14話 無職は逃亡する
本日1話目です。
次話は12時に更新します。
ぶっちゃけて言えば、問題の大半は解決できている、
一番大きな問題を除けばだが……。
まず最初にするべきことは手足の縄を解くこと、縛られたまんまじゃ話にならないし。
しかし手首を縛られていて良かった、手首を縛られていて良かったというのもおかしな話だけど……。
何が良かったかというと、縄の縛られ方だ。
もし、これが手と足の親指同士を結ばれていたら本当にどうしようもなかった。 だが今の俺の状態は後ろ手に縛られていて足も同時に縛られているだけ。 ただそれだけだ、これは意外と抜け出すことができる……らしい。
何かの本か雑誌で読んだことがあるだけ。
抜け出す方法は意外と単純で、漫画とかサーカスの団員のように腕の関節を外したりという人間びっくり箱みたいなやり方をするわけじゃない。
まず縛られるときに腕にある程度力を込めるのだ。 すると腕の力を緩めたときにその分だけ縄が緩まるという方式だ。つまり縛られる時が肝なわけだ。
一応、俺もここ数日縛られるときにこの方法を実践してみていた。 奴らは最近サンドバッグにするときは縄を外してくれたおかげだ。。
だがこれが言うほど簡単じゃない。 まず力を込めすぎると叩かれるし、かといって弱すぎると後で抜け出せない。 力加減の調節が難しいのだ。
やっと出来るようになったのは、昨日のことだ。
その隙間を使って、まず腕の拘束を解き、普通に脚の縄を普通に解く。
これで手足は自由になれた。 さてと次は馬車からどうやって抜け出すかなんだが……。
まあこれもなんとかなる。
周辺の明かりは見張りの奴がつけている薄暗い明かりだけ。
何を使っているのかは分からないが。
とりあえずこの馬車から逃げたい……が、その前にしなきゃいけないことがある。
武器が欲しい。
後、欲を言えば地図とかあればいいが……読めないよな、多分、それはあきらめるか。
「2時か」
手元の腕時計で確認する。
確か見張りの2人がほかの奴らは別の場所で賭けをしているとか言ってたな。
「ってことは食料がある馬車のあたりか……」
奴らの馬車は全部で2つしかない。 俺を閉じ込めるため兼武器の予備などを詰め込んでいるこの馬車と、もう1つは食料など詰め込んでいる馬車。
殴られながら状況を確認した俺を自分で褒め称えたい!
馬車の中を物色していると、何本かの片手剣とダガー、それに小型の円形の盾があった。
やはり予備だからか武器の数自体はそこまで多くない。
「選ぶならやっぱダガーだよな」
ダガー2本ほど拝借する。
片手剣を選ばなかった理由は簡単だ、『扱えないから』。 使えない武器はいくら持っていてもしょうがないし移動の邪魔になる。
上記の理由で盾も却下。
ダガ―も扱えるとは言えないが……持ち運びやすいし邪魔になりにくいからな。
後はどうやって抜けるかだが……これも犠牲を払ったおかげで既に解決できている。
馬車の中はもう大体調べてある、自分の身体で。 調べた方法はゴロゴロ転がるだけだ。
日中にやればやつらに怪しまれることもないし。 馬車が動いている時には中は見られないからな。
ただその後の反動はデカかった……。 具体的には言わないが、路面の悪い中馬車の中をゴロゴロ転がればどうなるのかなんて自明だし、何より思い出したくない。
馬車を降りた瞬間、何回吐いたことか。 間違って降りる前にも何回か……。
いややめよう思い出すのは。
俺の尊い犠牲の結果、床の一部に腐りかけている箇所を発見したのだ。 そこを思いっきり蹴れば人が1人通れるぐらいは穴が空けられるはず。
一番の問題はそのときに生じる音なんだが……。 これはもうやってみるしかない。
思い立ったが吉日、早速やってみる。
腐っている部分にまずさっき拝借したダガーでゆっくりと丸く傷をつける。 そしてそこを思いっきりを蹴りつける。
いくらステータスの物攻が10でもそれぐらい出来るはずだ。 出来なかったらその時は時間は惜しいが地道にダガーで削っていこう。
若干不安だったが、さすがに大丈夫だった。
蹴った瞬間にバキッと音を立て、人が1人通れるぐらいの穴がなんとか空いた。
「おい、なんか音がしなかったか?」
やはり気づかれたか……。
ここで中を見られたらそこでアウトだ、大丈夫だとは思うがどうしても背筋に冷たい汗が流れる。
見張りの1人が音に気付くが、もう1人の見張りがそれを一笑に付す。
「あの男は時々ああやって音を立てるんだよ。 最初の何回かは俺も見にいってたんだけどな、中に入ったら特に何もしてなくて寝返りを打っていただけだったよ。 そもそもそれぐらいしか出来ないだろ? あんな風に焼豚のように縛られていたらよ。 足かなんかで蹴ったとしても所詮オールステータス10だしな。あ、HPだけは200だったか?? ギャハハ」
「わははっはっはは。 そんな言い方は失礼だろ、焼豚によ」
「お前も大概だなぁ、おい」
「しかし、ぶっちゃけ俺らは本当にいるのかね?」
「ああ、確かに、あんな雑魚警戒するに値しないよな。 でもそう考えると不思議な命令だよな、直接は殺すななんてさ」
彼らはさっきの破砕音のことなんて忘れてまた雑談へと興じ始める。
それを聞いて思わず胸をなで下ろす、しかし 好き放題言ってくれるよなぁ、事実だけど。
自分のステータスの弱さのおかげで逃げられるのというのは盛大に皮肉が効いている、まあ捕まったのもそのステータスのせいだが……。
まあいずれ復讐してやるからその時までせいぜい言っておくといい。
開けた穴から地面へと降りる。 見張りのいない側の馬車の下方へと移動し外の様子を覗き見る。
「はは、まるで忍者みたいだな」
ここまでは問題なかった、そりゃそうだ。 大体はシミュレーション通りだから。
解決できていない問題はここから。 それはつまり外にいるはずの魔物を如何に退けて又は逃げて、人のいるであろう町に着くか。
何の予備知識もなしに。
今までの道中にも町は何個かあった、最後の町を出たのが4日前だから明日か明後日には別の街に着くはずだった。 本来ならそこに入った瞬間に今の方法で逃げる予定だったんだが、ゴブリンの話を聞いたら流石にそういうわけにもいっていられない。
「とりあえず来た方向とは逆の方向に進むか。 明日の朝までに街につければいいが……」
俺は音を立てないように、慎重に闇の中へと向かって歩みを進め始めた。
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