閑話② 聖女の不安
彼、月城玲夜がいなくなって一か月。
私たちは着実にレベルアップしたといえる。
ステータス自体に変わりはない。
だが自身の力をある程度扱えるようにはなった。
最初はそれこそ、自身の力に振り回され魔導の調節が出来ず、暴発したり不発だったりした。
それが今では……
「我、願い奉るは水の精霊なり。 青は生を生み出し、また死を運ぶ。 万物の源流であり万物の終着点。 何時の青をもってすべてを見据え、すべてを弾きたまえ アクアウォール!」
「我、願い奉るは火の精霊なり。 劫火はすべてを焼き尽くし、この世に灰のみをもたらしめる フレイムインパクト!」
桜が魔導で水の盾を作れば、その一瞬後に柊の火の魔導が炸裂する。
お互いの魔導がぶつかり合い、派手な音が辺りに響き水蒸気が巻き起こる。
その煙が収まって残っていたのは、桜のアクアウォール。
「よしっ……ってあれ? 柊君がいない……?」
「はぁぁぁぁ」
桜の後ろから柊が片手剣をもって飛び出してくる。
このまま、行けば私たちの勝ち……
「はっ、そんな簡単にうちの大魔導士はやらせねえよ! 力よ、湧き出ろぉぉぉ、身体強化!」
柊の突進を秋人が受け、さらに押し返す。
「やるね、秋人」
「お前こそ、二人相手によくやるよまったく」
「我、願い奉るは風の精霊なり。 緑は豊穣を運び、また嵐にもなりうる。 不可視の風となって我の敵を滅ぼしたまえ、ウインドエッジ!」
「え?桜まじか……」
「ナイス桜!」
桜の風の刃が秋人避け、柊だけを見事に襲う。
「うおっ」
そう判断した柊は秋人と桜から大きく距離をとる。
だがどうやらその全てを避けることはできなかったらしい。
いくつかかすり傷が着いている。
「我、願い奉るは光の精霊なり。何者にも侵されがたき堅牢なる光を持って我を守りたまえ、ライトシールド!」
桜からの追撃を防ぐために、柊と秋人達の間に光の防御魔導を放つ。
ついで即座に回復魔導を詠唱。
「我、願い奉るは光の精霊なり。 光は癒しを与え、安らぎをも生む ヒール!」
柊を白色の輝きに包まれ、桜によってつけられた傷が治っていく。
「ありがとう、夏希」
「気にしないで」
「ははっ、じゃあちょっと本気を出そうかな」
柊の雰囲気が真剣なものに切り替わり、場の雰囲気がより緊迫したものになる。
そして全員が次の動作に動こうとした瞬間。
「お前ら、終わりだ」
私たちのちょうど中間にブランが現れる。
「……危ないじゃないですか、ブランさん」
「はっ、まだまだお前らの攻撃を喰らってダメージは受けねぇよ」
「……それはそうかもしれないですが」
「何ならやってみるか?」
ブランの挑戦的な物言いに、柊たちもプライドを刺激されたらしく、それぞれ自分の獲物を握りしめる。
「何やってるんですか、今日は近くのダンジョンに行くんでしょう? そのための準備運動をしてたのに、何あつくなってるんですか、あなたたちは」
「す、すいません」
「まぁ、鍛錬に身が入っている証拠でもあるんだけどね……それよりも問題なのは……」
そう言って、逃げようとしていたブランの腕をさっと掴むタント。
「どこ行こうとしてるんですか、ブラン統括官」
気まずそうに視線を逸らすブラン。
「いや、あの、あれだ。 やんなきゃいけない仕事をだな、思い出し…………まして、はい。」
「何言ってるんですか、あなたがやるべき書類仕事も私がやってるんですからね。 というかなんで柊君たちを挑発してるんですか、今日はダンジョンに行く日なんですよ。 それも今回のようなことはもう三日連続ですからね、そのこと分かっていますか?」
ブランさんがタントさんに怒られている。
タントさんは私たちの鍛錬の相手をしているが立場としてはブランさんの副官らしい。 そして訓練をしてくれる人の中で1番教師っぽい。
「あーあ、始まったわねぇ、タントの説教が」
「……サーラさん」
隣で妖艶な笑みを浮かべるサーラさん。
歳は私たちと5歳も変わらないと言っていたけど、雰囲気は完全に妙齢の女性のそれである。 スタイルもめちゃくちゃいいし。 私はなんでも見通していそうなサーラさんがちょっと苦手だ。
「ほら、あの2人は放っておいて早く準備してきなさい、その頃には終わってると思うから」
「はい、ありがとうございます。 ほら柊、秋人と桜も。 一旦部屋に戻るわよ」
「分かった」
「おう」
「ちょっと待って~」
柊と秋人の返事、次いで一番遠くにいた桜が追いかけてくる。
全員、いつも通りだ。
緊張などあまりしていない。 どちらかと言えば高揚してさえいる。
だからこそ私は不安だ。 彼らがどこかゲーム感覚でいるような気がしてならない。
彼、月城玲夜がこの異世界であんな大けがをしたというのに……。
柊たちを見ているとそんな不安がどうしても脳裏をよぎる。
「そんな不安そうにしなくても大丈夫よ。 あなた達は死なないもの。 だって私たちが守るから」
「……サーラさん。 私は不安そうにしてませんよ?」
「そう? 今にも泣きだしそうな顔をしていたけど?」
「そうなのか、夏希?」
あぁ、面倒なのに聞かれた。
「そんなわけないでしょ。 ほら今度こそ行くわよ、桜ももう待たないからねっ!」
「ま、待ってよ~」
やっぱり私はサーラさんが苦手だ。
「ちゃんとお風呂にも入るのよ~、ダンジョンに一回行くとなかなか入れないんだから~。 」
「余計なお世話です!」
「あらあら」
本っ当に私はサーラさんが苦手だ。
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