブリンしか知らなかったわね……えーっとゴブリン換算なら10000かしら」
「……」
10000かぁ。
かなり強いなぁ。
「10000が一回で食べられるわね」
「あっ……」
察したわ。
「……なぁゼニス。 お前俺のお願いを一個なんでも聞いてくれるんだったよな?」
「……ええ、確かに約束したわね」
おい、なんで身体を守るようなしぐさをする。
「おい、なんか変な想像してないか?」
どんだけ信頼してないんだ、俺の事。
昨日でさえ手を出さなかったというのに……。
「はぁ、もうそこには触れないからな。 単刀直入に言おう。 俺を強くしてくれ」
「…………は?」
「? だから俺を強くしてくれって言ってるんだよ」
「……そんなことに使っていいの? もっとほら、俺に奉仕しろとかあるでしょ?」
「なんだ、そういう願望でもあるのか?」
なんで自分から言っておいて、絶対零度の視線を向けるんだよ。
理不尽すぎんだろ!?
「とりあえず強くしてくれ。 こういっちゃなんだがここを出るには俺も強くならないといけない。 ぶっちゃけ俺には戦闘経験がほとんどない」
「逃げ回った経験は豊富なのにね」
こっ、ここで言い返したらきりがない。
今は我慢だ我慢。
「……とにかくこのままじゃダンジョンに行っても戦える気はしないからな」
「まあいいわ。 私もその気だったし。 ここで願いを使ってもらってよかったわ、でも本当にいいの? もう願いは変えられないけど」
「じゃあ聞くなよ。 ……でもいいんだ、これで俺が納得するまでとことんできるからな。 でも時間は大丈夫なのか?」
「……何をいまさら。 もうここに1000年もいるのよ? ちょっと遅れたぐらいじゃどうということは無いわ。 それに私の魔法を使えばいいし」
「ああ、1日が100年のあれな」
「そう、そこで修行するから」
「あれ、ゼニスも中にはいることできるのか?」
「逆に入れないと思う? 自分の能力なのに」
そりゃそうだ。
あ、でも……あの能力って確か。
「……あれたしかめちゃくちゃMPを消費するはずだったよな、そんな中俺に教えること出来るのか?」
「フフッ、そんな心配は無用よ?」
あ、なんかすごい嫌な予感がする。
この短期間で分かった。
あいつがこういう笑顔をするときはろくなことを言わない。
「今回はあなたのMPも半分使うから」
半分?
あれって毎時間30000のMPだよな、ってことは半分の15000を失うことになるんだよな?
しかも戦闘訓練しながら。
「……ちなみにMP、自分の魔力が尽きるとどうなるんだ?」
俺がそう聞いた瞬間、一層ゼニスは笑顔になった。
「……MPを空にすることはいいことよ? レベルを上げなくてもMPが上がるんだもの、まぁある一定までだけどね」
いいことだなぁ。
でも絶対デメリットあるだろ、これ。
うまい話には絶対裏がある。
よく言うあれだ、ただほど高いものはない、というあれと一緒。
「それ絶対デメリットあるよな?」
「私言ったわよね、全部を教える気はないって」
「……つまり?」
「自分で確かめなさい」
ほら来たよ、またいい笑顔。
「これで雑談は終わりよ。 じゃあ早速あなたの願いをかなえましょう」
うわめっちゃ楽しそう。
絶対こいつSだろ。
ってこいつ魔法を発動しているぞ?
これって……まさか。
「ちょ、まて……っておいぃぃぃぃ」
俺はまた穴へと落とされた。
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