107話 決着と横槍
すいません、昨日の夜出すつもりが寝落ちしました……
爆発する閃光。
周囲を埋め尽くす爆炎。
辺りは力の奔流で、雷鳴が鳴り響き、上空の雲は割れている。
それほどの衝撃。まるで、終末の世界。
付近にいたものは全て吹き飛ばされ、意識を失っているものも多い。
だから先に起き上がり始めたのは身体的に強靭な獣人たちは順当な結果とも言える。
だがそんな彼らですら身体を起こすことはかなわない。
「……ぅんっ」
勇者パーティーで真っ先に意識が戻ったのは夏希。
近くには秋人が倒れており、かなりの傷を負っている。
一瞬で意識が覚醒し、重い身体を引きずりながら回復魔導をえいしょうふる。
「我願い奉るは光の精霊なり、彼の者に癒しをあたえ、その者に安息を! 『ハイヒール』」
彼の周囲を新録の光が包み込みその傷を癒していく。
「ッ?! いつもより回復のスピードが遅い……っ!?」
平常時なら治癒していく傷も今は遅々としてすすまない。
ライガールへの特攻でもかなり無理な身体強化をし、そのうえで私を爆発からかばってくれた。
「ごめん、秋人」
気を失っている秋人へ謝りながら精一杯回復魔導をかけ続ける。
辺りを見れば戦場から遠かったイシュバルの兵が同じように重傷者を運んでいる。
「……柊は?」
辺りを見回して彼の姿はすぐに見つかった。
剣に手をつき片膝で荒い息を吐いてはいるがどうやら無事らしい。
だが視線は厳しいままで、その視線の先には爆発の中心点。
未だ警戒を解いていう様子はない。
でもまさか、あの爆発で生きているなんてそんなことーーー
ーーーじゃり。
音がした。
聞こえてほしくない方向から。
恐る恐る音の方角を見る。
爆煙が晴れ、見えた先。
「ッ?!」
思わず息を呑む。
ーーそこに、獣は立っていた。
ライガールの全身はボロボロで、傷ついていない箇所を見つける方が難しい。
だがその目は死んでいない。
むしろさっきよりも眼だけは爛々とし、プレッシャーは先ほどよりも増している。
まるで餓えた獣。
闘いを求める凶獣。
「ーーいい攻撃だったぜぇおい、がふっ」
血を吐きながらも、眼はこちらを放さない。
「ーーッ!?」
何とか剣を支えにして柊が相対する。
「ガス欠じゃないのかぁ?おい」
「あんたこそ!それにガス欠だからって逃げるわけにはいかないだろッ!!俺がみんなを守るんだっ!!」
「そりゃそうだなぁ!」
お互いの剣と拳が相対する。
まさにその瞬間。
ーーパシュン。
空気を斬るような音がしたのと同時、ライガールの肩から血が噴き出る。
「ーーぐふっ?!」
予期せぬ攻撃。
だが素早く近くに落ちていた剣を取り、音のしたほうへ投擲。
「……ちっ、頭を狙ったんだけどなぁおいっ?!」
聞こえてくるのは、今の今まで姿を消していた集団。
蒼血騎士団団長とその部下たち。
ライガールの周囲を包囲するように、陣形を整えていく。
その手には銃らしきもの。
「なんだそれは」
「今はそんなことどうでもいいだろうが、サッサと退きな、勇者の坊主ども。 ここは俺らが手柄を頂くからよぉ、あはははァッ」
「手柄なんぞ僕らは興味なんか」
「ああそうかよ!!いいからどけ餓鬼ども、ここは大人の時間だ」
蒼血騎士団の半数以上が集まり、ニヤニヤと戦場を眺めている。
「これが獣王の息子か、ボロボロだなぁおい!!」
「どうします、団長」
「とりあえず頭だけ持っておけばいいだろ、さぁいたぶる時間だぜ野郎ども!!」
一斉に銃らしきものを解きはなそうとした瞬間。
それは空から聞こえた。
「惑え、黒暗」
一気に黒の煙が張られ、戦場を覆いつくす。
「ちっ、早く払え!!」
蒼血騎士団団長の合図と共に風の魔導が張られ、黒暗を吹き飛ばす。
だがもうすでにそこにライガールの姿はない。
「おやおや若、なかなかにきつそうではないですかな」
後方にはライガールとそれを支えるようにして立つ一人の獣人。
「ホウか、お前こそ相手の指揮官を倒し切れなかったのか? 戦場に出なさ過ぎて衰えたのではないか」
「ほほほ、これは痛いトコロをつきますのぅ」
「まぁ軽口はいいか、さぁやるぞ!」
そんな軽口を奴らは叩いている。
こちらにそんな余裕すらないというのに。
だがそのおかげか、ノーラの兵たちは活気が戻りはじめている。
「まったく、若の戦闘狂にも困ったもんですな!! おぬしら、負傷者を運べ、ここは我ら二人で――」
「ーー報告です! 西より新たな軍勢が出現!! その数およそ3万。帝国軍の旗かと思われます!!」
「「なっ?!」」
敵味方どちらからも驚きの声。
「ーー大丈夫だ」
ポンと安心させるように肩を叩かれる。
「ブランさん」
「傷は大丈夫そうだな、秋人も休ませれば大丈夫だろう、俺らの役目はもうほとんどない」
「それはどういう……?」
ブランの顔は言葉とは裏腹に安堵した様子はなく……
「出来れば来てほしくなかったが、辛抱しきれんかったか。 まぁ今回は帝国軍は味方じゃ今回はな」
なぜか意味深にそうつぶやくブラン。
「最初から帝国もグルだった訳か」
「……なるほど、それなら納得も出来ますわい。 イシュバルにあんな非人道兵器作れるような技術力があるとは思えませぬからのぅ。裏で手を引いていたのですな」
「まぁこのタイミングで出てくるとは思わなかったが」
「美味しいトコロをもらいに来たんですなぁ」
まるで他人事ように話すふたり。
戦況を見れば両軍疲弊。
今ノーラをたたけば、損害少なく倒せる。
そう判断したのか。
なんて汚い。
それが率直に抱いた夏希の感想。
蒼血騎士団も、帝国もすべてが卑劣で醜い。
それこそノーラの方がよほど好感をもてる。
「おまえの気持ちは痛いほど分かる、だがこれもまた戦争だ」
ブランが悔しそうにつぶやく。
「……善意で助けに来てやったのにそりゃないぜぇ!いい付き合いをしてたじぁねぇか! 友軍を助けに来てやったんだ感謝しろ?」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる男。
「あれが元勇者パーティーで帝国の男――」
「じゃあ獣どもをちゃちゃっと殲滅と行くか、ちゃんと尻拭いはしてやるよッ!!」
その言葉を皮切りに帝国の魔導士は詠唱をはじめ、兵士は突撃の準備を始める。
正にノーラにとっては死のカウントダウン。
マナの機運が高まりいざ爆発するその寸前――
――「眠れ 氷棺」
そのすべてを沈めさせるような圧倒的な絶対零度が上空より顕現した。
とうとう奴らがやって来る……