98話 獣王の策略と勇者の成長
前半 獣王視点
後半 ブラン視点 になってます!
イシュバルが攻撃を仕掛けてるその少し前。
イシュバル軍とは違い、ノーラの兵は終始冷静だった。
適度な緊張、だが気負うほどではない、身体の力ががちがちに入っているということも無い。
「3キロ先にイシュバルの部隊を発見」
斥候の兵が本陣の部隊へと帰還して報告してくる。
「そうか、ご苦労。 少し休息を取れ」
「はっ!」
斥候は水と食料、それに幾ばくかの報奨金を渡しねぎらいの言葉をかけ下がらせる。
「どうやら敵は3部隊で左右に分かれ、そのそれぞれで大規模魔術の用意を企てているようです」
「ふむ……ここで攻めてもいいが、まだ距離はあるしのぅ、それならこちらも部隊は3部隊に当初の予定通り分け、その後防御魔術の展開し引きつけよ。ただその間に500の移動が速い別動隊を準備させ、相手が魔術を撃ったタイミングで裏から奇襲させようかのぅ、ただ引き際を誤らぬよう厳命せよ!!」
「命が最優先、ですか?」
「そうじゃが何か言いたいことでもあるのか?」
部下にそう尋ねれば、笑いと共に返される。
「いえ、陛下のその命令は昔から変わらずブレないな、とそう思っただけです、【一兵の命まで諦めぬ】ですよね」
「そこは曲げる訳にはいかぬのよ」
「でしたねぇ」
「思い出話に花を咲かせるのは後にするぞ、今は一瞬が命取りじゃ、ゆけスリング」
「はっ!」
思い出話をしていて幼なじみの関係から一点。
獣王とその臣下へと切り替わる。
この辺りの関係性切り替えは長年のコミュニケーションによるものと言える。
指示をスリングが出してから30分後。
「敵が1キロ先に出現!!その更に後方の魔術部隊より集団魔術の気配確認!!」
「備えていた防御結界の展開!次いで複合防御魔術を個々の部隊で展開せよ!」
矢継ぎ早に入る伝令に対して獣王は即座に対処していく。
防御態勢が出来上がり少ししてイシュバル側で声が上がる。
「放てぇぇぇっ!!大魔術火砲アスカロン」
敵将の掛け声とともにこちらへと向かって放たれた魔術砲。
当たれば絶大な威力を発揮する。
火、光、風。
水、光、風。
土、光、風。
3種の属性を混ぜ合わせ多大な威力を発揮する大規模集団魔術。
そんな大砲のような1撃が来ても獣王は動じない。
「心地よい攻撃じゃのう」
こちらの1部隊につき1発ずつ。
敵将の掛け声に合わせて、放たれた大魔術火砲アスカロンは1キロの距離を秒で超え、全部隊を覆う防御魔術に直撃。
1拍の静寂。
そしてその後に続く閃光と轟音。
チュドォォォォォォォォォンッっ!!!!
防御魔術の目の前の地形が変わっていく。
目の前の大地はえぐれ、閃光で辺りは何色にも染まっていく。
そんなかでも獣王はただ泰然としている。
「ひりつくなぁ、状況は?」
各隊から魔術で報告が即座にスリングへと伝わってくる。
「爆発の余波を完璧には防ぎきれず軽傷者はおりますが、部隊自体に目立った損害はありません!!」
「そうかそうか、それは僥倖。 ならば……」
「ご子息の開戦の合図を待つと致しますか」
スリングと獣王が奇襲部隊の様子を待とうとしたその瞬間。
イシュバル軍の側面から天を引き裂くような轟音と黒い旋風が巻き起こりイシュバルの軍の右側面をたたいた。
※
アスカロンを放った直後。
右側面から聞こえる轟音と突如巻き起こる黒い風の魔術。
あれは確か獣王の息子が得意としていた風と土の複合魔術。
つまり横からの奇襲の準備をしていたわけだ。
となると……
ブランが視線を前に向けると同時に見えるのはほぼ無傷の状態のノーラの兵。
「ノーラの部隊、ほとんど攻撃通っておりません!!」
攻撃が読まれていた、ということか。
その上での奇襲。
現状側面の兵は急なことでまだ対処が出来ておらずもろに直撃をくらってしまっており、陣形に穴が空いている状態。
そんな好機を獣王の息子が逃すはずがない。
「行くぜぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
我先にと突っ込んでくる大柄な男。
「勇猛果敢なのは獣王譲り、というわけか」
ブランは即座に指示を出す。
「後方の部隊から2000を右方の軍へ補充させろ!!」
これで兵の数は増やした。
次は……
「前方のノーラ軍進軍開始!!」
「そうくるだろうぜ!!」
生憎とまだ例のものをこの付近に撒いてから時間が経っていない。
故にまだ効果が出るのは先だろう。
「さぁ俺らが仕掛けた花が芽吹くその時までたっぷりもて付き合ってもらうぞ獣人共ぉぉぉっ!!」
獰猛な笑みをうかべるブラン。
その顔は獣を狩る狩猟者の目。
「怯むな、進めぇぇぇぇっ!!!」
聞こえるのは奇襲部隊のリーダーであろう獣王の子息ラーガイルの咆哮。
「あれの相手やれるか?」
ブランは後ろを振り向かないまま問いかける。
「……ええ、分かってます。 あの男は俺が倒します」
みんなを守るために……。
「違うぞ?」
そんな柊に待ったをかけたものたちがいた。
「私たちは柊君に守ってもらうだけじゃないよ」
「ちゃんと私たちも頼りなさい?」
そこにいるのはシキの面々。
「柊、お前はなんでも1人で抱え込みすぎだ」
ポンとブランは柊の肩をたたく。
「4人で勝ち抜けばいいんだ、それで命が守れるなら結果は変わらんだろ? いいか? 返事!」
「「「「はい!!!!」」」」
「行って、その成果を見せてこい!」
柊たちの背中は冒険者として成長していてその背中は逞しくなっている。
故に、
なんで裏切ったんだサーラ。 お前は彼らの成長を楽しみにしていたんじゃないのか!!! この戦争にいればお前は彼らの……
そんなありもしない現実をブランは思わず考えずにはいられなかった。
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