20話 無職は自嘲する
本日2話目!
「は?」
美女の反応なんて気にしていられない。
なんでだ? どうして俺は若返っているんだ?
考えてみれば不自然なことは多々あった。
髭は全然剃ってなかったのに全くと言っていいほど伸びて来なかった。
運動神経も心なしか全盛期である高校時代のような軽やかさがあったな、柊たちが圧倒的なステータスだったから全く気づかなかったけど……。
それにおかしいとは思っていたんだ、柊たちの対応が。 彼らの最初に会った時の反応は大人に対する態度だったのにこっちの世界に召喚された時はいつの間にかタメ口になっていたし、「どこの高校に行っていたの?」みたいな間抜けな質問もしてきた。
あの時は全くと言っていいほど意味が分からず俺の緊張をほぐすための質問かと思っていたが、今、やっと繋がった。
確かにその意図もあったかもしれないが彼らは多分、単純に普通に聞いていたのだ、俺を高校生だと思って。
「そうか、彼らは道に迷った俺と召喚された俺は別人だと思ってたってわけか、……はは」
思わず自嘲してしまう。
「てことはあの召喚の時には既に若返っていたという訳か……はは、情けねぇ」
なんでこんな簡単なことに気づかなかったのか、いや気づけなかったのか。
鏡をみれば分かるような簡単なことなのに。
気づけなかった理由は分かってる。 俺はこの世界にきて鏡を見た記憶がそもそもない。別に俺は地球にいた時にも鏡を見なかった訳ではない。
むしろ毎日見ていた、社会人として身だしなみには気をつけないといけなかったし、他人に不快感を与えないようにと心掛けてもいた。
それなのに俺は若返っていたことに気づかなかった、いや気づけなかった。
余裕がなかったのだ、鏡を見ている余裕など全くと言っていいほどに無かった。
そんな朝起きて髭をそる、毎日のルーティーンすら忘れていた。
そして俺は自分に余裕が無くなっているという事実にすら気づいていなかった。
30近くにもなってというか多分30になってるから、30にもなってこんなんとは情けないを通り越してもはや笑えてくる。
力が抜けて床に座り込む。
なんか腰に力が入らない。
「はぁ」
そのまま何分そうしていただろうか、わからないがとりあえずやっと心が落ち着いてきた。
ふと視線を上にあげればサファイアの瞳が俺を見つめていた。
「……えーと、何でしょうか? 」
「……ああ今の一連の行動についてはなかったことにするのね。 分かったわ、なら私も水鏡を見たらいきなり壊れた人形のように笑い始め、収まったと思ったら今度は無気力に座り込んだ今の貴方の10分間の奇怪な行動は見なかったことにするわ」
グフっ……。
的確に痛いところををついてくるじゃないかこの美女さん。
でも確かに今のは10:0で俺が悪いよな、何分も待たせてしまったし。
中々ないぞ、10:0で悪いって。
普通は7:3とかだ。
じゃなくて言い訳と謝罪をしないと、じゃないと俺の印象が悪くなってしまう。
「……あの今のはですn「ねぇ。」 はい?」
謝罪の言葉を言おうと思ったが言わせてくれない。
てかなんだろう、目力が強い……気がする、いや絶対強い。 最初に会った時より目に力が、と言うか睨まれている気がする。
心なしか言葉に棘があるようにも感じるし。 なんか俺怒らせるようなことしたか? この短時間の間にって思ったが……うんしてるわ。
俺叫んじゃってるわ。
印象は既にマイナスかもしんない。
そのことを念頭に置いて改めて彼女のサファイアの瞳見てみると……
こえぇぇえ。 なんで無言なんだよ、マジギレなのかそうなのか?
思わず顔が引きつってしまう。
それを見て彼女は何を思ったのかふと睨むのをやめるというか俺から目線を外す。
「はぁ。 こんなところで話してても仕方ないわね、貴方とは長い付き合いになる訳だし。 それに聞きたいこともある、多分貴方も私に聞きたいことがあるでしょ? だからついてきなさい」
彼女は一方的にそれだけを言うと俺に背を向けて彼女がやってきた方向へと戻っていく。
「なっ、ちょっと待っ……」
もはや俺になにかを言わせるつもりはないのか俺の言葉にも振り向かない、返事もしない。
「まじか……」
だが俺はこの理想郷のことで知っていることは何もない。 現状ここのことを知っているであろう彼女に俺は聞くしかない。
「てことは今は彼女についていくことが最善策か……。」
前を見れば彼女の姿は既に小さくなり始めている。
「おいおい、本当に行くのかよ……。 ちょっと置いてかないでくださーい」
俺は大声で叫びながら走る、彼女の言葉にある引っかかりを覚えながら。
……まさかな、ただの聞き間違いのはずだ。 普通なら見ず知らずの俺にいきなりあんなこと言うはずがない。
だが俺の不安は消せない。
見てしまったからだ、彼女の瞳の中に、怒りとともに垣間見た諦めがあるのを。
彼女の諦めたその瞳。 そう、それは俺が地球の時に浮かべていた眼に似ていた。
仕事終わりに風呂場でよく見た、鏡に映っていた俺の絶望した、淀み濁りきったその瞳に。
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