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閑話⑮ 勇者たちの戦争

4章開始です!

 

 柊の目前に控えるは5万の軍勢。

 そのすべてがイシュバルの兵。


「壮観な眺めだ」


「そ、そそそうだねぇ」


「5万か、すごいな」


「この人たち全員が今から戦うのね……」


 思い思いの感想を述べる勇者シキの面々。

 桜に限って言えばかなり動揺しているのが言葉の端々に出ている。


「そうかそうか、お前らにとってはこの人数がそろうというのは初めての経験か。 といっても俺もここまでの数は初めてだけどなぁ!!!」


 がははと殊更豪快に笑うブラン。


 現代人である柊達からしたらよく聞く数字。

 それこそ棒動画サイト等においてはそこまで珍しくもない数字。

 日本のトップ層になれば1000万人近くもいるらしい。

 それに比べたら、5万人なんて大して大きい数字ではない。


 だが柊たちが知っているそれはあくまでインターネット上の見えない虚飾の数字。

 実態の見えない数字。

 戦争に行く決死の顔をした5万人の男たちと言うのは見たことがない。


「これから戦争に行くんですね……」


「ああ、これまでにない戦いになるだろうな」


 だが、とブランは言葉を続ける。


「心配するな、俺たちがお前を守ってやる!!」


 何の根拠もない言葉。

 実際戦場に出たらブランさんの眼が届かないこともあるだろう。

 だけど、そのブランさんの言葉にいつも励まされてきた。

 ダンジョンに行った時も、死にかけた時も。

 いつもいつも。


 だけど。


「何言ってるんですか、ブランさん。 今回はこの戦いでは僕がブランさんを守りますよ!」


 いつまでも彼の庇護下にいていいわけじゃない。

 そのための冒険者への加入であり、あの城から出た理由。

 たぶんブランさんたちも俺らにそれを促したかったんだと思う。

 でも自立を促すようなこと言って、護衛とかをこっそりつけてくれてたりするけど。


 そんな柊の決意の決まったような、そして全てを背追い込もうとしている目。


「なにバカなこと言ってんだ!! まだまだひよっこに守られるほど俺らは落ちぶれちゃいねぇんよ!!」


「そうだぞ、柊。 それにみんなも! 確かにお前らは強くなった。それはここにいる教官たちも、城にいるものも、それに冒険者ギルドのものもみながそれを認めている。 だがな!! ここで最優先なのはお前たちの命だ。 俺らを守るよりもまず守るべきは己の命。 俺らの命守る余裕あったら一人でも多く敵を倒してくれ、それが結果的に俺らを守る事にもなる」


 タントの声にブランも続く。


「でもいいか? まずは生き残れ! これは戦争だ、一人の力でどうこうなるようなものじゃねぇからな。 だからそんな今から肩肘張ってたら戦争前に疲れちまう――――――ぞっ!!!」


――――バンっとブランにケツをたたかれる。


「んぅっ!?」


 それに続いて、タント、ミシャスと続いていく。

 本来ならここにはランダさんとそして、サーラさんもいるはずだった。


 だが今はいない。


 それでもこの3人の背中は頼もしい。

 

「お、久しぶりだな」


 前を歩くブランさんたちに追いつこうとしたら、後ろから声をかけられた。


「ミリアさんっ!?」

「何だお前たちその顔は」


 心底不思議そうに首を傾げている。


「怪我は大丈夫なんですか!?」


 彼女が率いる白銀騎士団は災厄の魔女と遭遇し被害を被っていたはずだった。

 その窮地を【賢者】であるローリー様が何とかしたらしいけど。本人曰く「僕は何もしてないよ、見逃されただけ」と仰っていた。

 ミリアさんの実力を知っている僕達は未だにその事実が信じられない。

 だが事実は事実。

 この世界にはそう言う人外もいる。

 それこそ魔王とかも、そのために俺たちがいるんだから。


「怪我は大したことは無い。ただまぁ団員のケアは大変だったな……」


 珍しくミリアさんが弱音を吐いた。


「それほどまでだったんですか?」


「ああ、あんなに強い敵は初めてだった」


 言葉とは裏腹にミリアさんの言葉には悲壮感はない。


「だが次あったら勝って見せるさ」


 闘志がその目には宿っていた。


「強いんですね」


「それは皮肉か?」


「いえそんな意味では?!」


「ふっ、そう慌てるんじゃない冗談だよ」


 ポンポンと肩をたたいてくる。

 話は終わり、ということだろう。

 そう思って柊たちも自分の持ち場に行こうとして、


「あ、そうだ言い忘れてた」


 ミリアさんに呼び止められる


「はい?」


「柊、秋人、桜、それに夏希」


「死ぬな、生きろ!逃げることは恥じゃない、生きることがまずは戦争に置いて重要だ!国との戦争なんてクソ喰らえだ。そもそも君らには関係ないんだから、だからそんな気負うな」


 じゃあな、と言って闊歩していくミリアさん。


「……死ぬな、か」



 ミリアさんもブランさんも皆同じことを言うんだな。


「こりゃ死ぬわけにはいかないわね」


「おう!もちろんだ!」


「み、みみんなでがんばろ!」


 夏希、秋人、桜。

 その表情はまだ緊張しているのか少し顔が硬い。

 でも俺はお前たちの笑顔が見たい。

 放課後のクラスで他愛もない話をしたあの頃のように。


 俺はお前たちとの平穏だった日々を取り戻したい。


 だから。


「俺が倒すよ(守るよ)


 柊の目は、盗賊を倒した時のように暗く澱んでいた。


「柊君……?」


 そんな柊の一瞬だけ変化した様子を桜だけは見逃さなかった。



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