15話 無職は追われる
本日2話目です
「うわぁぁぁぁ!? こっち来んな、アホンダラぁぁぁぁ。 キモいんだよぉぉぉ」
俺の後ろには豚面をした緑色の怪物が涎を垂らしながら何匹も群れで追いかけて来ている。
俺が逃げ出すことを決意させた例のやつ。
知能があほな奴が俺を追いかけてくる。
ゴブリンが。
「なんで追いかけてくるんだよぉぉ」
そんな風に問いかけてもゴブリンが答えてくれるはずもない。 ただそこに小憎たらしい豚顔があるだけだ。
こんなゴブリンたちとの(俺の)生と死をかけた、奴らにとってリスクゼロの鬼ごっこをかれこれ30分以上も続けている。
そのおかげで徐々にだが差は開きはじめていた。
俺のステータスが軒並み10なことには変わりはないし間違いもない。 だがそれがゴブリンから逃げられないということとイコール(=)ではないのだ。
そもそも勝てないと分かっているなら戦わなきゃいいだけだよな。
このままいけば何とかなるか……、あ、やばい、やったわ。 これフラグだ……。
そんな風に考えた瞬間シュッと耳の傍を何かが通り過ぎたような音がし、遅れて熱いものが側頭部から流れ出るのを感じる。
「え?」
右耳へと手を当ててみると、何かしらの液体が軽く流れているのを感じる。 赤い液体が手に付着している。 つまり俺の血なわけだ。
前を向いてみると小汚い手斧が地面へと突き刺さっている。
「痛っ」
だが、我慢できないほどじゃない、痛みには慣れているしな、青鎧のやつらのおかげで。
「追いつけないと分かって投擲してきたわけか。 なんだよ噂とは違って頭いいじゃないか、魔物のくせに。 てかフラグ回収してんじゃねぇよクソが」
後ろにゴブリンがいることは変わらないが、いつの間にかその手元に手斧を持っている個体が現れ始め、その数はどんどん増していってる。
軽く数十体ぐらいはいるんじゃないか……。 一体でさえ倒せないのに追い討ちをかけるようにその数がさらに増していくのだ、俺の胸中では不安も増していく。
だがそれが逆に俺にある決断をさせた。
「このままじゃいずれやられるよな……」
こっちのスタミナも無尽蔵というわけでない。 相手もそうだろうが、数が多ければそれだけ俺が不利になる。
闇雲に走ってもしょうがない。
「どこか障害物のある場所はないのか」
走りながら辺りを見回せば、斜め前方に見るからに怪しげな暗い雰囲気の森が広がっている。
しかし見つけたと同時に俺の直感が『絶対に入るな』と警告もしてくる。 さらに森へと行っても他の魔物に殺される可能性もある。 敵が増える可能性の方が高いはずだ。
だが、周りには他に障害物があって逃げきることが出来そうな場所は見つけられないし、救援が来るような見込みも俺にはない。
「座して死を待つというのは好きじゃないんだよなぁ」
行かないで死ぬか、行って死ぬか、それなら俺は……。
「やらないで死んで、ゴブリンに殺させれる間際に後悔するよりはいいよな、行ってみるかぁ」
残りの体力を振り絞り全力で森林へと向かう。
ようやく森に着く頃にはゴブリンたちとの距離は結構離れていた。
このまま森の奥に行って、木の陰とか、木の上にでも隠れてやり過ごしていればそのうち諦めて帰るだろう、そしたらまた他の街とかに向けて動き出すか。
数日間の森林でのサバイバルを決意した時、なにかキランと光るものがゴブリンどもの奥から見えた。
「うん? なんだ?」
目を凝らしてよく見てみると、ゴブリンたちのさらに奥から土煙が上がっていて十数人の青鎧を纏った人影も確認できる。 こんな所に青鎧を纏った十数人の集団なんて一つしか思いつかない。
「ちっ、クソ、もう、追いつかれたのか……」
思わず愚痴り絶望感に苛まれる。
いや、違うな、ここはよくここまで逃げ切れたと考えるべきか。
今の時間が昼の14時過ぎだから大体12時間以上、青鎧の騎士達から逃げ続けたことになる。 まぁ途中から追われる相手が増えてゴブリンにも追われているのだが……。
はは、モテモテだ、俺、もう嬉しすぎて目から汗が出てきた。
なんて冗談言っている場合じゃない……。
とりあえずさっきの案は却下、逃げるしかない。
俺は森林のさらに奥へと向けて歩み始めた。
森林の奥は予想通り、物々しい雰囲気が広がっていた。しかし不思議と生き物がいる気配がしない。 何故かは分からないが俺の本能がそう言っている気がするのだ。
だがそんな本能はすぐに別のことにかき消される。
「グギャァァァァァァァァァァ」
ゴブリンの悲鳴だ。 それと同時に人間の雄叫びのような声、武器と武器のぶつかり合う剣戟の音なども聞こえてくる。 どうやら、さっき俺を追ってきていたゴブリン数十匹と青鎧の奴らが森林の手前で戦闘になっているらしい。 逆に戦闘にならないほうがおかしいか……。 青鎧の騎士達の方が馬がある分スピードは早いのだ。
これはもしかして俺にとってチャンスなんじゃないか? 奴らが戦っている間なら俺の方への意識はゴブリンも青鎧も大分薄れるはずだ。 その間に迂回して森を抜け出て奴らとは別方向へと走ればあるいは……。
「時間との勝負だなこりゃ、持ってくれよ俺の体力」
考えるや否や俺はすぐに森を最小限だけ迂回することにした。
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