28話 無職は常識を覆される①
「……んっ……これは」
いつの間にかベッドに移動している。
それに毛布も掛けられている。
「よぉ、お目覚めか?」
「淑女の寝顔を眺めるなんて行儀がなってないのね」
「そういうお前は、男がいる中で堂々と寝るなんて淑女として危機管理能力がなってないがな」
「あら、ここには私を何とかできるほどの男なんていたかしら?」
「まあ、俺ぐらいだな。 こんな言い合いしてても不毛だな……どうだ体調は?」
言われて気づいた。
体調がよくなっている。
MPを使いすぎて、欠乏症になりかかっていたのに……
「その様子だと大丈夫みたいだな」
「……あなた何かしたの?」
「いや、お前の感じが魔法を使いすぎてぶっ倒れた時に似てたからさ、俺の魔力をお前に軽く渡しておいた」
「なぜあなたがそんなことを? こう言ってはなんだけど私、あなたに好かれるようなことをした覚えはないわよ? というか恨んでると言われても全然納得できる、確かに私の容姿は整っているからそれ目当てで助けたと言われれば納得できなくはないけど……」
最初に会った時ならともかく、この男は今そんなふうに考えている節はない。
故に、より何故かわからない。
「……ということは善意の優しさ?」
「……は? そんなものあるわけないのはお前が1番分かっているんじゃないのか?」
「でしょうね……」
もう尚更分からない。
「俺のためだよ、結局俺はある程度の力は手に入れた訳だがここがどこなのか、なんでこんな空間があるのか、その他もろもろ、全てにおいて知らない」
それはそうでしょね、何も説明してないのだから。
「だから私が必要と?」
「ああ。変に交渉とかするなよ? これは約束だからな?」
「見くびらないで欲しいわね。そんな約束を破るような醜い真似を私はしないわ、醜い人間どもと違ってね」
「…………こっちはお前の人となりも分からないんだ……だか今回はこちらが悪いな、すまん」
「あら意外ね素直に謝るなんて」
「自分が悪いことはそりゃ謝るさ」
「…………ふーん」
「…………なんだよ」
「いえ、とりあえず……」
私は視線を下へと下げる。
昨日までずっと魔法を使い続けていたから、さっぱりとしたい。
「……とりあえずなんだ?」
「はぁ……」
これだから童貞は、気が利かない。
「私、シャワーを浴びたいのだけれど」
「……だから?」
だから?
ホンットに察しが悪いわこの男。
「出てってくれないかしら」
「なんで? 俺は気にしないぞ? お前が汗くさくても、というかいい匂いだったし」
「…………私が気にするのよ、私のために。 そんなんだから魔法使いなんていう童貞の極致のような職業を手に入れるのよ」
「なっ……そっ、それは関係ないだろ!」
「いいから出てきなさい、そしたら話してあげるから」
風の魔法を発動し、玲夜を部屋の外へと追い出す。
*
「それで何から話せばいいかしら」
「全部」
「……それじゃあまずここはどこかってとこだけどここの名前は知らない、私たちは最果てって呼んでたわ、そして魔神を封印した、いえ、封印するはずだった場所よ」
「……するはずだった?」
「ええ、実際は魔神を封印することは出来なかった」
「なぜ?」
「国が裏切ったから」
「具体的には?」
「魔神を倒すのは都合が悪いって意気揚々と語っていたわ、そして私が代わりに封印された。私が考案した魔導を使われて」
子細までは聞かない、ゼニスは苦々しそうな顔をしているし。
「で、その魔神というのはなんなんだ?」
「……私の村をきまぐれで滅ぼしたやつ」
ゼニスの表情から彼女が魔神に並々ならぬ思いを抱えているのは察することが出来る。
「どれぐらい強いんだそいつは、具体的には魔王とかと比較するとどうなんだ?」
名前的には魔王よりも普通に強そうだが……。
「魔王なんて奴の手下の部隊長ぐらいに過ぎないわ。 魔神は私達の時代で強者と呼ばれる複数職持ちが1000いても足元にも及ばないほどね」
「1000? 魔神って勇者とかでも討伐できなかったのか?」
ぽかんとした顔をするゼニス。
なんかおかしなこと言ったか俺。
「職業勇者が魔神を討伐できるわけないでしょ?」
「は? 何を言ってるんだ? 勇者のステータスを見た時、かなり高かった記憶があるが」
「確かにステータスの上がり幅など平均的に勇者は高い、でもそれだけなの。 職業勇者には圧倒的なデメリットがあるの」
「……デメリット?」
「職業をひとつしか持てないの」
「…………それが?」
さっぱりわからない。
それの何がデメリットなんだ?
「それがって……。 ひとつの職業しか持てないなんて成長度合いなど様々なことに明確に差が出てくるでしょ?」
「……つまり職業を2つ以上持てるということか?」
「何を当たり前のことを言ってるの?」
は?
ちょっと待て。
「職業が複数?」
「…………何を驚いてるのかしら」
よし分かった。
「前提が違ってるっぽいな、とりあえず知識のすり合わせするか」




