19話 無職は出会う
本日1話目です。
2話目は19時に。
「うわ、すげー……」
目の前の光景が圧巻すぎてあほみたいな言葉しか発することが出来ない。
大地には多種多様な色とりどりの花が咲き乱れており、空は雲ひとつない晴天で透き通っている。
それは誰しもが憧れる、行ってみたいと1度は夢想するような場所。 ある人はそこを天国だと表現するだろう、またある人はそこを始祖たちが暮らしたと言われるエデンの園であるともいうかもしれない。
そんなような印象を抱かせる場所。
「こういう場所のことを理想郷っていうのか……」
目の前の光景を美しいと思った…………。
だがそれだけだ。
しばしその光景を眺めているとふと目の前の景色に変化が生じる。
誰かがこちらに向かって歩いてきている。
その歩き方は見るものに気品を感じさせ、視線がなぜか外せない。
いやどちらかといえば自然と目線が吸い寄せられるという感じか。
そして徐々にその姿が見えるようになってくる。
歩いてきたのは女性だった。
とても綺麗な女性。
俺の目の前まで来て、立ち止まるとよりそのことが顕著にわかる。
しかし何故か彼女を見れない。 綺麗なのは分かるが、評細は分からない、モザイクがかかっているみたいなそんな感じ。
まるで何かが俺と彼女の間にあるようだ。
何か壁があると感じというか……ゲームなどをしている時に出てくる半透明の虹色の壁みたいな感じと言えばいいだろうか。
だから俺は好奇心で半透明の壁に触れようと、洞窟の出口から理想郷へと手を伸ばした。
その瞬間、目の前の美女の口辺りがを動くのが見えた。
「ーーーーーーーーーー」
何かを言っていることは分かる。
だが何を言っているのか分からない、聞こえない。
ただ何か切迫した様子を感じさせる。
どうしたんだ?
そう考えた時、何かぬるんとした嫌な感覚に襲われた。
それはまるで粘性のスライムに全身に纏わりつかれた時のようなそんな感じ。
それに抗う間も無く俺の身体を引き込まれる、この異世界に召喚された時と同様に。
「うわぁっ」
身体を思いっきり投げだされる。
受け身も取れず身体を強打する。
「痛っ」
背中をさすりながら目を開ける。
視界に飛び込んできたのは、全てを見透かすようなサファイアの瞳。
しかしその瞳にはどこか冷徹さを感じさせられる。
その瞳はまるで己の非を攻められているようで……。
「何をしているの?」
そこで俺は改めて彼女の容姿をちゃんと視認する。
風に靡く銀髪はまるで絹のようで、こちらを見つめる青い瞳はサファイアのように透き通り全てを見抜いていると思わせる。 顔のパーツのどれ1つをとってもこれ以上ないと思わせるもので、美しいのは顔に留まらずその肢体もそうだ。
豊満な身体は見るもの全てを魅了させ扇情的な気分にさせるのだろう。
なぜだか俺にはそんな気分は湧かないが。
端的に述べられた彼女の言葉の中になぜか怒気を感じるのは気のせいだろうか、いや気のせいだなうん。
だって初対面の相手に怒られるようなことした覚えないし。
とりあえず下手に出ておこう。
「……何をしているのかと言われましても……。 自分も何がなんだかわかっていない状況でして〜……はい」
「的を得ないから質問を変えるわ。 少年はどこから来たの?」
「どこからと言われればイシュバルからですね……。 あと、その少年って誰のことを言っているんですか? もし俺のことなら少年ってほどの歳でもないと思うんですが……」
「誰のことって……貴方以外この場にはいないと思うのだけど?」
「ええ、俺もそう思いますけど。 ならやはり俺を少年と言うのは無理があるんじゃないですか?」
「無理? なぜ?」
心底不思議そうに首を傾げる。
え? こっちじゃアラサーでも少年とかそう言う感じなのか?
あ、この人長寿とかそういうことなのか? 80の人から見れば30も少年である的なこと……か?
俺が困惑していると、美女はさらに続ける。
「貴方ぐらいの髭もまだあまり生えていない年齢の頃はそう言わないの? 私がいた頃とそういう価値観も変わったのかしら?」
「いえ、だから髭もこんなに……ってあまり生えていないな、うん?」
手で摩ってみれば確かに地球にいた時よりも無精髭の量は減っている……というかほぼなくなっている。
「あれ?」
よくよく自分の顔面をペタペタと触ってみるとなんか肌にも張りがあってモチモチしている気がする。
なんか俺がここ数年慣れ親しんできた顔との違和感があるぞ?
「すいません。 鏡とかってあったりしますか?」
「今。鏡は手元にはないけど……。 それぐらいなら魔法で出来るわ」
そう彼女は言うと、いつの間にか水が発現、それがふわふわと浮き上がって鏡のような形状になり、自分の顔を確認できるようにしてくれる。
「……え? 今どうやって……? と、とりあえずありがとうございま……………は?」
思わず絶句してしまう。
口を大きく開けてるから傍から見たらアホな人みたいになってるだろう。
だが今はそんなことどうでもいい。
「……どうかしたの? まるで自分の顔が別人になっていたみたいな反応しているけど?」
彼女の言葉は聞こえている。
聞こえてはいる。
だが返事をすることは出来ない。
いやこの状況なら誰だって返事する余裕があるはずがない。
だって俺のこの状況は……
「わ………………」
「わ?」
「若返ってるぅぅぅぅぅぅ!?」
俺の叫びが理想郷に木霊した。
いきなり叫び声をあげた俺への彼女の反応はただ一言。
「は?」
その冷たい一言のみだった。
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