103話 ブランの思惑
お待たせ!!
イシュバルとノーラの戦線は佳境に入っていた。
当初は奇襲作戦によって押していたノーラの兵士たち。
だがその勢いと言うのも、ザコーシやショーが中心となった人獣部隊によって、勢いはつぶされた。
むしろ萎え気味であった戦意を復活させられ、しかも10年前の戦争による気後れと言うものも消し去った。
人類でも十分に戦えると示した。
彼ら人獣部隊が本当に人間であるかと言う点はさて置いて。
だがその人獣部隊は先ほどパオリーによって壊滅状態。
人獣部隊がつくった勢いと言うものの冒険者ギルドの活躍によって火消はすんだ。
だが勢いという点でいえばまだイシュバル側にも分がある。
「……奴らなかなかにしぶといな」
イシュバルの本陣にてブランは一人呟く。
鎧の至る所に返り血のようなものや細かな傷がついており、ブラン自身も戦闘に参加してきたことが窺える。
「ええ、あの人獣部隊の攻撃は我らも横で見ておりましたがなかなかに苛烈でした。 我ら騎士団や各冒険者等、戦闘経験のあるものはまだよかったですが、各地のいわゆる数合わせで来たようなものは震えておりました」
それほどまでに人獣部隊の攻撃はすさまじく、両軍ともに与えたインパクトは大きかった。
「だがそのおかげで奇襲によって受けた分は取り返せたし勢いもついた…………だが」
調子のよかったのはここまで。
「ええ、しかし手詰まり状態ですな」
「ああ、戦闘は拮抗状態。 なんとか戦線を押し込めると感じた瞬間に奴が現れる。 基本的には押し込められてるんだがな」
「笑えませんなぁ」
「ああ、だがあと一押しだ。 奴らの精神的支柱は獣王とその息子、の二人。 我らを苦しめている獣王の息子さえ倒せば一気に戦況は傾く」
「……ではどうするので?」
「ここは1つ。柊たち勇者パーティーシキに出てもらうとしよう」
「シキ、ですか?しかし彼らは1度……」
奇襲作戦の時いいようにあしらわれていた。
確かにそれはそうだ。
だが……
「あの時とは状況が違う」
基本的にノーラ側は戦争開始時点でイシュバルの兵たちとは人数に差がある。
それをカバーするための奇襲であったが現状は差を詰められこそすれ、それでも有利なことに変わりない。
「ここらの辺りで奴らはライガールを筆頭にして一気呵成に攻め込んでくるしかない。 後ろで魔導士たちが定期的に風の魔導を使っていることからみても、毒の事にも気づいている。となるとこのままじゃじり貧なのは相手もわかっているはず。なればこそ奴らはその種族の特性からしても攻めるしかない」
状況としては完全に有利。
「まぁ勝率は6割といったところか」
「そうですか? 状況は相手側の詰みにも見えますが」
いや、とブランは頭を振る。
「以前にノーラと戦ったものたちならわかるはずだ、奴らの強さ、獰猛さを。1度だけ追い詰めたことはあったがその時の獰猛さは形容出来んかった!」
「この戦、全ての手札を使えば勝てはするだろうが、なるべくなら使いたくはない」
ブランや一部のもの以外作戦の全容を知っている訳では無い。
「勇者パーティー『シキ』とそれに白銀騎士団でライガールは対応してもらう、その他の軍はいつもより圧を強める。」
「しかしやつには腹心の部下が……」
「ああわかっておる、なればこそ……」
ブランの作戦に皆が耳を傾ける。
「わしが出る」
「総隊長が出るなんて!!」
「ならば私が!!!」
そんな周囲の言葉をブランは手を振って制す。
部下の気持ちも分かる、やつの強さを痛いほど知っているのだから。
ブランがやられれば一気にイシュバルの軍は崩壊する。
だからある意味これは賭けなのだ。
「みなの気持ちもわかる、だがなやつは獣王と同レベルと見ていい、そんなやつを抑えられるのはこの国でも数少ない。 なれば奴らを分断できる今こそ戦うべきなのだ、しかも相手も万全ではなく有利なのはこちら、だからこの作戦でいく。それが結果として早期に戦争を終結させることに繋がる。 だからこれは分の良い賭けなんだよ」
ブランはふっと笑みを浮かべる。
「そもそも俺自身、あの梟の獣人ホウには負けるとは思ってないからな」
ホウの名前は獣王と並んで、諸国にも知れ渡っている。
そこには指揮官としてでhなく、一人の武人としての顔もあった。
「話は聞いていたな? 柊、夏希、桜、秋人」
本陣の中に入ってきたのは柊と勇者パーティー「シキ」。
「はい、ブランさん」
代表して柊が答える。
「…………任せたぞ?」
余計な言葉はいらない。
そこにあるのは経った1年に満たない濃密な
「「「「はい!」」」」
「作戦は明日! 今語った内容を各々まっとうせよ!! それでは明日に向け英気を養え!!」
*
ブランの声を合図として皆が本陣から出ていく。
警備の兵を残し明日に備え身体を休ませるために。
そんな中、ブランは一人本陣に残り明日の作戦を練り直す。
「……なんだ? ローリー」
後方支援をするはずのローリー。
それがいつの間にか本陣の自身の後ろへと立っている。
「……勇者たちが負けた時の作戦案、ね。 相手が弱体化するまでねばる、ね」
「何か言いたげだな」
「あの毒の使用は君が?」
「……ああ」
「あの毒は獣人のみならず周囲の環境も破壊する、それにああいった類のものは条約違反のはずだけど? 今すぐやめるべきだ!!」
「獣人は人類ではない それにもう止められない、もう獣人側にたっぷり送り込んでいる!」
即答するブランに驚きを隠せないローリー。
「本気で言ってるのかい?」
そこで初めてブランはローリーの方を向く。
そこにあったのは軽蔑の視線。
「オマエこそなにを言っている? 勝つんだ、民のために。 勝ち続けねばならん。 今は帝国の手も借りねばならぬがいずれは自国で!! そのためにまずはノーラだ」
「……そうかい、僕はこんな方法で例え勝てたとしてもいずれ破滅するのは見えているけどね」
ローリーは去り際にそう言い残し、本陣を後にしようとし、
「待て」
ブランに呼び止められた。
「……なんだ――ぐふっ」
ブランの拳がローリーの腹部へと入りそのまま意識を刈り取る。
「意見をたがえたとは言ってもお前はは友だ。 だが今邪魔をされても困るの、だからおとなしく寝ていてくれ」
ブランは兵士を呼び、捉えておくように命じる。
その顔は苦渋にあふれていたが下を向いていた。。
(だがこれは必要なんだ、すべてはイシュバルの繁栄のために。民の安寧の為。 なれば俺は修羅にもなる)
顔を上げるとそこにあったのは覚悟を決めた一人の男の姿だった。
「」
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