17話 無職は自由を渇望する
本日4話目、そして1章終了です!
俺は戦闘の音を聞き、最小限だけ迂回する選択肢を取った、その結果……。
「だからこっちに来んな、アホンダラぁぁぁぁ。キモいんだよぉぉぉぉ。」
またゴブリンと出会ってしまったのだ。
そろりそろりという効果音が聞こえてきそうなほど、ゆっくりと木の影などを使って俺は歩いていたのだが逆にそれが仇になった。
運の悪いことにちょうど、ゴブリン達が走ってくる方向だけが木のせいで死角になっていたのだ。
それで反応するのが遅れた。 お互いに気づいたのは同時、しかしその時にはすでに互いの距離の差は50mをきっていた。
俺はゴブリンをを認識した瞬間、即座に進路を変更、逆方向へと駆け出す。
「ガァァァ」
後ろを追いかけてくるゴブリンたちは皆少なからず傷ついている。 多分騎士たちの攻撃から逃げ切った個体たちとかなんだろう。 てかそもそも綺麗なゴブリンがいるかは微妙だが。
「ケガしてるからって俺が倒せるわけじゃないんだけどな、五体もいるし」
一体だったらなんとかしようという気概も出てくるが、五体だ。 単純ステータスで言えば俺が100人必要になってくる計算になる。
そんなの絶対無理だ……。 またもや逃げの一択しか無くなってくるわけだ。 なぜなら敵はゴブリンだけじゃない。
後ろのゴブリンたちは走ってきていた、つまり逃げてきたのだ。 てことは残党を探すために騎士たちが追いかけてくる可能性もある。
その可能性は低い気もするのだが……。
ピィィィィィィィィ。
なんてことを考えていたら後ろで甲高い音、ホイッスルのようなものの音が聞こえてきた。
なんかすごく嫌な予感がする。
後ろを振り向いてみるとゴブリンのさらに奥に、馬上で何かを口に咥えた青鎧の騎士が1人いた。
ここに来て完全に見つかったらしい。今のは十中八九他の青鎧の騎士たちへの合図だろう。
ゴブリンに追いかけられ、さらに鎧の騎士たちにも追いかけられる。
しかもさっきとは違って完全に青鎧の騎士たちに補足されてしまった。
これ明らかに状況悪くなっていないか?
俺にできることは限られている、というか実質一択で逃げるしかない。 青鎧の騎士たちは幸い馬でこの足場の悪い森の中に入ってきているようだから荒野ほどのスピードは出ないはず。
すぐに捕まることがないのせめてもの救いか……。
それでやつらがもたついている間にうまく隠れてやり過ごすしか方法はないか。
どうやり過ごすのかを考えながら森の中をひた走る。 だが、後ろを走るゴブリンや鎧の騎士たちは諦める気配を見せてくれない。
「待てよぉぉ、おい!? 逃げるなよぉぉ、危ないことはしないからさぁ」
馬上からランスのようなものを振り回しながら騎士が大声で叫ぶ。
そんあ変態が幼女をさらう時のような言い草で誰が騙されるか。
「ガァァァ」
さらにゴブリンも叫ぶ。
無視だ、無視。
「チッ、反応なしかよ。 ……ってあいつ言葉わからないんだった」
まぁ言葉わかってますけどね。 反応したら分かってるって認めるようなものだからしないが。
てかそんな余裕がないってのが本音なんだだが……。
「ハァハァ」
あれから5分間全力で逃げに逃げた、障害物の木とか岩とかの影を利用しながら走った。
その結果めっちゃ疲れた……。 だがそのおかげでゴブリンどもと鎧の騎士から逃げ切ってやった。
もう社会人の本気を見せてやったような気がする……、はぁはぁ、息切れは止まらないが。
「どこ行ったんだよぉぉょ。 クソガァァァ」
遠くの方で青鎧の騎士はヤケクソまぎれとばかりにゴブリンをランスで突き、なぎ倒していく音が聞こえる。 その音は幸運なことに徐々に俺がいる方向からは離れていってる。
代わりに俺はいつのまにか森を外れてしまい、後方には谷のようなものがある場所に来てしまった。
「うっわなんだこの色、なんか禍々しい。……さしずめ毒の河といったところか」
下を覗き込んでみると谷は50メートルぐらいの深さがあり、下では紫色の液体が流れていて所々から蒸気のようなものまで吹き出している。
とても人体に無害とは言えそうにない。
「……とりあえず逃げよ、うん」
そう考えてまた走り出そうとした瞬間、背筋にゾクッと寒気が走った。
なんだ?
そう思って振り向いた先にいたのは例の男。 こんな逃避行をしなければいけなくなった元凶、でかい体をしていて仲間であろう奴らに指示を出していた隊長、青鎧の男がそこに立っていた、大剣を携えて。
俺の顔を認識するとニヤリと気色の悪い笑みを浮かべる。
「みつけたぞ」
彼は声を決して張っていたわけではない、大声で言ったわけでもない。 なのに不思議と彼の不気味な声が明瞭に聞こえた。
鳥肌が立ってしょうがない、暴力を振るわれるよりもよっぽどこっちの方がきつい。
いつまでも奴と相対しているのは愚策。 彼との距離は200メートルあるかないか、加えて何故か彼は馬に乗っておらず走る様子も見せない、悠然と歩いている。
だからすぐに追いつかれることはないはずだ。
反転して鎧の隊長から逃げようとするができ……なかった。 逆方向からも来ているのだ敵が。
ゴブリンが群れで走って来ている、大体五匹ほどか。
となれば来た道を引き返すしかないわけだが……あいにくとそれもできない。
俺が通ってきた道にはすでに俺の後を追ってきていたランスを持った鎧の男と他の仲間たちが来てしまっているのだ。
そいつらも俺を視界に入れてしまった。
「見つけたぞぉぉ、おらぁぁぁ」
後ろには深い谷
つまり俺はことここに至って最悪のタイミングに完璧に包囲されてしまったのだ、ゴブリンと青鎧の騎士たちによって。
逃げたくても逃げる場所がなくなってしまったのだ。
まずいまずいぞ、どうする、これが本当に四面楚歌って状況だ。
一番生き残って逃げられる可能性の高い選択肢はなんだ? ゴブリンか、ランス野郎か、青鎧の隊長か。
そんなのは考えなくても分かる、もう自明だ。
地面に落ちていた手頃の石を拾い、ゴブリンに向かって駆け出す。
残り20メートルを切ったところでゴブリンが手斧を放ってくる、だがくると分かっていればなんとか避けられる。
一つは左肩をかすってしまい激痛が走るが今はそんなものに構ってられない。
右手に持っていた石を思いっきり一番谷側のゴブリン目掛けて投げる。
「ギャア」
狙い通り石は当たりそのおかげでゴブリンが一瞬仰け反った。 そこ目掛けて思いっきり体当たりし谷へとの仰け反ったゴブリンを落としにかかる。
だが生憎と押すことには成功したがギリギリのところでゴブリンは耐える。
体が大きくないからいけるかと思ったがここでステータス発揮されるのかよ、畜生が。
思わず舌打ちしたくなる。
だがまだだ。
まだ終わりじゃない。
懐に入れていた小刀で、耐えたゴブリンの眼球を斬りつける。
「ギャァァァ」
今度はしっかりと効いたらしい。
眼を抑えたゴブリン尾隙を使ってゴブリンたちの包囲網を突破する。
「よし、これであとはまた逃げ切るだけって……え?」
走るスピードを上げようとした瞬間、何かに服を思いっきり引っ張られる。 この状況で引っ張ってくるのはゴブリンしかありえない。
後ろを振り向いてみると眼球を斬りつけたゴブリンが俺の服の裾を掴んでいる。
そう認識した瞬間には既に俺はぶん投げられていた。 谷の方向に向けて。
「え?」
身体が浮遊感と共に虚空へと投げ出される。
やけに周囲の風景が鮮明に見える。 もちろん俺を追って来ていたヤツらのことも。
そして青鎧の隊長との方をみると悔しげな表情をしていたのが見て取れる。
「貴様ぁ、なぜこんなところでぇぇぇ」
たぶんやつはゴブリンにやられるのを見たかったんだろう。
だから俺は気丈に、かつ皮肉げに笑ってみせる。 中指を立てながら。
「はっ、ざまぁ。 でもこれで終わりじゃない、次は俺が凄惨にお前を殺してやるからな」
その声が聞こえたのか奴の顔はさらにゆがむ。
ははは、気持ちいいねぇ、その顔は。
「お、おまえぇ、おまえぇぇぇ…………」
落下しているため、やつの言葉は途中で聞こえなくなる。
谷に落ちていく中で、これから死ぬという状況で、不思議と俺の心は落ち着いていた。
だからか特に理由はないがなぜか俺は自然と空を見ていた。
そんな俺の瞳に見えたのはただどこまでも真っ青な空と、そこを自由に自身の羽で飛び回る地球の鳥と似たような羽のある生き物。
その光景がふとこの異世界に転生された日、俺の地球最期の日のことを俺に思い出させた。
上司のつまらない説教を聞き流していた時に見えた、自由に飛ぶ小鳥の姿が今見た光景とダブった。
ああ、そういえばあの時俺は自由になりたいと思っていたんだった。 俺の人生思い返せば誰かに翻弄され続けた人生だった。
親からDV紛いのこともされたし上司から散々パワハラも受けた。
彼女もできずピュアまで守り抜いてしまった。
もし次があるなら何にも縛られず、俺は自分の意思で自由に羽ばたきたい……。
そんなことを想いながら俺は河へと落ちていった。
1章、どうだったでしょうか?
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ちなみに玲夜の復讐はまだ始まってません!
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明日は勇者たちの話、1話のみです。