91話 無職と魔女は式典へと赴く
「マジで、次の日に式典あったよ……」
げんなりとした様子で玲夜がつぶやく。
「逆にないわけないでしょ、これでなかったらいくら武力で認められる獣王とは言っても、礼儀知らずの無法者と他国に呼ばれてしまうわ」
「……そらそうか、で、ゼニス。 離してくれない?」
「離したら逃げるじゃない」
「そ、そんなわけないだろう?」
「あら? 今朝のこと忘れたの?」
今、俺とゼニスの手には見えない鎖でお互いの手首に繋がっている。
一定の距離まで離れることは出来るが、設定した距離を俺が超えようとすると強制的にゼニスの方に引っ張るという魔法だ。
これ罪人とかが逃げないようにするんだろきっと、てことはえ? 俺今罪人?
「……何のことだか」
「あなた、性懲りもなくサーラを自分の代わりに見立てようとしたわよね。 「仮面付けてればばれないだろ」とか適当なこと言って」
「…………まぁ結局俺が来たわけだし?」
じとーっとした目で見られるが気にしない、シタラ負けだ。
そしてサーラは本当に置いてきた。
やはりこれから戦争するであろう国のやつが混じってるのはなにかと不味いからな。 もちろんこの国にも人もいることにはいるが、サーラは元勇者パーティーの教官。
どこかで顔を知られている可能性も高い。
そんなリスクを負ってまでわざわざ来る必要はない、それに招待されたのは俺らだけなわけだし。
と言うことで宿屋で留守番というわけ。
「……もういいわ、結局来たわけだし。 それにしてもほんと往生際が悪いわよね」
大事なのは仮定じゃなくて、結果。
「諦めが悪いのが特徴なもんでね」
「発揮する場所間違えてるわよ」
「はいはい」
「ちょっとお二人とも!! もう少し緊張感を持ってください!!」
「おぬしらはほんとどこ行っても平常運転じゃなぁ」
パオリーも今回はついてきている。
一応あれでもギルド長らしいからな。
「ギルド長だからきたのか?」
「そうじゃ、お主らが倒したあやつなわしの管轄内での出来事。もちろん報告等はしておるが式典等になると引率として呼ばれておるのじゃ」
「引率? おいおい子供のお守りかよ。 全然大丈夫だから気にすんな?」
全く小学生の遠足じゃないんだから。
心配性な爺さんだなほんと。
「……まあまあそう邪険にするでない。一応じゃよ一応、それにお主らはこの国のしきたり等について詳しいわけではあるまい? それに少し常識知らずのところもあるしの。 あぁ別にそれが悪いと言うてるおるわけじゃないぞ? ただいざって時の保険じゃよ保険」
「じゃあお言葉に甘えるとしますか、頼むな?」
「な、何でもフォローできるわけじゃないぞ? マジで頼むぞい?? っとお呼びじゃな」
今俺らがいるのは玉座の間の前。
大きな門の前に立っている訳だ。
とは言ってもイシュバルの時のように無駄に荘厳なものではない。
最低限品格を損なわない程度で質素でそれでいて質実剛健。
そう言えばこの体験二度目だったな。
あの時は4人の後ろについていたが今回は違う。
俺が、俺らがメインだ。
メインになってしまった。
あの時は言葉も何もわからなかった。
そんなどうでもいい過去の記憶を思い出していた。
「……おっ」
「へぇ?」
次の瞬間には部屋の雰囲気が一変した。
もう雰囲気だけで誰かなんて言われなくても分かった。
「獣王様がおいでである!!」
家臣の誰かが名前を告げる。
名を呼ばれその場から式典が行われている広間を睥睨する獅子の獣王。
控えろ、などとう無粋な言葉は必要ない。
王たるものが、その強烈な個性によって他者を圧倒する、王としてのあるべき姿。
誰もが頭を垂れ、崇拝する。
正に地球で呼ばれていたかのような、百獣の王がいるべき場所の正しい姿。
…………2人の例外を除けば。
「まぁまぁじゃん?」
「昔の獣王より強いわね、前の獣王もなかなかに強かったのだけど」
2人してまるで他人事のように感想を述べる。
恐怖もプレッシャーも何一つ抱いていない、場違いなまでに呑気な声。
獣王の眼がぐっと細められる。
プレッシャーがグン、と増える。
が、二人は意に介した様子もない。
「……ははは!! おまえら強いな!! これにも屈しないか!!?」
万との上からでも分かるムキムキな獣王の肉体。
3メートルに近いほどの巨躯。
長く伸びた髭に触れながら快活に笑う獣王。
「おほめいただきどうもです」
それに対していつもよりは礼儀正しく対応する玲夜。
「ははは、これならあの魔物化した男が負けるのもうなずけるわい。 そなたら二人ならあれは子供の悪戯みたいなものだろう!! 正直相手にすらならん」
「………」
「して今日呼んだのは、そのことに対する褒美を与える為じゃ。 あの男がわしら基準で弱いとはいえ、他のものに比べたら脅威なのは確かじゃ、 それにあ奴がまいておった毒を早期に解決してくれたのも大きい、あれが出回っていたら一般の民に大きな被害が出ておったはずじゃ」
まぁ確かに、それでファナの母親も被害を喰らっている訳だしな。
「それで何が望みだ? 領地を渡そうか? おぬしらほどのつよさなら渡しても問題なかろう」
領地……ねぇ。
「いや領地はいらない」
「私もいらないわ」
「ほぅ、ならば何が欲しい?」
何が欲しいねぇ。
何が欲しい、欲しい、欲しいねぇ。
うん、何ほしいと言われても困るぞうん!
『私は今特にほしいものはないわ、しいて言うなら今この自由さで十分よ』
念話でゼニスも俺と同意見のことを伝えて来る。
『んじゃ困ったな』
「…………ふむ、悪いが特段ないな。 あぁしいて言うなら各地、それこそ全世界を回る時に身元を保証してほしい、ぐらいか?」
「…………それはこの国に今後ずっととどまるつもりはないということか?」
「そうだな、ずっといるつもりはない」
暗に余計な工作をするんじゃないぞ、と伝えている。
「ふっ分かっておるわい。 ワシはこざかしいことが嫌いじゃ。 よかろう、わしらが身元は保証しよう、丁重に扱うように、とな。 だがそれだけでは足りん。 報奨金も受け取ってもらおう。 金を入用じゃろ?」
話の分かる獣王だ。
「そうだな、あれば困らないしな。そちらの気持ちはありがたくいただこう」
「ははは、気持ち、な。 難儀な言葉をつこうてまぁ。 これでは金を出し渋れないの」
「そもそもそんなことするつもりないだろ?」
そこまでわかって居ったかと苦笑する獣王。
「よし、それじゃ褒美的な話はここまでじゃ。 それこれは余談なんじゃが……」
そこで獣王の眼が、がらりと変わる。
王しての眼ではなく、一人の武人としての眼。
「わしと1戦、やり合おうではないか」
今にも戦いださんとする獰猛な目が玲夜をとらえていた。
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