97話 勇者の教官と開戦
「聞けい!!!」
5万人の人数がいる中でもとどろく野太い声。
天まで届きそうなその声は、浮足がちな兵の一端までよどみなく響く。
「今日、我々は他種族国家、いや野蛮人の国ノーラへと出陣するッ!!!!!」
ドン!!!
ならされる太鼓の音。
その音の迫力に柊以外は一様にビクッと身体を震わせ、苦笑する。
そんな中。
ただ一人。
柊だけは皆の前に立つ、ブランの姿を一心不乱に見つめていた。
「かの国に、我々は10年前に1度接戦の末ではあるが、苦汁をなめさせられている。 なぜか!!! 弱かったからだ!!! 奴らの野蛮な攻撃をはねのけるほどの力を我々はその時まだ有していなかった!! だがっ!!! 」
ブランはそこで言葉を止め、一拍間を置く。
兵の隅から隅までゆっくりと見直し、
「今は違う!!!!!」
ドン!!!
「我らは力を手にした!! 過去最高ともいえる騎士団、過去最高ともいえる兵器!! そして魔法技術の上昇、そのどれをとっても過去に類をみない!!」
「故に!!!」
「我々が負けることは有り得ない!!!」
「「「「オォォォァォ!!!!!」」」」
「我らが負ければ国土を失う!!!」
「我らが負ければお主らの家族が蹂躙される、搾取される、今以上の苦しみを味わうことになる!!」
ここにいる兵たちには正規の兵員以外にも平時には農民等をやっているものたちも含まれている。
戦争と一口にいっても実感の湧かないものももちろんいる。
かつて戦争があった頃に子供だったものとかが特にそうだ。
だからこそブランは口上を告げる。
「お前らの家族は誰が守る、国か? 俺か? …………違うだろう!!!」
一人一人兵の一人一人の目をくまなく見るように、睥睨するブラン。
それに呼応するように一心不乱に見つめる兵たち。
「己の家族を守るのは己自身だ!!!勝て!!! 勝てば!!武功を上げれば!!!褒賞がある!!!家族を楽にさせられる!!!」
「なればこそ!!!この戦、野蛮な獣共に我らの勝利を見せてやろうぞ!!!」
一瞬の静寂。
そして巻き起こる怒号。
「「「「「ウオォォォォォォォォォォォォ!!!!」」」」」
今この瞬間イシュバルの兵5万人達は1つになった。
※
「さすがはブランさんですね」
壇上を降りたブランに向かって柊が声をかける。
「そんなことはないよ、前同じように指揮していた人のを真似ただけだ」
ブランさんは照れるたのか顔を背ける。
「こんな大層なことを言ったが結局は国のために兵を死地に送り出しているだけだしな」
その声は少しの憂いを帯びていて。
「だからこそ!死なないようにまとめあげてみせる!!」
次の瞬間には前をブランさんは向いていた。
「……お前にも期待しているからな?」
「はい!」
その会話の2日後。
戦場にはいままでよりも緊張感が満ちていた。
既にいつ敵の姿を確認して戦闘に発展してもおかしくない状況。
イシュバルの布陣は中央に2万の軍。
左右にそれぞれ1万。
バックアップとしての1万の合わせて5万。
ノーラ、目掛けて進行。
事前に周囲の村には通達してあったこともあったため周辺住民の避難も完了している。
「後は戦うだけ」
敵は3万。
数の上では勝っている。
が、決して油断は出来ない。
前回の戦いでは負けた。
無論ブランもその敗戦は経験している。
(奴らの個人の能力は高い、連携して近づかれて前回はやられた)
「そうか」
まずは近づかれる前に戦力をダウンさせるのが最善。
「隠蔽させていた魔術隊準備はどうだ?」
「何時でも撃てます」
ブランの近くにいた部下が報告してくる。
「そうか!…………ならそろそろ10年前の戦争の続きをいやリベンジを始めようか、獣人共」
すぅ、と息を吸って今日1番の声を張り上げる。
「放てぇぇぇっ!!大魔術火砲」
ブランの掛け声とともに放たれる魔術砲。
100人の魔術師が息を合わせ、詠唱を紡ぐこの集団魔術は発動までに多大な時間がかかるがその分威力は絶大で射程距離も長い。
そして当たれば絶大な威力を発揮する。。
火、光、風。
水、光、風。
土、光、風。
その3種の属性を混ぜ合わせ多大な威力を発揮する大規模集団魔術
3種の大魔術火砲」がノーラの軍隊へと向けられる。
目算として、獣人は中央と左右にそれぞれ1万ずつ。
その全隊に向けて1発ずつそれぞれの属性のものを放つ。
ブランの掛け声に合わせて、放たれた!大魔術火砲は1キロの距離を秒で超えていきノーラの兵たちに直進していく。
1拍の静寂。
そしてその後に次ぐ閃光と轟音。
チュドォォォォォォォォォンッっー、!!!!
地形が変わるほどの一撃。
大地はえぐれ、閃光であたりは赤くも青くも何色にも染る。
その攻撃はそれぞれの属性を表していてる。
「や、やったんでしょうか!!」
「それで済んだら楽だがな。 さぁ開戦の狼煙はあげたぞ? どうくる野蛮人共」
ブランは土煙の中、見えないがそこにいるであろうはずのノーラの兵に向けて不敵に笑っていた。